食品安全情報blog過去記事

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ElsevierはFood and Chemical Toxicologyの論文取り下げを発表

Elsevier Announces Article Retraction from Journal Food and Chemical Toxicology
November 28, 2013
http://www.prnewswire.co.uk/news-releases/elsevier-announces-article-retraction-from-journal-food-and-chemical-toxicology-233754961.html
Gilles Eric Séraliniらによる"Long term toxicity of a Roundup herbicide and a Roundup-tolerant genetically modified maize,"はFood and Chemical Toxicologyによって取り下げられた
この論文は発表直後から多数の懸念を表明する手紙が編集者に提出された。雑誌の慣例に倣ってこれらの手紙は著者からの反応と一緒に雑誌に発表された。編集長はピアレビュープロセスなどの再検討を行い著者に生データを求めた。詐欺やデータの不正は見つからなかったが実験デザインには十分な懸念があった。ピアレビュープロセスでは問題点が指摘されていたがそれでも発表する価値があると判断されていた。さらに生データを吟味し、Food and Chemical Toxicologyが発表するレベルに達していないと判断された。

  • GMトウモロコシとラットの腫瘍を関連づけた論文は取り下げられた

Natureニュース
Study linking GM maize to rat tumours is retracted
Barbara Casassus
28 November 2013
http://www.nature.com/news/study-linking-gm-maize-to-rat-tumours-is-retracted-1.14268
著者が反対しているにも関わらず出版社がとりさげた
ほぼ全ての科学者からの軽蔑に屈して、Food and Chemical ToxicologyはGMトウモロコシがラットで重大な病気を引き起こすと主張する論文を、著者が撤回を拒否したため、出版社が取り下げた。この論文はフランスのCaen大学の分子生物学者Gilles-Eric Séraliniらによるものである。この動きは驚くべきことではない。

  • GMトウモロコシとがんの研究は取り下げられた−専門家の反応

SMC
GM maize and cancer study retracted – experts respond
November 29th, 2013.
http://www.sciencemediacentre.co.nz/2013/11/29/gm-maize-and-cancer-study-retracted-experts-respond/
ラットへのGMトウモロコシの影響に関する議論のある研究が雑誌から取り下げられた
この研究はラウンドアップ耐性遺伝子組換えトウモロコシがラットにがんを誘発する可能性があることを示唆したもので、Gilles-Eric SéraliniらがFood and Chemical Toxicologyに発表したものである。サイエンスメディアセンターの世界的ネットワークは、この論文が発表された2012年9月に非常に多くの、概ね批判的意見を集めていた。
今回この雑誌からプレスリリースが発表され、調査を完了したのでこの論文を取り下げるとしている。発表によると調査の結果「詐欺や意図的データの不当表示の根拠は見つからなかったが、動物の数や選んだ動物系統などについて正当な懸念がある。・・生データの詳細な調査の結果、このサンプルサイズの小ささでNK603についてもグリホサートについても、総死亡や腫瘍頻度に何らかの役割があると結論することはできない」

以下に英国SMC が集めた専門家のコメントを掲載する。
Imperial College Londonの生化学薬理学Alan Boobis教授
科学論文の取り下げは最後の手段である。たとえ決定的でなくても論文は科学に貢献する。知見の再現性が重要な理由である。しかしこの場合のように論文の結論が知見に対してあまりにも過剰解釈であり、それがメディアや一般の人々の関心をひく場合には問題がある。Séraliniらの論文については雑誌は責任ある適切な対応をしたと思う

Sainsbury LaboratoryのプロジェクトリーダーJonathan Jones教授
Food and Chemical Toxicologyを祝福する。この論文のデータはグリホサートとGMトウモロコシががんを誘発することを示唆しない。

John Innes Centre長Dale Sanders教授
信頼できる結論を出すには実験のデザインが重要である。多くの研究で同じ結果が出れば科学に基づいた政策を作ることができる。許容できる水準に満たない論文の取り下げは、特にヨーロッパのGM作物を巡る議論においては重要である

John Innes CentreグループリーダーCathie Martin教授
この論文の大きな欠陥を考えれば取り下げは正当である。

Cambridge大学公衆のリスクの理解に関するWinton Professorである David Spiegelhalter教授
この論文はざっと見ただけで出版に値するものではないことがわかるもので、ピアレビューが適切に働いていないことを示す。しかしそれを取り下げたことは何もしないよりはいい。残念ながらこの論文取り下げは発表時ほど注目されないだろう。

SMCカナダから
UC Riverside自然農業科学部植物バイオテクノロジーAlan McHughen博士
取り下げは遅すぎる。この論文は決して発表されてはならないものだった。

Saskatchewan大学Cami Ryan教授
取り下げは正しいが、Séraliniが雑誌の編集者から選択肢として提示された取り下げを選ばなかったことは残念である。

Vancouver Island大学生物学部Robert Wager教員
私は雑誌の編集者に、Séraliniの論文について問題があると送られた16の手紙のうちの1つを書いた。取り下げは良いことだが、残念ながらSéraliniは一部のGMの危険性を信じている人たちから殉教者とみなされるだろう。疑似科学が恐怖を生み出す力をなめてはいけない。一度信じ込まれると、事実がその恐怖を消すことは滅多にできない。
Séraliniの研究が世界中の食品安全機関から厳しくしかられたのはこれで3度目である。彼らのグループの全ての論文が「不適切なデザイン、解析、報告」である。私は主流メディアがこのような欠陥にもっと気をつけて、本当の専門家に取材することを望む。