食品安全情報blog過去記事

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その他

  • 褐色にならないArcticリンゴの背景にあるハードサイエンス

The Hard Science Behind The Non-Browning Arctic Apple
By Kevin M. Folta | February 7th 2017
http://www.science20.com/kevin_m_folta/the_hard_science_behind_the_nonbrowning_arctic_apple-224898
りんごが空気に触れると褐色になるが、これを抑制するArcticリンゴがもうすぐ手にはいるようになる。このリンゴについて誤解を招く記事が多い。そこでより詳しく説明しよう。
果物の褐変
褐色になるのはポリフェノールオキシダーゼ(PPO)という酵素による。この酵素はカテコールや4-メチルカテコールのようないろいろな化合物を変換して他の化合物にし、果物の魅力を減らしてしまう。褐色にならない品種は新しいものではなく、ゴールデンレーズンはPPOを欠く。これはサルタナブドウの自然発生突然変異である。
Okanagan Specialty Fruits社の科学チームはPPO活性の低いリンゴを作った。どうやって?これは遺伝子サイレンシングとして知られる。
分子生物学初級コース
DNAは植物細胞の核にしまわれている丈夫な二本鎖分子である。DNAの情報は一本鎖の不安定な中間体であるRNAにコピーされる。RNAは核を出てコードされた情報をタンパク質、ここではPPO、を作る装置に伝える。図のAに相当する。
遺伝子サイレンシング
遺伝子サイレンシングはこのRNAを標的にする。もしRNAを壊したり干渉したりすれば情報は失われPPOはできない。
多くの場合標的配列(この場合PPO)の反対側の方向にDNA配列を加える。(図B)つまりジッパーの両方の再度のような、相補的RNA鎖を作る。普通は一本鎖のRNAが反対向きのRNAとDNAらせんのような安定な二本鎖を作る。これが作られると細胞の警報システムが働いて二本鎖RNAは壊される。これをアンチセンス抑制という。
また前向きの遺伝子配列のすぐ後に逆向きの同じ配列を加えることも可能で、これだとRNAは折りたたまれてヘアピン型の二本鎖を作る。植物はこれをトラブルと解釈して強い反応をおこす。このアンチセンスとヘアピンによる抑制は世界中の実験室でいろいろな生物で行われている。自然界で自然発生することもある。
しかしこのどちらもArcticリンゴのやり方ではない。
ではArcticリンゴはどうやってる?
ArcticリンゴではPPO遺伝子を極めて高レベルで発現させている。これはとても簡単にできるが、皮肉なことに高レベル発現はフィードバックがかかって同じ遺伝子を抑制する。これが図Cである。
全ては1980年代にRich Jorgensen博士の実験室で深紫のペチュニアを作ろうとしたことら始まる。彼らは紫色の色素の産生を制限する遺伝子の一つを非常に高いレベルで発現させた。その結果がショッキングだった。より濃い紫になると思った花は雪のように白い、あるいは紫の中に白い模様が入った。彼らはこれを「コサプレッション」と呼んだ。加えた遺伝子と元々の遺伝子の両方が抑制されたからである。新しい科学の分野が花開いた。
これがArcticリンゴでおこっていることである。PPO遺伝子(実際には4つの配列、それぞれがリンゴのPPOファミリーの一員)を高レベルにオンにしたため植物のそれを抑制するメカニズムが働いている。
そう、正しく読んだ。高レベルに発現させるとその産物ができなくなるのだ。
直感に反するように聞こえるかもしれないがこう考えたらどうだろう。細胞にはRNAが大量にあることはウイルスの攻撃かもしれないので検知するシステムがありだからシャットダウンする。技術的にはもっと複雑だが考え方としてはいいかもしれない。
結論
これはパパイヤリングスポットウイルスに使われたのとは違う遺伝子サイレンシングの一つの例である。RNAサイレンシングは望ましくない形質−PPOやウイルス、色、病気に罹りやすくする遺伝子−の発現を抑制するのに使える。Arcticリンゴは食生活にリンゴを増やし生産者の収入を増やす可能性がある。私は食べたことがあるしもし買えるようになったら喜んで買うだろう

'Fast-Casual': The New Fast Food
by Berkeley Wellness | March 01, 2017
http://www.berkeleywellness.com/healthy-eating/food/article/fast-casual-dining-new-fast-food
Panera Bread, Chipotle, True Food Kitchenなどの最近流行の「ファストカジュアル」あるいは「プレミアムファストフード」について。1999年以降売り上げが増加し現在は米国のファストフード市場の10%を占める。
ファストフードのように手軽に、「質の高い」ものを提供するというのがコンセプトで、オーガニックや地元産、生鮮、GMOや高果糖コーンシロップ・精白小麦粉などの不使用、環境に優しいなどを宣伝している場合がある。驚くことではないがファストフードが大体一食あたり5ドルなのに対してファストカジュアルは9-13ドルと高くつく。
しかしファストカジュアルレストランのメニューが全て健康的だとみなさないように。カロリーや栄養情報をチェックするように。外食はいつもそうだが、塩が多いので定期的に通わないこと。自宅で塩の少ない食事を作る方が健康にも良くお金もかからない。

  • 魚の偽装は根深い

Fish Fraud Runs Deep
by Berkeley Wellness | March 02, 2017
http://www.berkeleywellness.com/healthy-eating/food-safety/article/fish-fraud-runs-deep
議論の多い団体Oceanaが2010年からシーフード偽装について報告している。2016年9月の最新報告では55ヶ国25700シーフードの20%が誤表示されていて、米国では2014年以降平均28%である。この報告は主に過去10年の200以上のピアレビューのある研究やジャーナリストによる調査、政府文書などを含む。
以下のようなことが指摘されている
・全ての国のほぼ全ての研究でシーフード偽装が発見されている
・誤表示は水揚げからレストランまでフードチェーンのあらゆるところで生じる
・最も良く代用品にされているのはアジアのナマズパンガシウス)で18の異なる種類のより高価な魚にされていた
・研究の2/3では偽装は国際的で経済的利益が動機のようだ
・さらに心配なのはアレルギーや消化管への影響があるアブラソコムツを「ホワイトツナ」と表示するなど健康リスクとなる可能性のある変更が58%である
Oceanaはシーフードの完全トレーサビリティを求めている。米国では現在シーフード監視計画が最終化の段階で、批判者はトレーサビリティが米国に輸入された時点で終わることやたった13種類しかカバーしないなど十分でないと言っているが良いきっかけにはなるだろう。
シーフードを選ぶときにはどこからきたどんな魚か、持続可能なものかどうか尋ねよう。可能なら誤表示されることが少ない丸ごとの魚を買おう。安すぎるものには注意。シーフード認証も役にたつ。しかし最も簡単な解決法は安い種類の魚を選ぶことだろう−なぜなら表示が本当であり持続可能な可能性が高い。

  • GMO 科学を超えてII

GMO  Beyond the science II
https://www.geneticliteracyproject.org/tag/gmo-beyond-the-science-2/
・「フェイクニュース」ワールドの中でGE食品についての消費者の混乱のややこしい事例
・新しい技術の採用は倫理的にやるべきこと
・如何にして欧州のNGOがアフリカの作物バイオテクノロジー採用を阻止したか
・科学否定主義は食品技術の進歩を妨げる世界的問題
・アジアの農業バイオテクノロジーは官民部門の緊張とNGOの活動で遅れをとっている
・今日の農業について消費者の信頼を得るには科学より先に価値観の共有
有機農業は環境に良いのか?
・農業と食糧における技術:農家や生産者は信頼を築く必要がある
・グリホサート無しで、農業はどんなものになる?
・新しい技術の消費者受容には透明性が鍵
・遺伝子編集動物は規制されるべきか?
・バイオテクノロジー規制は食品や農業の革新を抑制する?

シリーズIは2014年
GMO Beyond the science I
https://www.geneticliteracyproject.org/tag/gmo-beyond-the-science-1/

  • 避難していた人達が戻ってきて、福島の除染は手強い障害に直面

Scienceニュース
As evacuees move back, Fukushima cleanup faces daunting obstacles
By Dennis NormileMar. 2, 2017 ,
http://www.sciencemag.org/news/2017/03/evacuees-move-back-fukushima-cleanup-faces-daunting-obstacles
福島で2050年まで続くと予想されている除染の努力を6年、確実に前進していると作業の主導者は言うが困難な技術的障害が残っている。
2011年3月11日の日本の東北沿岸の地震津波により約16000人が殺され、2500人が行方不明になり、沿岸部のインフラを消し去った。津波福島第一原子力発電所の冷却システムも破壊し炉心が溶融し水素爆発が建物の屋根や壁を吹き飛ばし大量の放射線を放出した。汚染の多くは太平洋に流れ去ったがいくつかの地域に降下した。発電所近くに住む約16万人が避難あるいは自主避難した。
災害から6年を迎える直前、当局者は近傍住人の健康への脅威を最小限にする努力は成功したと自慢する。壊れた炉から出る放射線はもはや発電所の外には影響はない、とTEPCOのNaohiro Masudaが本日の記者会見で語った。避難していた人は戻りつつあり除染は暴露量を減らした。TEPCOは廃炉までのロードマップを着実に進んでいるという。しかしそれは安くはない。経済産業省は総費用の見積もりを1880億ドルと改訂した。
汚染水の浄化は困難な課題であり続けている。
(以下略。)