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肉と牛乳のホルモンに関するQ&A

Questions and Answers on Hormones in Meat and Milk
11 June 2014
http://www.bfr.bund.de/en/questions_and_answers_on_hormones_in_meat_and_milk-190526.html
ドイツ連邦リスク評価研究所(BfR)は肉と牛乳のホルモンの健康リスクの可能性についてよく尋ねられる。これは家畜に使用されるホルモン製剤についての質問と、天然に肉に生じるホルモンについての質問を含む。異なる法規制が適用されるEU以外の国からの動物由来の肉の消費後の健康リスクの可能性についても議論がある。こうした背景の下、BfRはこの件に関する最も重要な質問と答えを要約した。
Questions
ホルモンとは何か?
ホルモンは体の内部プロセス調整のための特定の信号を伝達する化学的メッセンジャー物質である(ギリシャ語のホルモン=刺激)。標的組織の細胞だけがその信号に対して特別に反応することを保証するために、これらの細胞は特別にホルモンと結合する受容体をもつ。この受容体のない細胞はどんなホルモンも結合せず合図を「無視する」。
ホルモンが肉に天然に含まれうるか?
ホルモンは内部プロセス調整のために体で形成される化学的メッセンジャー物質なので、筋肉、肝臓、腎臓などの肉は天然のホルモンを含んでいる。
どのような場合に肉の天然ホルモン濃度が変動するのか?
より高度のホルモン濃度は、去勢されていない動物で去勢動物より多く生じる可能性がある。去勢されていない雄豚では、たとえば、肝臓、腎臓、睾丸でテストステロンの天然の代謝物としてナンドロロンが若干高濃度で検出されている。他方、筋肉では、ナンドロロン濃度は去勢された動物でもされていない動物でも大体同じである。
もしも市場に出されるなら、妊娠した動物の肉は妊娠していない動物の肉よりある種のホルモンが天然に高濃度で含まれている。筋肉や食用臓器のホルモン効果のある物質の別の発生源は、ある種の真菌が作り、トウモロコシ・小麦・大麦のような穀物にはびこるエストロゲン作用のあるマイコトキシン(ゼアラレノン)である。ゼアラレノンで汚染した飼料を摂取した家畜の肉はこれらのホルモン作用物質を追加で低濃度を含む可能性がある。肉は、筋肉や肝臓のように動物の屠体の食べられる部分の全てであると理解されている。
どの食品が主なホルモン源なのか?
プロゲステロン、テストホルモン、エストロゲン濃度は、筋肉・屠殺された動物の食用器官・魚・卵・野菜食品よりも牛乳でより高い。食品を経由するエストロゲン(およそ60%)とプロゲステロン(およそ80%)の成人の一日総摂取量のかなりの割合は牛乳に由来する。
天然に生じるホルモンは合成ホルモンと異なる影響があるのか?
天然に生じたり合成で作られたりするホルモンは、受容体での作用メカニズムに関して通常は違いはない。だが、ある状況では、合成ホルモンは、強さが違ったり、摂取量・分布・代謝において体で作られたホルモンと異なったりする。これは一部の合成ホルモンが体内で代謝されるのにより長くかかることを意味する、つまり、体内により長く留まることを意味する。合成ホルモンの代謝産物は天然物質と異なる強さを持つ可能性もあるし、異なる活性スペクトルをもち他の受容体と結合することもある。
動物飼料にホルモンの使用は許可されているのか?
動物飼料にホルモンの使用は一般的に欧州連合(EU)内では許可されていない。過去には、動物の飼料転換率(1キロ体重を増やすために動物が摂取しなければならない飼料は何キロかを表す用語)を改良するために太らせる目的でホルモン効果のある物質が使用され(いわゆる“feeding hormones”)ていた。ヒトへの健康リスクの可能性と倫理と環境意識の変化により、家畜生産におけるこの種の飼料ホルモンの使用は、1988年にEU全体で禁止された。
家畜にホルモンの使用は全面的に禁止されているのか?
ホルモンは交配用畜産と治療目的で使用されるかもしれない。畜産での使用のために認可されたホルモンは、EU規制No. 37/2010付表のTable 1に掲載されている。それらは特定の規制に従ってのみ使用される。
処理後、動物が屠殺されるか、製品が再び取引されることを許可されるまで認可の際に指定された待ち時間を経なければならない。家畜では、ホルモン投与の可能性のある分野は性周期同期、生殖能疾患治療、望まない妊娠の終了などである。
ホルモンは食品に検出されているのか?
ドイツでは、動物での薬理作用のある物質の使用管理と動物由来の食品にそれらを使用した証拠は各連邦州の地方当局の責任である。従って、国家残留物質管理計画による当局のモニタリングにより、禁止された、あるいは未承認ホルモンの残留は定期的にチェックされている。ドイツでの国家モニタリング当局による動物由来食品のテスト結果の概要は、毎年ドイツ連邦消費者保護・食品安全庁(BVL)が提供している。2008-2012年の間、この例で検出されたホルモンは天然に生じうるものではあるが、馬の尿にたった一つの陽性所見があった。欧州食品安全機関(EFSA)は動物及び動物由来食品の残留動物用医薬品とその他の物質のモニタリングに関して報告している。2010年には0.19%(47,337サンプルの90)がホルモン陽性で2011年には0.11%(46,378サンプルの53)が同じく陽性だった。
動物用医薬品として家畜にホルモンを加えることで肉の消費に関する健康リスクはあるのか?
物質の健康評価は動物用医薬品の認可プロセスで「一日摂取許容量」(ADI値)が設定されることで行われる。ADIは消費者の健康を危険にさらすことなく生涯にわたって毎日摂取できる物質の量のことである。ADIをもとに、特定の食品が超過しない濃度、いわゆる最大残留量を決定した。
認可過程で定められたホルモン投与から動物の屠殺までの待ち時間に従えば、動物由来食品に使用されるホルモンの決められた最大残留量は超過せず、消費者の健康へのリスクは実際には除外できる。これは性周期同調を意図した動物用医薬品でも同じである。
性能を高めるためにホルモン処理された動物由来肉の消費により引き起こされる消費者の健康リスクはあるのか?
欧州連合では、動物の性能を強化したり、家畜の成長を促進したりするためのホルモンの使用については一般的に禁止されているが、全ての第三国でこのようなことが禁止されているわけではない。欧州委員会の要請で、欧州食品安全機関(EFSA)は2007年に第三国で食物動物の生産に合法的に使用されるホルモンの影響に関する報告書を発表した。それは第三国で動物の成長を促進するために使用されるホルモンについて特に焦点を当てた。この報告書で、肉の消費による健康リスクの最終評価に利用できる十分な毒性データがないとEFSAは結論した。
天然ホルモン濃度が高い肉の消費に健康リスクはあるのか?
肉の天然のホルモン濃度は変動しうる。国家残留物管理計画のもとで、定期的なステロイドの検査が、合成と天然のステロイドについて行われている。2008年から2012年の間に、エストラジオールもテストステロンも分析されたサンプルでは検出されなかった。文献で得られた妊娠した動物の筋肉組織のステロイドホルモン濃度に関するデータに基づいて、実際のエストラジオールとテストステロンの摂取量は一日許容摂取量を大きく下回ると想定された。
どのホルモンが牛乳に存在しうるか?
牛乳は天然にホルモンを含む、動物から得られる食物である。黄体ホルモンに属するプロゲステロンや、卵胞ホルモン剤としても知られるエストロゲンのような天然にある女性ホルモンを含む。
牛乳のホルモン濃度はどのくらい高いのか?
全体的に、牛乳の通常摂取量から摂取されるプロゲステロンエストロゲンの量はヒトの体で作られるホルモンの量と比べて比較的少ない。天然にこれらのホルモンを自分で作り出す成人女性には特に当てはまる。全脂肪牛乳(脂肪分3.5%)のプロゲステロン濃度はおおよそ牛乳1kgに対し10µgである。プロゲステロン脂溶性なので、低脂肪乳は低く、バターのような脂肪分の豊富な製品には高濃度となっている。天然のエストロゲンには、エストロンとこのグループの重要な代表であるエストラジオールなどがある。全脂肪牛乳(脂肪分3.5%)では、総濃度は牛乳1kgあたりエストロン0.13µg、エストラジオールは0.02 µgより少ない。
牛乳のホルモン濃度はどうして変動するのか?
乳用牛で生産される天然の性ホルモン濃度は性周期と乳分泌の時期によって決まる。その結果、プロゲステロンエストロゲンの濃度は牛乳の個々のサンプルで異なる。そのまま飲める牛乳のホルモン濃度は、異なるホルモン濃度の牛乳の混合物であるバルク乳に関連する。このため、牛乳で計ったホルモン濃度の数値は科学的文献の中でもばらばらである。
ホルモン濃度による健康リスクは牛乳の消費と関係しているのか?
200-250 gの牛乳の一日摂取量(ヨーグルトを含む)で摂取するホルモン量は、ヒトのホルモンの天然自己合成と比べるとかなり低いと推定される。さらに、ホルモンはとても速く代謝される(経口摂取での肝臓の「初回通過」効果が顕著である)。入手可能な科学的データからは現在何らかの健康リスクを想定する理由はない。