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大規模国際研究により肺がんの遺伝的素因が同定された

Large international study identifies genetic predisposition to lung cancer
02 April 2008
http://www.iarc.fr/ENG/Press_Releases/pr183a.html
Natureの4月3日号に、肺がんの遺伝的要因を理解するための大きな発見の論文が発表された。国際研究チームが初めて肺がんリスクに関連する重要な遺伝的領域を明らかにした。この研究はこれまで行われた肺がんの遺伝的研究の最大規模のもので、半分が肺がんの18ヶ国1万人以上のヒトが参加しIARCが主導したものである。
肺がんは世界で最も多いがんによる死亡の原因で、毎年100万人以上が肺がんと診断されている。これまで共通の遺伝子変異は知られていなかった。肺がんリスクと関連するDNA変異を検出するために二段階の方法がとられた。最初に2000人の肺がん患者とがんでない2500人の全ゲノムに渡る30万以上の変異の頻度を比較した。次に特に頻度の違うものについて別の患者2500人と対照群4500人について、関連を確認するために比較した。
この二段階の方法により、対照群に比較して特に患者に良くあるDNA変異を含むゲノム領域が同定された。これらのDNA変異を1コピーもつ人々は(ヨーロッパ人では2人に1人)、そうでない人に比べて30%肺がんになりやすい。この変異を2コピー持つ人々は(ヨーロッパ人の10人に1人)80%肺がんになりやすい。
この肺がんリスク変異を含む小さなゲノム領域にはニコチンやその他のタバコ毒素と相互作用するいくつかの遺伝子を含む(ニコチン様アセチルコリン受容体遺伝子)。これらの遺伝子はタバコ依存性との関連が広く研究されており、これらの遺伝子の作る受容体は肺に存在しニコチンやタバコの煙に含まれる発がん物質によりスイッチが入ることで肺がんリスクが増加する可能性がある。
肺がんの80%以上がタバコにより誘発される。そして禁煙が最も重要な肺がん予防法であることに変わりはない。禁煙してもリスクは高いままで、タバコの消費量が減っている国でも先に喫煙していた人たちで肺がん患者は増加し続ける。
この研究で同定されたDNA変異は、喫煙者や以前喫煙していた人たちの、そして多分非喫煙者の、肺がん発症リスクを増加させる。現在治療法は限られており、5年生存率は約15%しかない。肺がんに関与する遺伝子の同定は治療法の開発や喫煙やその他の因子との組み合わせで肺がんになるリスクの高い人を同定するのに役立つかもしれない。
さらに肺がんとニコチン様アセチルコリン受容体との関連に関する重要な知見をもたらしたことにより、この研究は新しい疾患遺伝子の同定にゲノムワイド解析が有効であることを示した。より多くの研究が行われ、その結果が統合されることにより、さらなる肺がん遺伝子が見つかるかもしれない。さらにこの研究は、この新しい分野での国際協力の重要性を示した。これらの遺伝子を同定するのに十分な規模の研究を行うのにヨーロッパ16ヶ国とカナダと米国が協力した。
”A susceptibility locus for lung cancer maps to nicotinic acetylcholine receptor subunit genes on 15q25” Rayjean J Hung et al.
April 3rd 2008. Nature