食品安全情報blog過去記事

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論文

Scienceshot
Scientists finally reveal mysterious migration of American eels
By Sid Perkins 27 October 2015
http://news.sciencemag.org/plants-animals/2015/10/scientists-finally-reveal-mysterious-migration-american-eels
2012年夏から2014年にかけてカナダのNova Scotia海岸で38匹のウナギに発信器をつけて放流し衛星で追跡したところ約1600kmの旅をしてSargasso海北端に到達したことをNature Communicationsに発表。

  • エストが1cm増えるたびに大腸がんリスクが増える

Increased risk of large bowel cancer for each 1 cm rise in waist circumference
27-Oct-2015
http://www.eurekalert.org/pub_releases/2015-10/sh-iro102615.php
連合欧州消化管週間(UEG Week 2015)での発表。
BMIが5増えると直腸結腸がんの相対リスクが18%増加する
食事と病気に関するインフォグラフィクスがある

  • 抗毒素治療が手に入らないために毎年数千人がヘビに咬まれて死亡

Thousands die from snakebite each year as anti-venom treatment out of reach
27-Oct-2015
http://www.eurekalert.org/pub_releases/2015-10/uom-tdf102615.php
BMJのエディトリアル。
オーストラリア毒研究ユニット長のメルボルン大学のDavid Williams医師が政府にヘビに咬まれることをもっと深刻に考えるべきでWHOには熱帯病として再度リストに含めることを強く求める

  • 肥満の子どもの健康は砂糖を減らすことでカロリーと関係なく速やかに改善する

Obese children's health rapidly improves with sugar reduction unrelated to calories
27-Oct-2015
http://www.eurekalert.org/pub_releases/2015-10/uoc--och102115.php

これについては

  • 肥満の子ども達の果糖制限と代謝指標を調べた研究への専門家の反応

SMC
expert reaction to study investigating fructose restriction and metabolic measures in obese children
October 27, 2015
http://www.sciencemediacentre.org/expert-reaction-to-study-investigating-fructose-restriction-and-metabolic-measures-in-obese-children/
Obesityに発表された論文で少数の肥満の子どもで食事中の砂糖を制限した影響を調べた。
SMCは砂糖と健康についてのファクトシートも作っている。
King’s College London栄養学名誉教授Tom Sanders教授
私の意見では、対照群がないこの論文の主張は注意が必要である。
この研究は平均体重93kgのとても太った子どもに9日間で行われ砂糖の代わりにデンプンを入れた食事を与えられて0.9kg体重が減った。対照群がないので砂糖の方がデンプンより太るという主張は調べられていない。比較したのは「いつも食べている」と報告されたものと、である。しかし肥満の子どもが食べた量を過小に推定し、特にスナックやソフトドリンクは過小報告するのはよく知られている。これはこの研究の基本的欠陥である。観察された変化は単にいつもより低カロリーの食事だったから、で説明できる可能性がある。
砂糖とデンプンのカロリーがほぼ同じなので砂糖をデンプンに変えただけでこれだけ大きな変化があるのは熱力学の基本法則に反する。9日で0.9kg体重を減らすには1日に630kcalのカロリー欠乏が必要である。血圧などの一部のパラメーターは繰り返し測定すると下がることが知られている(平均への回帰)。対照がないので介入の成果かどうかは不明である。摂取カロリーの制限は血圧を下げることが予想され、炭水化物の制限はインスリンにも影響する。
グラスゴー大学代謝医学教授Naveed Sattar教授
この結果は私にはそれほど説得力がない。小規模で対照が無い。体重が減ったらそれが少しであっても代謝の指標は大きく変化する。
英国心臓財団心臓の健康栄養士Tracy Parker氏
興味深い研究だが確認が必要である。

  • 砂糖毒性試験の欠陥をにらみつける

STATS
Glaring Flaws in Sugar Toxicity Study
by Rebecca Goldin | Oct 27, 2015
http://www.stats.org/glaring-flaws-in-sugar-toxicity-study/
新しい研究が、肥満の子どもは少しだけ砂糖を減らすことでカロリー制限なしに健康状態が速やかに改善できると主張した。主著者のRobert Lustigによるとこの新しい研究は砂糖が悪いのは体重を増やすからではなく「砂糖そのものが有害だから」ということを示す。この研究では28%砂糖食の代わりに10%砂糖食をたった9日で、血圧・トリグリセリド・LDLコレステロールが下がりグルコース耐性が改善し血中インスリン濃度が下がった。
信じられないようなたった9日のミラクルダイエットは本当か?ニュースメディアではなくこの研究の結論を砂糖が悪者だという証拠として丸飲みすると。しかしこの研究の科学は他の熱狂的食事法と似たようなものである。
この研究がしようとしたこと
43人の肥満の子どもに9日間砂糖の少ない食事を提供して多数の医学検査を行っている。年齢は8-18才で平均年齢は13才。予想されるように思春期発育の程度はばらばらである。
この種の食事研究には常に困難が伴う。砂糖摂取量の観察研究は無数の交絡要因がある:砂糖を多く食べる子どもは食べない子どもとあまりにも多くのことが違うので砂糖がどのくらい影響しているのかを知るのを不可能にしている。Lustigの研究では肥満の子ども達は普通通りの食事でその砂糖をデンプンに変えた。理論的にはカロリーは同じである。
対照
これは無作為化試験ではなく対照群がない。全ての子どもが特別食を与えられた。対照がないので解釈が難しい。試験に使われた食品は子どもの報告に基づき、実際にいつも食べているものについてのデータはない。子ども達は10日間食事のことを考えて過ごし毎日体重を計る。そういう状況だけで食習慣が変わり生物学的指標は改善する可能性がある。
減量
この研究は子どもの体重維持に必要なカロリーを大幅に過小推定している−計算間違いか自己申告を信じすぎたのか−そして研究デザインの悪さを反映している。(注:太っている人ほど自己申告は実際に食べたものより少ないことが報告されている)理論的には十分な食事を与えられた子どもは体重が減ることはない。しかし子ども達はたった10日間で平均2ポンド体重が減っている。砂糖の原因だと言いたいなら体重は維持されなければならない。
結果
子ども達は0日目と10日目でグルコース負荷試験を行っている。しかし結果の違いは砂糖のせいなのか減量のせいなのかわからない。著者らは体重が変わらなかった子ども達でも改善が見られたと主張しているがデータは明確ではない。また後からサブグループ解析をすることには問題が多い
統計解析
そしてこの研究の結果は多重比較の影響を考慮していない。たくさんの比較をすれば0.05の可能性で帰無仮説が棄却される項目があるのは当然で、コインを投げたデータであっても何かは有意になる。この研究では全てのデータが独立しているわけではない。血糖値っとインスリンは相関がある。しかし著者は多重比較の補正をしていない。
そして子ども達の多様性も考慮していない。
多くのメディアは批判的思考無しに報道した−Guardianを除いて
Time Magazine、The New York TimesWall Street Journal、 San Francisco Chronicle、New York Magazine、NBCニュース、Daily Mailなどが砂糖が悪いことが明確になったといった報道をした。Guardianのみが対照群がないことや体重が減っていることを指摘した批判的コメントを同時に掲載した。