食品安全情報blog過去記事

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テレフタル酸の変異原性についての声明

Statement on the Mutagenicity of Terephthalic Acid
December 2007
http://www.advisorybodies.doh.gov.uk/pdfs/tpa07.pdf
背景
1. テレフタル酸テレフタル酸ポリエチレン(PET)製造の出発原料である。PETは飲料瓶などに使用される。
2. テレフタル酸が食品と接触する物質から0.7 mg/kg食品以下の濃度で食品に溶出することがわかった。ヨーロッパ規制では食品と接触する物質からの溶出は特定移行量制限(SML)として規制されておりテレフタル酸については 7.5 mg/kg食品である。

これまでの評価
3. 2000年10月にCOTは缶のコーティング剤から食品への溶出調査を元にテレフタル酸の健康影響を評価した。COTは調査の結果食品中に検出されたテレフタル酸濃度は入手できる情報から判断して公衆衛生上の懸念とはならないと結論した。しかしながらCOTは長期試験において最高濃度のテレフタル酸(餌で5%、2.5 g/kg体重/日に相当)を与えたラットでの膀胱腫瘍の件でCOMにこの物質のin vivo遺伝毒性の可能性について検討するよう諮問した。
4. 2001年11月にCOMは限られたデータをもとにテレフタル酸の変異原性について検討した。いくつかの細菌試験を含むIn vitro試験では、陰性の知見が報告されてはいたが試験方法が不適切だったりしてデータの質は悪かった。全体としてCOMは、細菌の試験では、限られたネズミチフス菌系統ではテレフタル酸は変異原性陰性であるとした。繊維芽細胞を用いたIn vitro細胞遺伝学試験についても検討した。2 mg/mlで48時間暴露では陰性であったがこの試験系では代謝活性化の影響についてはわからない。さらにより短時間での影響も調べられていない。最後にICRマウスで行われたin vivo小核試験の結果を評価した。この試験は現状の基準に従って行われていたがトキシコキネティクスデータに欠け、骨髄への直接暴露を測定したものではない。しかしながら幾分かの毒性徴候が見られ、被検物質が全身血流から吸収されていることを示唆し、用量選択が間違っていないことを示唆する。
5. COMは限られたin vitro試験データとトキシコキネティクスデータのないin vivo小核試験の結果からテレフタル酸の変異原性を決定することはできないと考えた。そこでCOMはラット発がん性試験における膀胱腫瘍が非遺伝毒性メカニズムによるものであるという明確な結論を出す前にほ乳類細胞における適切なin vitro細胞遺伝学的試験が必要であるとした。
6. その後COTが多世代生殖毒性試験の結果を評価した。最大20g/kgのテレフタル酸を含む餌を2世代にわたって投与したところ、生殖能には何の影響もなかったが腎と膀胱の組織に変化が見られた。COTの依頼によりさらに組織学的評価が行われ、これらは移行上皮過形成、膀胱炎、炎症性又は単核球浸潤と出血であった。専門家委員会の報告ではこれらの変化は20 g/kgでの投与物質の膀胱粘膜に対する刺激作用によるもので、これより低用量を投与した動物では何の影響も見られなかった。COTはこの解析結果に満足し、NOAELを425 mg/kg/dayと設定した。しかしCOTはCOMによりテレフタル酸の変異原性評価が出るまで最終報告は行わないとした。

提出されたデータ
7. 2006年5月にCOMはBP Chemicals Ltd社からデータを受け取った。

マウス代謝研究
8. マウスの小核試験で骨髄暴露がどれくらいだったかについての代謝研究データが提出された。
9. 投与された物質は吸収されて全身血流に乗り広く分布して急速に排泄される。
10. 組織濃度は動物により違いがある
11. この研究は標的臓器での暴露両推定にはあまり役に立たないが予備的試験で全身毒性の証拠が得られた。

不定期DNA合成試験(UDS)
12. 小核試験を補うための二番目のin vivo試験が提出された。2000mg/kgの単回経口投与で雄のAlpk:APfSD ラットの肝臓でのUDSを評価した。
13. 試験は適切で結果は陰性である。

in vitro 細胞遺伝学的試験
14. 当初のCOMの要請通り、ヒトリンパ球を用いたテレフタル酸のin vitro細胞遺伝学的データが提出された。最初の実験では50、 250、 500microg/mlのテレフタル酸がS9の存在・非存在下で用いられた。テレフタル酸が培地のpHを変えるため最大で500 microg/ml(この濃度でpH 7.1を6.74)になった。
15. 標準試験に続いて2つの独立した試験が行われた。
16. いずれの実験でも用量依存的な分裂指数の減少が見られた。S9の代謝活性化なしの条件で20時間培養後に異常細胞の割合の有意な増加が見られた。これらの試験ではテレフタル酸に染色体異常誘発性がある。
17. 二番目の試験ではテレフタル酸のナトリウム塩が用いられた。この場合培養液のpH低下がないため最大で2100 microg/mlが使用された。最初の試験同様 S9存在/非存在下での培養が行われた。
18. 対照群に比較してS9代謝活性化存在/非存在3時間培養後に、僅かではあるが統計学的に有意な以上細胞の割合増加がみられた。これは濃度に依存せず歴史的対照群の変動の範囲内であった。処置により分裂指数の減少はなかった。この報告の著者はテレフタル酸ナトリウムに染色体異常誘発性はないとしている。さらにテレフタル酸の陽性知見はテレフタル酸によるものではないと主張している。
19. いずれの試験もGLPに準拠しOECDガイドライン473に則って行われた。陽性対象も陰性対象も適切であった。
20. COMの委員には、テレフタル酸の陽性知見がpHの僅かな低下により完全には説明できないことに懸念がある。二番目の試験は陽性とは言えないが、対照群で低頻度の異常があるためテレフタル酸に全く影響がないとは言えない。中期の細胞100個を数えているが、データを解釈できるよう200個に数える数を増やすべきだとした。
21. これらの追加データは2007年5月に提出され、メカニズムは不明であるがin vitroでの弱い染色体異常誘発性が示唆された。しかし対照群の数値が歴史的対象よりかなり低いため、解釈は困難である。これは陽性作用とは言えない。

結論
22. COMは、in vivo試験は適切であり陰性であり、テレフタル酸はin vivo変異原性物質ではないことを示しているということに合意した。入手できる根拠は、ラット発がん性試験での膀胱腫瘍は遺伝毒性によらないという先のCOMの結論を支持する。