食品安全情報blog過去記事

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Natureニュース

Fish Oil Supplement Research Remains Murky
Melinda Wenner Moyer
25 September 2012
http://www.nature.com/news/fish-oil-supplement-research-remains-murky-1.11484
Scientific Americanの記事
多価不飽和オメガ3脂肪酸は健康的な食生活の重要な一部であるが、サプリメント研究には多くの問題がある
オメガ3脂肪酸サプリメントのメリットは、全く摂っていない人にはあるかもしれないというレベル。

  • ラットの試験がGMの騒動を巻き起こす

Rat study sparks GM furore
Declan Butler
September 2012
http://www.nature.com/news/rat-study-sparks-gm-furore-1.11471
(写真はJ.-P. Jaud監督によるAll of us guinea-pigs now?という映画の一場面)
ヨーロッパはこれまでもGM食品が好きではなかったが、先週発表された驚くべき論文は、この仕事について科学者からの疑問の嵐にもかかわらず、一般の人々と政治的反対をさらに強固にしたようだ。
Food and Chemical Toxicologyに発表された研究はヨーロッパやアメリカやその他の国で食品や飼料として認可されているモンサント社のグリホサート耐性NK603トウモロコシを与えたラットでの有害影響を探ったものである。研究者らは対照群よりがんになる率が高くがんが大きいと報告した。作用メカニズムについては同定していない。
ラットは2年間飼育され、このGM作物については最初の長期試験になる。別のGM作物での10程度の長期試験ではそのような影響は観察されていない。NK603の90日試験では何の有害影響も見られていない。
この知見についてのメディア報道の爆発は、特にヨーロッパでの、GM食品への反対を活気づけた。しかしながら多くの科学者はこの研究の方法論と知見に既に疑問を提示している。論文に掲載されたデータは主張に関する独立した評価が可能なものではなく、実験デザインや統計解析に疑問がある。他にこの試験で使われたSprague-Dawleyラットは高齢で特に自然発生腫瘍が多く、結果の解釈が難しい。モンサント自身もこの研究は「この種の科学研究に許容できる最低限の基準を満たさない」と言っている。
この320万ユーロをかけた研究はフランスCaen大学の分子生物学者Gilles-Eric Séraliniに主導されパリにあるCRIIGENと協力したものでCRIIGENの科学委員会のトップはSéraliniである。CRIIGENは自身を「GMOや農薬や環境汚染物質の健康と環境への影響についての研究への対抗的専門知識を提供し代替品を開発するためのNPO」と宣伝している。この論文の発表と同時にSéraliniによる本Tous Cobayes? (All of Us Guinea-Pigs Now?)が映画とテレビドキュメンタリーを伴って発表された。
Natureからの質問に対してSéraliniとCRIIGEN の代表であるJoël Spiroux de Vendômoisが、「暴力」と科学者からの批判に驚いたと言っている。彼らは批判の多くが毒性学者ではない人によりGM作物の開発に関わったなどの利益相反があると主張する。彼らはSDラットがそのような長期試験においては最良のモデルではないことは認めるが、対照群との差は大きいと主張する。
Food and Chemical Toxicologyの編集長であるスペインRovira i Virgili 大学の毒性学者José Domingoは、昨年GM植物の安全性評価に批判的なレビューを書いていてGM食品については独立した混餌投与試験がないことについて批判していた。彼はピアレビューの間にこの研究に警告信号は発せられなかったと言う。
この知見を巡る騒動はこの論文の元データの詳細解析や追試が行われるまで静まりそうもないがSéraliniはNK603の承認にかかる生データが公開されるまで彼のデータは開示しないといっている。そしてトウモロコシの認可に関わった専門家を排除した独立した委員会でデータを評価することを望んでいる。EFSAのCatherine Geslain-Lanéelle長官はそれでは公平な評価ができないと合意していない。
しかしながらもともと食品そのものの安全性評価にそのような餌投与試験が適切かどうかには長く疑問が提示されてきた。それは精製された十分性質がわかっている化合物を適切な量投与して化学物質の試験をするためにデザインされているものであるが、食品はいろいろな化合物の混合物であり用量のコントロールは困難である。
(食品そのものの長期毒性試験をやれというヒトの方が珍しいけれど−だってそんなことしたら普通の食品のほとんどがアウトになる−、たまたまそういうヒトが編集長だったのを利用したのか。)

  • 有害な態度

エディトリアル
Poison postures
25 September 2012
http://www.nature.com/news/poison-postures-1.11478
物議を醸すトピックスに関わる科学者はその結果の宣伝方法には注意しなければならない
先週のフランスの週刊誌Le Nouvel Observateurの表紙は“Yes, GMOs are poisons,”と叫んだ。Food and Chemical Toxicologyにオンライン発表された研究についてのメディアの見出しには露骨な嘘が並んだ。フランスCaen大学の分子生物学者Gilles-Eric Séraliniらのチームが、既に動物や人に認可されているGMトウモロコシを食べると、ラットでがんやその他の病気の率が大幅に上昇し早期死亡の原因となると主張した。
そのような強い主張は世論に大きな影響を与えることが予想されるので研究者はメディアや一般への提示には注意を払うべきである。結果は明確に、限界や欠陥を強調し、データは科学コミュニティーで再現され評価される必要があることを明示すべきだ。
しかしそうはされなかった。この論文は本と映画と一緒に積極的広報により宣伝された。さらにこの研究を報道したいと思うジャーナリストは、他の科学者に意見を求めることを禁止する同意文書に署名しなければならなかった。
その結果は批判的コメントを排除した大きなニュースとなった。しかしその後たくさんの批判が続いた。あとになって、ジャーナリストは出版社−この場合Elsevier−からそのような制約無しに事前に論文を提供してもらえることを知った。これはembargoシステムといってジャーナリストに報道前にきちんと論文を見る時間を提供する。これは科学報道の質を向上させるためのもので、この間にジャーナリストは論文に関与していない科学者に相談することができることが必須である。
この研究の方法と知見の両方に批判がある。その主張がとんでもないものである以上、著者は生データを公表する必要がある。評価は人々が結論を出すためにできる限り透明であるべきである。
先週のこの出来事はGM作物の議論を巡る長期にわたる欠陥をも明るみに出した。多くの人が先週の論文をGM食品に健康リスクがある根拠にしている。しかしたとえ一つの品種のGM作物に健康への有害影響があったとしても、他の作物については何も言えない。GM支持側も「GMOは安全」と言う時、同じ陥穽にはまっている。GM食品はケースバイケースで評価されている。
GM食品を巡る議論はあまりにもしばしば過度の一般化と過激化により対話が阻害されてきて農業者消費者にとって真に利益となるのはどのような種類のGMOなのか、我々の望む持続可能な農業はどのようなものなのかといった重要な問題が曖昧にされてきた。
GMOではなく、極端な議論こそが避けるべき毒である。