食品安全情報blog過去記事

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SMC UK

  • バナナのレクチンを操作して作られた物質の抗ウイルス活性を調べた研究への専門家の反応

expert reaction to study investigating anti-viral properties of substance engineered from lectin from bananas
October 22, 2015
http://www.sciencemediacentre.org/expert-reaction-to-study-investigating-anti-viral-properties-of-substance-engineered-from-lectin-from-bananas/
Cellに発表された論文で細胞内の異なる信号を入れたり切ったりできる特定の分子の能力が報告されている。科学者グループがバナナのレクチンタンパク質に突然変異を導入し、抗ウイルス活性を維持したまま炎症惹起性を無くした。
Imperial College Londonインフルエンザウイルス学部長Wendy Barclay教授
レクチンは通常植物が含む特定の糖に結合するタンパク質である。多くのウイルスが糖に覆われているのでレクチンはウイルス感染を阻害する作用をもつ。しかしヒトの細胞も糖に覆われているのでレクチンを使う戦略は有害な影響も引き起こす。この新しい研究は、レクチンをウイルス特異的に改変して構造レベルで作用機序を説明した。将来を期待しよう。
リーディング大学ウイルス学者Ben Neuman博士
(略)
だからといってバナナを身体に塗りたくるのは止めよう、副作用がある。
カージフ大学風邪センターと医療臨床試験部長Ron Eccles教授
バナナの物質を組換えた新しい抗ウイルス物質の研究は期待できる。しかしバナナをたくさん食べても風邪やインフルエンザに何の役にもたたないであろう。新しい物質は改変したものでバナナには入っていない。
ノッチンガム大学分子ウイルス学教授Jonathan Ball教授
多くのレクチンが抗ウイルス剤としての可能性があるが試験管からヒト用に進むのは簡単ではない。素晴らしいニュースだがヒトで効果があるかどうかが重要な問題である。
さらに注意すべきはバナナに抗ウイルス作用があるという根拠はないということである。
(これとは直接関係ないが「バナナで免疫力アップ」という類のインチキは既に蔓延している)

  • PHEの報告書、「砂糖を減らす:行動のためのエビデンス」への専門家の反応

expert reaction to publication of PHE’s report, ‘Sugar Reduction: the evidence for action’
October 22, 2015
http://www.sciencemediacentre.org/expert-reaction-to-publication-of-phes-report-sugar-reduction-the-evidence-for-action/
PHEが砂糖摂取量を減らすための介入に焦点を絞った報告書を発表した。
グラスゴー大学代謝医学教授Naveed Sattar教授
これは英国の砂糖摂取量を減らすための役にたつ報告で、砂糖入り飲料に課税することも一つの方法であると正しく示唆しているが他の簡単な対策がもっと効果があるだろうと注意深く指摘している。問題はどうやってそのような対策を実行させるか、規制が必要かどうかである。食品や飲料企業が自主的にそのように変わるとは思えない。さらに精製砂糖を減らすのは歯の健康などに良い効果はあるだろうが肥満対策としてはもっと多くをやらなければならない。実際脂肪の摂りすぎが過剰カロリー摂取の主要寄与因子であることを多くの根拠が示していて、砂糖との戦いにかまけてそれを忘れてはならない。簡単で安価なカロリーの高い食品は溢れていてそのような問題を解決するのも困難だろう。これらは難しい問題である。過剰なカロリーを減らすにはより広範な対策と何年もの時間が必要であろう。しかし我々はどこからか始めなければならないし最終的には政府が主導する必要がある。
リーディング大学食糧安全保障センター長Richard Tiffin教授
この報告書の発表を歓迎する。食事中の砂糖を減らすことは健康にとって重要である、特に子どもにとって。そしてこの報告書は多くの助言を含む。
ブリストル大学糖尿病と代謝内分泌教授Julian Hamilton-Shield博士
子どもの病的肥満治療に15年携わってきた医師として、私はこの報告を歓迎する

砂糖を減らす:根拠から行動へ
Sugar reduction: from evidence into action
22 October 2015
https://www.gov.uk/government/publications/sugar-reduction-from-evidence-into-action

  • 米国高齢者の食事と脳の萎縮を調べた研究への専門家の反応

expert reaction to study looking at diet and brain shrinkage in an elderly US population
October 21, 2015
http://www.sciencemediacentre.org/expert-reaction-to-study-looking-at-diet-and-brain-shrinkage-in-an-elderly-us-population/
Neurologyに地中海風食生活と脳のサイズの関連を調べた研究が発表された。高齢者では、地中海食に厳密に従っている人の総脳容量やその他の測定値が高いと報告している。
カージフ大学神経科学者David McGonigle博士
我々はみんな食事と脳の健康の関連について、特に高齢者での、知りたい。この研究はサイズが大きいことが印象的であるがいくつか明確にすべきことがある。
最初に、「大きい」とこは必ずしも「より良い」を意味しない。我々はまだ「脳細胞」の数の違いとMRスキャンによる脳の容量の値との正確な関連をはっきりとは知らない。それはモノを入れる箱の大きさを比べているようなもので、アマゾンから送られてくるものにはほとんど空っぽの箱もあればぎっしり詰まった同じ大きさの箱もある。現時点でわかるのは箱の大きさ−つまりMRでの容量だけで中身、つまり細胞密度はわからない。この二つは通常の発達時に一緒に様々に変化しその関連は加齢による萎縮で変わってくる。
二つ目は、もう一つの目立つ知見だが、食生活遵守率が「高い」群と「低い」群で知能や認知検査の結果に有意差がなかったことである。もし脳の容量の差が有意なら、知能や記憶でも差が出ることを予想するだろう。この研究では脳の容量に伴う影響が見られない。従って食生活は脳の萎縮にほんの少し保護作用があるように見えるが、その萎縮の影響が見られない。それは影響がないという言いたいのではなく、脳の容量の違いが行動に影響するという根拠がない。関係があるのならもっと調べた結果を期待する。
UCL医療画像科学教授でIXICOのCEO、 Derek Hill教授
脳が縮むこと−あるいは萎縮−は加齢による自然の帰結である。そしてこの萎縮は認知機能不全やアルツハイマー病の人で早く進む。しかし脳の容量は水分状態やある種の薬物など他の原因でも変わる。著者らは地中海食の人たちの脳が他の食生活の人より僅かに大きいことを発見している。著者らはこの横断的知見を加齢や疾患により時間とともに変化してきた縦断影響だと解釈し、さらにこのデータを地中海食が脳の萎縮を保護することを示したと示唆すらしている。しかしこの手の横断研究から経時変化や食事の保護作用についてしっかりした結論を出すのは不可能である。
ノッチンガム大学精神衛生研究所認知症研究教授Tom Dening教授
これは興味深い知見で地中海食が認知症予防になると考えている人にとっては励みになるだろう。しかしいくつかの限界があり、最も明確なのは横断研究では因果関係は言えないということである。さらに脳容量の標準偏差は、つまり個人個人の違いは、相当大きくグループ間でかなり重なっているということに注意。また研究者らが統計的調整をする前には群間で差がなかった。さらに認知検査のスコアには何の差もないようで、結局のところ脳の容量は実際重要なのかどうか疑問を生じる。通常臨床では測定していない。
MRC臨床科学センターとUCLの精神科臨床講師Michael Bloomfield博士
この研究は比較的大規模で健康的なバランスの取れた食生活と加齢による脳の容量損失削減の関連についての根拠をみつけた。しかしながら横断研究なので結論を出すには注意が必要である。
UCLHのNIHR認知症研究国家部長Martin Rossor教授
著者が指摘しているようにこれは横断研究で、萎縮が進行していることを示すには継続的画像撮影が必要である。