食品安全情報blog過去記事

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ナノ粒子と乳児用ミルク

Nanoparticles and infant formula
July 2017
http://www.foodstandards.gov.au/consumer/foodtech/nanotech/Pages/Nanoparticles-and-infant-formula.aspx
最近のFriends of the Earthの報告でオーストラリアとニュージーランドで販売されている一部の乳児用ミルクからナノサイズの粒子が検出されたと主張している。
FSANZは入手可能な情報をレビューし、これにはこれらの製品が乳児の健康と安全性にリスクとなることを示唆する新しい根拠は何も含まれないと結論した。この結論は我々のナノテクノロジー科学助言委員会の専門家により支持されている。またオーストラリアSMCの専門家の反応も参照。
乳児の保護者はこの報告により怖がったり心配したりすべきではない。
FSANZは以下の点を注記する:
・ヒドロキシアパタイトは胃のような酸性環境で溶けるので食品に少量含まれるものは溶けてカルシウムとリン酸になる。これらは必須ミネラルであり乳児用ミルクには必要である。
・カルサイトはナノサイズだろうとより大きい粒子だろうと消化管で溶けにくい。少量はカルシウムとして吸収されるだろう。
・二酸化ケイ素は食品添加物として安全に使用されてきた。先のプレスリリース参照。
・ナノスケールの物質は新しいものではない。食品には天然にナノスケールの糖やアミノ酸やペプチドやタンパク質など機能的ナノ構造を作るものが含まれる。例えばタンパク質はナノスケールの大きさで、牛乳にはナノサイズの脂肪滴が含まれる。乳児を含むヒトはこれらの食品中の粒子を進化の全段階で、ナノサイズだからということによる健康への悪影響の証拠もなく摂取してきた。
・ナノサイズの粒子があることは意図的に加えたせいではなく天然由来あるいは加工時に生じた可能性がある。
・ナノスケールだろうとそうでなかろうと、食品基準に許可されていない何かが食品に存在することが、食品が安全でないことを意味するわけではない。

オーストラリアとニュージーランドで販売されている全ての乳児用ミルクは厳密な基準を満たさなければならない。

  • 専門家の反応−乳児用ミルクのナノ粒子

(SMC豪州の記事、サイトはFSANZ)
Expert reaction - nanoparticles in baby formula
July 2017
http://www.foodstandards.gov.au/consumer/foodtech/nanotech/Pages/Expert-reaction---nanoparticles-in-baby-formula.aspx
キャンベラ大学とクイーンズランド大学の非常勤教授で毒性学コンサルタントAndrew Bartholomaeus非常勤教授。もとTGAの主任毒性学者でFSANZのリスク評価部門の統括管理者
FoEの報告はカルシウムの多い加工食品がリン酸カルシウムの小さな結晶(カルシウムアパタイト)を多く含むという当たり前の観察結果を示したものだ。由来にかかわらず、カルシウムアパタイトはヒトの歯や骨の普通の構成成分であり、ナノ粒子としての沈着も正常なヒトの組織で少量みられる。またカルシウムアパタイトは酸性条件で溶けるので乳児用ミルクの必須成分であるこの物質はナノでなくなるだろう。
同様に二酸化ケイ素も食品、化粧品、医薬品成分としていろいろな製品に使用されてきて有害影響の根拠はなく、ミルクに微量存在することが健康リスクとなることはありそうにない。
ナノサイズであること自体がヒト健康リスクであるという根拠はなく、母乳にもナノサイズの物質は含まれる。腸内でも細菌叢の作用でナノ粒子は生じる。従って少量のナノ粒子はヒトの食事の普通の成分であり心配する必要はない。
FoEには、母親が子どもの健康を案じる自然な気持ちを利用して特に問題のない分析結果で恐怖を煽り、自分たちの目的を果たそうとするようなことをしないだけの倫理があったらいいのに。
アデレード大学薬学領域医学部上級講師Ian Musgrave博士
ナノ粒子は天然に存在するにもかかわらず最新の悪者(boogeyman)になった。FoEの発表は自然の生物学的文脈も外し、その粒子が人工かどうかも支持しない。乳児用ミルクはミルクからできているのでカルシウムとリン酸を含む。だから粉ミルクにヒドロキシアパタイトが含まれていることは驚くべきことではない。ミルクに含まれる量で毒性はない。この知見に公衆衛生上の意味はない。
クイーンズランド工科大学ナノテクノロジー分子科学上級講師Emad Kiriakous博士
(略)
環境中化学物質の専門家でメルボルン大学教養学部名誉専門家Ian Rae教授
これは典型的な「ナノ恐怖扇動NANO SCARE」である。「あなたはこれらの製品を使うと赤ちゃんにとがった針のようなものを与えていることになるのですよ」という、特定の人たちだけに向けたレトリック'dog whistle'である。
専門家でない人たちを恐怖で服従させるのに分析化学の力を使っている。理解できる人にとっては「だから何?」だろう。
Media coverage about nanotechnology in food and food additives
17 March 2017
http://www.foodstandards.gov.au/consumer/foodtech/nanotech/Pages/Sydney-Morning-Herald-nanotechnology-response.aspx

http://d.hatena.ne.jp/uneyama/20160519#p5からさらに更新されている

SMC NZ

  • 乳児用ミルクのナノ粒子−専門家の反応

Nanoparticles in baby formula – Expert Reaction
July 3rd, 2017.
https://www.sciencemediacentre.co.nz/2017/07/03/nanoparticles-baby-formula-expert-reaction/
専門家は環境ロビー団体が乳児用ミルクにナノ粒子が存在するという科学的根拠を曲解しているという。
シドニーモーニングヘラルドがこの週末にFriends of the Earthの行った検査でオーストラリアで販売されている乳児用ミルクにナノ粒子が存在することを発見したと報道した。活動家団体はそれらの粒子が有害である可能性があると主張する。
FSANZはその報告に新しい根拠はなく心配しないようにという。
オークランド大学のナノテクノロジー研究者Michelle Dickinson 博士はニュージーランドヘラルドに、多くのナノ粒子は天然に存在し、心配ないと言う。Dickinson 博士は保護者を怖がらせるために科学的ジャーゴンが使われているとsciblogs.co.nzに書いている。
以下SMCオーストラリアが集めたコメント。