食品安全情報blog過去記事

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長官のコラム:一般の意見により行われたBPAのリスクについての決定

CE’s column: The risk of BPA decisions made by public opinion
February 2010
http://www.nzfsa.govt.nz/publications/ce-column/ce-web-column-bpa.htm
ビスフェノールABPA)を含むポリカーボネートほ乳瓶の安全性が再びニュースになっている。今回は米国食品安全規制当局FDABPAの安全性についての考え方について、広く、しかしながら必ずしも正確ではなく、報道されている。
FDAは現在国際的に認められている安全ヒト暴露量を支持し続けている。しかしNZFSAを含む他の全ての食品安全規制当局同様に、FDABPAに関する研究の知見を監視し続けている。今回のアプローチは人々に、特に妊婦や乳幼児に、暴露量を減らすための妥当な対応策を薦めることである。
BPAの反対者はカナダが最近ほ乳瓶への使用を禁止したことをBPAが危険であることの証拠であると言う。彼らが無視しているのは、この決定は、カナダの専門家委員会によるBPAの現在の暴露量は安全であるという結論とは異なり、科学とは別に政治家が決めたということである。BPAの批判者は米国が乳幼児にポリカーボネートボトルやカップを使うことを減らすよう動いたことでさらに活気づいている。
最近のカナダと米国の対応はリスク評価を行った科学者が科学に基づいて言うことと、政治的意向を含むリスク管理者が科学だけではなく一般からの意見や政治的配慮を検討した上での決定との違いを強調する。リスク評価者の結論とリスク管理者の決定の不一致はBPAの議論全多にさらに別の側面を付け加える。
BPAはほ乳瓶や飲料ボトルや缶の内部塗装に40年ほど広く使われてきたポリカーボネートプラスチックの成分である。リサイクル記号では7と記されている。
製品に使われたBPAは極めて微量食品中に入る。特に電子レンジや食器洗い機などのような高温や強力な洗浄剤を使った場合には。そのためWHOでは0.05 mg BPA/kg体重というTDIを設定している。この値は生涯にわたって何ら検出できる健康影響はないというNOAELに100倍の安全性マージンを適用したものである。体重5kgの赤ちゃんなら、この値に達するには毎日何年にもわたって80本のプラスチックボトルから飲まなければならない。
動物実験ではBPAによる心疾患や2型糖尿病などの各種健康影響との関連が示唆されている。近年はエストロゲンと類似の作用をすることについての懸念が巡っている。そのような作用をもつ化合物は「内分泌攪乱物質」と呼ばれ、現在のヒト暴露量での胎児や乳幼児の脳や行動や前立腺への影響の可能性についての理論的疑問が提示されている。これらの研究に決定的なものはひとつもない。交絡因子があまりにも多く、観察されている影響を説明できる他可能性がたくさんある。
たとえば、もしある研究で尿中BPA濃度と心疾患や2型糖尿病を含む一連の有害健康影響との関連が示されたとしたらこれらの病気はBPAのせいであると言えるだろうか?あるいは心疾患のある人はコンビニ食品を多く食べる可能性が高いのだろうか?コンビニ食品はプラスチック容器に入っていることが多いが、同時に心疾患との関連が証明されている脂肪や塩分も多く含む。BPAと心疾患に相関関係はあっても因果関係ではない。
エストロゲン様作用については、人体におけるエストロゲンに大きな寄与をしているのは我々が食べる多くの植物に含まれる植物エストロゲンである。これまで発表されている研究はこれらとの関係については多くのギャップがある。
さらに動物実験は現実世界でのヒト暴露を反映してはいない。だから動物実験の結果を人々に当てはめるときに大きな安全係数を使う。これまでのBPAの研究ではFDAは実験どうしの矛盾や一部の動物モデルのヒトへの適用性、種による代謝の違いや用量相関性がないことなどについて指摘している。
全ての規制機関が現在の研究の欠陥を補いより明快になる研究を望んでいる。そうでなければ一般の意見や、実際のリスクではなく感覚を根拠に間違った決定がなされてしまう危険性がある。
意志決定には一般の意見は大切だし政治は民主主義における合法的アプローチであるが、決定の結果は我々全てにふりかかる。しっかりした科学的根拠より一般からの意見を重要視する決定は、健康増進には役に立たず便利な製品を排除したり不必要に費用をかけることにつながる可能性がある。最も心配なのは別の、より大きなリスクにつながる可能性がある。プラスチックほ乳瓶の代用品の一つであるガラスも完全にリスクがないわけではないことはみんな知っている。食品についてははるかに大きなリスクは病原性微生物である。もしBPAについて感じられている(リアルではない)リスクのためにプラスチックラップやポリカーボネート容器を禁止したら、食品中のばい菌が増えるかもしれない。そのほうがはるかに大きな危険である。
もし何らかの行動を起こすのであれば、我々はその帰結を理解しなければならない。