食品安全情報blog過去記事

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2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンに関するAFCパネルの意見

Opinion of the Scientific Panel AFC related to 2,2-BIS(4-HYDROXYPHENYL)PROPANE
29 January 2007
http://www.efsa.europa.eu/en/science/afc/afc_opinions/bisphenol_a.html
AFCパネルは食品と接触するプラスチック製品に使用されるビスフェノールABPA)の再評価を諮問された。

食品と接触する物質への使用
BPAポリカーボネート(PC)やエポキシフェノール性樹脂の製造に使用されるためある種の食品と接触する物質中に含まれる。PCは哺乳瓶や食器、電子レンジ可能な調理器具、保存容器、再利用可能な水やミルクのビンなどに広く使用されている。またPCは水道管にも使用されている。エポキシフェノール性樹脂は食品や飲料の缶の内部保護材やガラスビンなどの金属のふたのコーティング剤として使用されている。エポキシフェノール性樹脂はさらに住居用飲料水貯蔵タンクなどの表面コーティングなどに使用されている。

BPAへの食事暴露
今回の評価では食事からの暴露のみを考えた。成人・乳児・子どもについて保守的摂取量推定を行った。推定摂取量は表1に示す。

(最も高い推定で、PC哺乳瓶を使って市販の食品を食べる6ヶ月乳児の場合の13(50microg BPA/乳児用ミルクで推定)および8.3(10microg BPA/乳児用ミルクで推定) microg/kg体重/日)

BPA代謝物の尿中排泄量から推定したヒト暴露量は一般成人で最大7 microg/日で、範囲は米国で10 microg/日(体重60 kgの場合0.16 microg/kg/日)、日本の0.04-0.08 microg/kg/日までである。尿中排泄からの推定と食品摂取量からの推定で違いがあるのは保守的推定のためであろう(食事摂取からの推定量が多い)

先の評価
2003年にEUBPAのすべての摂取源からのリスク評価報告書を発表した。また食品由来のBPAについては2002年にSCFが評価している。SCFはBPAのNOAELを動物でのデータから5 mg/kg体重とみなした。この値は最低1 microg/kg/日までの用量を使ったラットにおける3世代生殖試験により得られたものである。SCFはこれに不確実係数500を採用して暫定TDI.01 mg BPA/kg bw/dayを導いた。その後BPAの毒性について低用量影響についてのものを含む多くの論文が発表された。
今回の再評価では先のSCFの評価を生かしてBPAの生殖と内分泌系への影響に焦点を絞った。
BPAは経口摂取した場合ほかの経路に比べて生物学的利用度が低いため、リスクアセスメントには経口投与の実験データが最も適切であると見なされた。

トキシコキネティクスとトキシコダイナミクス
BPAの新しいトキシコキネティクスデータからは齧歯類とヒトには体内動態に大きな違いがあることが示された。ヒトや霊長類では経口から投与されたBPAは腸壁や肝臓の初回代謝で速やかにBPA-グルクロニドになり、BPA-グルクロニドは内分泌攪乱活性はなく、速やかに尿中に排泄される。半減期は6時間以内である。従ってヒトや霊長類ではBPAの生物学的利用度は非常に低い。
ラットでは経口投与されたBPAは同様に主にBPA-グルクロニドになるが、これは肝臓から胆汁経由で腸管に排泄され、腸管でBPAとグルクロン酸に解離してBPAが再吸収される。齧歯類ではこの腸肝循環によりBPAの排泄が遅くなる。さらにラットではグルクロン酸抱合が主要代謝系路であるがマウスでは低用量投与の場合にはエストロゲン活性の高い酸化代謝物ができることがわかっている。さらにマウスとヒトでは妊娠の生理とエストロゲン感受性に大きな種差があり、マウスが特にエストロゲン感受性が高いためBPAのような弱いエストロゲン様物質に影響されやすい。

毒性研究
先のおよび最近のBPAの研究をレビューし、AFCパネルはNOAEL 5 mg/kg体重以下の投与量での行動や生殖系パラメーターにBPA投与群と対照群で差があるという報告をいくつかみつけた。しかしながらそうした報告の確からしさと生物学的な意味の両方に疑問がある。ある報告では、変化は微細で成長すると無くなっている。また報告された差の生物学的意味は不明であり、たとえば精巣重量の微細な増加は病理学的変化の前兆とはみなされない。一部のバイオマーカーの変化は感受性の高い種での何らかの影響を示すものかもしれないが、直ちに有害影響と解釈できるものではない。
また一部の低用量影響を報告したものでは単一濃度でしかなく用量反応相関データがない。また動物数が少ない・多数の交絡因子の影響などで一貫性のないデータがでている。
リスクアセスメントに使用するには適切な動物数と適切な用量の試験が必要である。いわゆるBPAの非直線的影響に関連して、AFCパネルは、ホルモン影響の用量反応ではU字や逆U字の用量反応曲線はよく見られることであり、単一用量でのみの反応が必ずしも投与した物質による影響であることを示すものではないことを注記する。U字の用量反応曲線を確実に証明するには適切な投与量の幅が必要である。幅はふつう10倍以下であり最近の研究報告にあるような1000倍では駄目である。
さらに低用量影響を報告している研究では、ガイドラインに沿った適切にデザインされた試験での結果と異なる。従って文献ではBPAの低用量影響については矛盾したままである。(低用量影響は存在が証明されていない)
結論
AFCパネルは齧歯類におけるBPAの低用量影響は示されていないと考える。さらに代謝の種差があるため、齧歯類での低用量影響があったとしてもヒトへのリスク評価に適用できるかどうかは疑問である。さらにマウスはエストロゲン感受性が高いためモデル動物としては不適切である。
こうした理由でAFCパネルはBPAのNOAELは5 mg/kg体重、不確実係数100で完全TDI 0.05 mg BPA/kg bwを設定した。
暴露推定では保守的推定でもTDIの30%以下である。この推定では食品を電子レンジで温めた場合の容器からの溶出や水道管や水貯蔵タンクからの溶出分は含まれないのでそのようなデータがあれば有用であろう。