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ビスフェノールAと子どもの肺機能についての新しい研究への専門家の反応

SMC UK
expert reaction to new study on bisphenol-A and children’s lung function
October 6, 2014
http://www.sciencemediacentre.org/expert-reaction-to-new-study-on-bisphenol-a-and-childrens-lung-function/
Jama PediatricsにビスフェノールA暴露と子どもの喘息症状の関連を示唆する論文が発表された
Bristol大学小児&周産期疫学Jean Golding名誉教授
ビスフェノールAが子どもの発育に有害影響があるかどうかを調べるのは重要である。しかしこの研究は比較的少人数の子どもを対象にしていて結果は一貫性がない。結論を出すにはより大規模な研究が必要である
Edinburgh大学男性生殖健康研究チームリーダーRichard Sharpe教授
この研究は妊娠女性の尿中ビスフェノールAとその子どもたちの喘鳴などの呼吸器疾患の頻度の関連を検討している。著者らはBPA濃度の高いことと子どもの呼吸器疾患の頻度増加が関連すると報告している。
ヒトのBPA摂取量のほとんど(95%以上)は飲食物由来で、「西洋風」(不健康)食生活が特にBPAの摂取量の高さと関連する。従ってBPAと健康に関する全ての研究は−これを含め−食生活そのものの影響を考慮しなければならない。なぜなら我々は不健康な食生活が肥満やその他の疾患につながること、母親の食事や肥満が子どもの健康に影響することを知っているからである。
母親の肥満が子どもの喘鳴リスク増加に関連することについては既に多くの研究がある。我々はBPA暴露の多い母親が肥満であると決めつけることはできないが、多くの研究でBPA暴露と肥満には、女性を含めて、正の関連があることが示されている。多分貧しい食生活が原因で。この研究では母親の食事や肥満などの重要な要因が全く無視されている。
既に入手できる根拠からBPAはヒトでは腸で速やかに不活性化されてヒトが生物学的に活性なBPAに効率よく暴露されることはないことがわかっている。私はこの研究で報告された関連については、特に母親の食事やBMIの情報がないので、信じない。
Queen Mary University of London呼吸器疫学臨床教授Seif Shaheen教授
出生前後のビスフェノールA暴露と子どもの喘鳴や喘息リスクの関連についての疫学研究の結果は一貫していない。この小規模出生コホートの最新の知見は泥水に加わるものでたくさんの理由から注意が必要である。
最初に、喘鳴全体との関連についての統計学的根拠は弱く、強調されている持続する喘鳴の結果は偶然による可能性がある。
二つめは、4才時点での肺機能との関連は驚くべきことで、なぜなら6才以下の子どもたちのこの種の測定で信頼できる結果を得ることは通常困難で、喘鳴についての情報が得られた子どものうち半分以下しか肺機能のデータは得られていないこと、そして5才での肺機能との関連が見られていないからである。
三番目に、著者らは交絡要因の可能性のある項目を列挙しているがこの論文でそれらを考慮したかどうかは不明である
最後にビスフェノールAがヒトの胎児の肺の発達にどう影響するのかについてありそうなメカニズムが提示されていない。
これらの限界と、これまで報告されている矛盾したデータを鑑みると因果関係についての根拠は極めて説得力がない。まずより大規模で5才以上までフォローした研究が必要である。
Cambridge大学がん疫学Paul Pharoah教授
これらの女性は標準的消費者製品から普通の量の化合物に暴露されている。尿中BPAは妊娠16と26週に測定し赤ちゃんたちは才まで肺機能を定期的にフォローアップされている。研究者らは母親のBPA暴露と子どもの肺機能の関連を調べ、多数の異なる関連が報告されているが著者らはそのうち正の関連があったものだけに注目している。もし多数の検定を行えば、単純に偶然でいくつかは「有意」になることに注意が必要である。報告されている多数の知見の間に一貫性はなく、このことは正の関連は多分偶然であることを示唆する。例えば彼らは母親のBPA暴露量が10倍だと4才の肺機能が14%低下すると報告しているが5才では影響がみられない。また妊娠16週での暴露と持続する喘鳴の関連を報告しているが(オッズ比4.27)妊娠26週の暴露とは関連がなく16週の暴露とあとから発症した喘鳴との関連もない。
これらの結果を額面通りに受け取ったとしてもほとんどの女性にとってはあてはまらない。研究者は女性のBPA暴露量は広範にカバーしているが暴露量が高い女性はごく僅かである。暴露量の少ない2%と多い2%の女性の暴露量の差はたった30%(あるいは1.3倍)で、これは4才の肺機能低下は2%以下で5才では差がないということである。
まとめると、この知見は幾分かのおもしろみはあるが答えより疑問が多い。これらのデータは妊娠中の通常の化学物質暴露と子どもの肺機能に何らかの関連があるという説得力のある根拠を提示しない。
Southampton大学職業環境医学David Coggon教授
この研究はよく行われているようにみえるがその解釈は難しい。母親の尿中BPAは妊娠期間の2回のみ(16週と26週)測定されているがその量に関連がない。その意味するところは母親の暴露量は日によって変わるということで、信頼できる暴露量を知るにはもっと多くの時点で測定する必要があるということである。このことと、子どもの呼吸器の健康指標との関連の一貫性の無さから、しっかりした結論は出せない。この結果は妊娠中のBPA暴露が子どもの喘息に大きな影響を与えることを示唆しない
Cambridge大学リスクの公衆理解に関するWinton教授David Spiegelhalter教授
これは注意深い研究であるがその結果は多数の比較の中から選択してきたものである:肺機能とBPA暴露との関連は4才で見られるが5才では見られない、16週では見られるが26週では見られない、など。そして引用されている影響はBPA濃度が10倍違う場合のものでそれは非常に大きい。

Bisphenol A Exposure and the Development of Wheeze and Lung Function in Children Through Age 5 Years’ by Adam J. Spanier et al. published in Jama Pediatrics on Monday 6th October
http://archpedi.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=1913573
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