食品安全情報blog過去記事

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その他

  • 調査の結果、ほとんどのアメリカ人はワインやシーソルトの健康影響を理解していない

米国心臓協会American Heart Association
Most Americans don’t understand health effects of wine and sea salt, survey finds
Apr 25, 2011
http://www.newsroom.heart.org/index.php?s=43&item=1316
AHAが1000人のアメリカ成人を対象に調べた結果、ほとんどのアメリカ人はワインを飲むことが心臓に良いと信じているが推奨されている上限量を知らず、さらにシーソルトは普通の卓上塩よりナトリウムが少ないと間違って信じていることがわかった。

  • 肥満流行対策として法による規制

Legislative approaches to tackling the obesity epidemic
CMAJ 2011. DOI:10.1503
http://www.cmaj.ca/embargo/cmaj101522.pdf
カナダ人成人の24%が過体重(BMI 25.0-29.9)で37%が肥満(BMI 30超)である。さらに心配なことは20-39才のカナダ人は30年前の40才以上と同程度のBMIであることである。さらに子どもの肥満も増加している。この対策として、政府によるジャンクフード課税、栄養表示と一食あたりの定義、特定の食品成分や塩の規制、学校での販売規制、宣伝の制限などを要求している。

  • The Lancet Oncology

エディトリアル
日本の核危機
Japan's nuclear crisis
The Lancet Oncology, Early Online Publication, 26 April 2011
3月11日の地震津波で死亡した人々は28000人近くになり福島第一原子力発電所の危機をコントロールするための努力が続いている。これまで急性放射線障害の患者は確認されていない。
日本政府や東京電力は事態の正確な情報を提供していないと批判されているが、危機レベルに関しては世界ではいろいろな意見がある。
チェルノブイリの健康影響推定についての見解は一致しておらず、2008年のUNSCEAR報告書では若い人の甲状腺がん以外には根拠は明確でないとしている一方グリーンピースは93000例のがんが発生すると主張している。今号のThe Lancet OncologyではKirsten B Moysichらがチェルノブイリの最大の長期影響は子ども達の甲状腺がんであることを強調している。日本の当局は子どもの甲状腺スクリーニングを始めているがこれまでのところ全て許容できる範囲内だった。
核事故の見過ごされがちな問題は心理的影響である。1991年のIAEAの研究では、チェルノブイリの事故による心理的影響は生物学的リスクに比べて不釣り合いに大きいと結論している。国連チェルノブイリフォーラムの報告によれば事故の最大の公衆衛生上の影響はメンタルヘルスに対して、であった。福島の長期影響は不明であるが、今後数年は適切な安全確保とモニタリングとサポートのためには明確で利用しやすい情報提供が必要であろう

チェルノブイリから25年:日本の教訓?
25 years after Chernobyl: lessons for Japan?
The Lancet Oncology, Early Online Publication, 26 April 2011
Kirsten B Moysich et al.
http://www.thelancet.com/journals/lanonc/article/PIIS1470-2045(11)70095-X/fulltext
1986年4月25日にチェルノブイリ発電所第4号機の緊急電源検査のためオペレーターが電源を切った。4月26日に爆発が起こり炉心が破壊された。この爆発で約8-180トンの核燃料と30-90億キュリーの核分裂産物が放出され、風に乗って北西に運ばれた。事故後最初の数日間の計測結果が不十分なため実際の放出量はわからない。爆発により数人の労働者が死亡し、100人の消防士が強い放射線を浴びた。原子炉の黒鉛は10日間燃え続け、相当量の放射性物質が約20日間放出された。100-200人の労働者が急性放射線障害と診断され約30人が早期に死亡しその後10年で14人が死亡した。
事故により放出されたのは主に放射性ヨウ素(131I)とセシウム(134Csと137Cs)で、さらにそれらよりは少ないが放射性ストロンチウム(89Srと90Sr)とプルトニウム(234Pu)が放出された。131Iは半減期が8日であるためフードチェーンを汚染した後速やかに消失した。しかし半減期が2年と30年のセシウムはまだチェルノブイリ周辺を汚染し続けている。ストロンチウム半減期は52日と28年でセシウム同様の長期汚染をもたらしている。プルトニウム半減期は24400年である。チェルノブイリで放出された放射能は広島の原子爆弾の400倍であるが、1950年代から1960年代の核実験により放出された量はチェルノブイリの100から1000倍である。チェルノブイリの放出により最も影響を受けたのはロシア、ウクライナベラルーシで、その他のヨーロッパ諸国や他の国もチェルノブイリより少ないとはいえ幾分か暴露された。
クリーンアップに従事したのは80万人以上で、なんらかの被曝があったのは20万人、避難者は約10万人だった。最も汚染された地域の27万人に少量から中程度の被曝があった(5-500 mSv)。一方胸部X線撮影による暴露量は0.1mSv、CTスキャンは6-18 mSvである。線量の直接比較は難しい。
チェルノブイリ事故の後、それによるがんについて多くの科学論文が発表された。我々は最初の主要国連報告書をまとめ、2002年には既存文献を要約した。我々の結論は、若い人達の甲状腺がん以外は、事故後意味のある過剰発がんが示唆される強い根拠はないというものである。いくつかの調査者が同じ見解である。この意見では、チェルノブイリ事故の健康影響を調べる際に直面する困難さについて強調したい。事故の結果子どもの甲状腺がんが増えたことについてはほぼ間違いはない。我々は2005年に発表した論文でベラルーシウクライナ、ロシアで子どもの白血病が増えている可能性があるとしているが、対照群の選定に問題があるかもしれないことを指摘している。旧ソ連の国で疫学研究を行うには物理的困難が伴う。当時長期疫学研究の専門家はほとんどおらず、言葉や文化の壁があり、極めて広範な地域をカバーする研究には問題が多い。さらにベラルーシウクライナ乳がんの増加が報告されているが暴露量推定には場所の汚染データが使われている。理想的にはこの研究は事故の時に思春期だった女性についての分析疫学研究でフォローすべきである。日本の研究では原爆投下時に思春期だった女性に最も高い過剰リスクが見られている。科学的には興味があるが現実にはそのような調査は困難だろう。最大の課題は資金で、次に女性が25年前の自分の行動を正確に覚えてはいないだろうことである。
悲しいことだが日本の事故は原子力発電所の事故によるがんを研究する機会を提供している。日本は同時に起こった3つの惨劇に直面して多数の課題を抱えているが長い被曝研究歴があり研究環境としてはベターであろう。旧ソ連と違ってよりオープンな社会であり放射線放出を隠そうとはしない。さらに政治的経済的に安定しており、旧ソ連のように崩壊したり資金を出さないようなことはないだろう。日本では包括的健康影響調査ができるだろう。

Sense about science
Chernobyl, 25 years on
April 26 2011
http://www.senseaboutscience.org.uk/index.php/site/project/611/
2011年4月26日はチェルノブイリ原子力発電所の事故から25周年である。関連情報を紹介。
Sense about science の評議員でアナウンサーのNick Rossは最近チェルノブイリを訪問しこの事故の遺産と一般の人々の原子力への認識についてTimesの記事(有料)とBBCドキュメンタリーhttp://www.bbc.co.uk/programmes/b010mckxで検討している。
最近の日本の福島の事件は原子力への一般の人々の関心を集めた。多くの問い合わせのうちマムズネットから我々に質問への回答を求める依頼があった。そのライブチャットの様子は以下から
http://www.mumsnet.com/onlinechats/paddy-regan
英国の原子炉の説明は以下
http://www.senseaboutscience.org.uk/pdf/HowFissionReactorsWork.pdf