食品安全情報blog過去記事

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ブタのGM餌投与研究−専門家の反応

SMC
GM feeding study in pigs – experts respond
June 13th, 2013.
http://www.sciencemediacentre.co.nz/2013/06/13/gm-feeding-study-in-pigs/
ブタでGM作物を含む餌の長期健康影響を調べた研究が今週Journal of Organic Systemsに発表された。
この研究では、米国のある農場で、168頭のブタにGMまたは非GMトウモロコシと大豆を通常の商業的飼育期間(5ヶ月強)与えられた。その後獣医が解剖しいろいろな指標で差を調べた。その結果、「重症」と分類される胃炎がGM食のブタで多かった。またGM餌の群で平均すると子宮重量が大きかった。他に病気や臓器重量に有意な差はなかった。血液生化学、体重、病気、死亡率などには差がなかった。
SMCは専門家の意見を集めた。さらにコメントが得られれば追加する。
オークランド大学生物統計Thomas Lumley教授
この研究は昨年の(セラリーニらの)フランスの研究よりましである。群は二つで各群の数はあり、研究プロセスや評価法についての詳細情報が提供されている。餌がブタにとって適切かどうか、あるいはブタの結果からヒトの影響が言えるかについては私はコメントできない。研究者らは養豚業者が使用している細かく挽いた飼料が胃炎を誘発することを記述しており、ブタにはよく見られるが、他の動物やヒトにはあてはまらない可能性が高い。統計解析は妥当である。結果はGM作物が有害である根拠としては弱い。多くの可能性のある影響について調べているため、偶然有意差がつく可能性が高いためである。この研究だけで政策を変更すべきではないがさらなる研究で再現されるかどうかをしらべる価値はあるだろう。
英国SMC
ロンドン大学ユニバーシティ・カレッジPatrick Wolfe統計学教授
私は動物の専門家ではないのでデータ解析についてだけコメントする。
この研究の最大の問題は、何らかの仮説をたててそれを検証しようとしたものではない、ということである。約150匹のブタについて何度も何度も異なる知見を継続的に検定している。従って偶然の結果が出る可能性が高い。良いデザインの研究とは、特定の影響についての仮説(例えば胃の大きさの変化など)をたて、それをチェックするためだけに一回だけ検定をすることである。他のチームがそうするだろう。
ロンドン大学キングズカレッジ栄養科学研究分野長Tom Sanders教授
小さな偶然の知見であるため、有害影響があるというしっかりした根拠にはみえない。成長や死亡率に差はない。餌の内容は異なるサプリメントが使用されているため同一ではない。胃炎はしばしば感染により、子宮重量は体重増加速度などで影響される。中程度から重症の胃炎のブタの数は投与群69/73、対照群64/79で差はない。著者らは重症胃炎の数の違いを強調しているが、これが投与に関連している可能性は低い。
ケンブリッジ大学リスクの公衆理解に関するWinton Professor、 David Spiegelhalter教授
この研究の結論は統計学的に精査されたものではない。著者らは「重症胃炎」を強調しているが、他の炎症カテゴリーの全てでGM群の方が良い。このような特定のものだけ選び出して強調することは科学的に不適切である。適切な方法を使うと胃炎と餌の関連は示されなくなる。さらに検定を他に19回行っており、これは1項目で有意になると予想される。従って子宮重量の見かけ上の差は偽陽性であろう。
(毒性学でブタはあんまり聞かないからブタの病理の専門家はみつからないのかな。もと論文http://www.organic-systems.org/journal/81/8106.pdf。この雑誌はオーガニック団体の資金提供を受け年に数報の論文を掲載している。)