- ヨーロッパのやっかいな問題
Europe's Embarrassing Problem
Science 27 April 2012: Vol. 336 no. 6080 pp. 406-407
Kai Kupferschmidt
予防可能な病気であるはしかが世界で最も裕福な地域に復活した。公衆衛生の専門家は反撃できるかどうか自信がない。
2009年4月にドイツからブルガリアに旅行した若い男性はスーツケースの他にはしかのウイルスも運んだ。結果的に24000人以上を病気にして24人を殺した。このD4-Hamburg系統のウイルスはドイツに戻り、トルコ、ギリシャ、マケドニア、その他ヨーロッパ諸国に運ばれた。アメリカ大陸では貧しい国も含めてはしかを全滅させたのにヨーロッパではそれができずに2009年以降倍になった。昨年フランスでは15000以上発生した。
この再興は他国にも脅威となり、米国では2011年に1996年以降最大の222症例を報告していてほとんどがヨーロッパからの輸入例である。幸いなことにアメリカの予防接種の率の高さが輸入例の拡大を阻止している。
コントロールの妨げになっているのははしかが害のない子どもの病気だという認識である。実際にははしかは恐ろしい感染症である。ワクチンが1963年に利用できるようになるまで、毎年200万人以上の子どもたちを殺していたと推定されている。はしかの感染は免疫系を長期に渡って弱らせ、ほとんどの死亡は二次感染による。有効で安価なワクチンがあり、はしかの宿主はヒトだけなので理論的には根絶できる。しかし根絶の夢は近づいてさえいない。サッカーの大会やオリンピックが拡大のきっかけになるかもしれない
ヨーロッパの失敗には複数の原因がある。Andrew Wakefieldによる後に詐欺と判明した主張、一部の人智学コミュニティやプロテスタント教会による信仰や哲学的ワクチン拒否、移民などへのリーチ不足などがある。多くの要因はアメリカでも共通であるが違いはアメリカはワクチンを義務にしていることである。
After a Successful Decade, Global Fight Appears Stalled
p. 407
世界のはしかによる死亡は2000-2007年の間に劇的に減ったがその後停滞している
- The Lancet Infectious Diseases, Volume 12, Issue 5, , May 2012
Page 361からライム病反科学に関するペーパーへのお便りとお返事掲載
Auwaerter PG, Bakken JS, Dattwyler RJ, et al. Antiscience and ethical concerns associated with advocacy of Lyme disease. Lancet Infect Dis 2011; 11: 713-719
http://d.hatena.ne.jp/uneyama/20110824#p8
(こういう議論があり、専門家がたくさんの訴訟に巻き込まれていること自体が問題の存在を証明することになっている。しかし「科学的でない」「そっちのほうが科学的でない」という議論は不毛。「科学」という言葉の意味するところがばらばらなので。特に自分は科学者だと思っている人の場合専門分野の違いによる意味の違いに無頓着で困る、というのがこの1年で目立った。)