食品安全情報blog過去記事

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NZ SMC

研究が残留農薬IVFの成功に疑問を提示−専門家の反応
Research raises question over pesticide residues and IVF success – Expert Reaction
October 31st, 2017.
https://www.sciencemediacentre.co.nz/2017/10/31/research-raises-question-pesticide-residues-ivf-success-expert-reaction/
米国の研究で不妊治療を行っている325組のカップルで、残留農薬の多い果物や野菜を食べている女性がIVF後の妊娠と生きた出産少ない傾向がある。著者らはこれはヒトでのこの種の研究では初めてのもので、観察研究であり因果関係は確認できないためさらなる研究で確認が必要だと言っている
オーストラリアと英国のSMCがこの研究に対する専門家の反応を集めた。
アデレード大学医科学部医学部薬理学専攻上級講師Ian Musgrave博士
IVFで妊娠しようとしている不妊カップルは、妊娠を成功するために相当な障害があり、IVFの失敗に環境要因も寄与するかもしれない。この論文はそのような環境要因の一つが野菜や果物の残留農薬である可能性を示唆する。この研究には多数の限界がある:参加者が比較的少ない、食事摂取はアンケートで決めている(思い出しバイアスがある)、妊娠に影響する可能性のある他の医薬品については調べていない、残留農薬摂取を確認していない(食品の検査も尿の検査もしていない)。
この研究で最も驚くべき知見は「農薬の多い」果物と野菜を最も少なく食べている女性の総妊娠損失が、「農薬の少ない」果物と野菜を最も少なく食べている女性より少ない(約15%と40%)ということである。このような少ない妊娠損失自体が驚くべきことだが、少量の「残留農薬の多い」果物と野菜を食べると保護作用があるというのはありそうにない。これが数が少ないための統計学的逸脱なら、実際の数字はもっと高いはずで主張全体に根拠が無くなる。
まとめると、我々は環境汚染物質の妊娠への影響の可能性については注意深く研究すべきだが、この研究は残留農薬IVF失敗の原因であるというもっともらしい根拠を提供しない。
王立オーストラリア化学研究所前所長メルボルン大学化学部化学と環境専門家Ian Rae教授
不妊治療している女性にとって、残留農薬の少ない野菜や果物を食べることが妊娠や出産のチャンスを増やすか減らすか?著者や編集者がなんと言おうと、この研究をもとにしては何も言えない。
相関する結果から因果関係を言うのは非常に難しい。この研究のようなもの(とそれを発表した編集者や雑誌)は注目され警鐘となるが、そうなるべきではない。
疫学的方法を使う研究者は疑っている原因に暴露された対象者の集団を探し、それを同様の構成で暴露のない集団と比べ、考慮されていない他の要因がどれだけあるか検討する必要がある。大規模な集団が必要で、325よりは必要である。小規模だと統計的変動による「偽陽性」の危険性が常にある。例えばコインを20回トスしたとき、裏が10回表が10回になる可能性は低い。それが統計的変動である。
この研究では参加者は既に不妊であることを知っている。彼らは大規模集団を代表しない。そして最も暴露の多い群での臨床的妊娠可能性が18%低いことと生児出生26%低いことは弱い影響である。そして低暴露群では影響は消失している。
アメリカとオーストラリアでは残留農薬は厳しく規制されているが複雑な分野で、極めて小さいが疑いの余地はある。農薬はケースバイケースで規制されている。複数暴露が常に心配されているがそれが深刻な問題かどうかを評価するのに役立つデータはない。このケースでは研究者はどの農薬が関与するのかすら知らない−そしてMRLを知っていても実際の総摂取量を知らない。
よく知られている思い出し研究の欠陥による不確実性に加えて、殺虫剤やガーデニングなどの他の暴露は?
そして新鮮な野菜や果物を食べることが問題だろうか?多分違う、それらに残っている可能性のある微量の農薬のリスクよりもそれらのベネフィットのほうが上回るだろう。
ブリストル大学小児科周産期疫学名誉教授Jean Golding教授
これは興味深い研究だが多数の不確実性がある。研究者らは女性達が食べた野菜の果物の種類と米国で発表された残留農薬平均濃度から農薬の量を推定し、オーガニックかどうかに配慮している。妊娠が困難な女性が農薬暴露が少ないと妊娠に成功する可能性を示しているがこの結果は最良に見積もっても示唆するに留まる。実際の農薬暴露量を調べた詳細な研究が必要である。
ロンドンクイーンメリー大学病理学名誉教授Colin Berry卿
この研究について強調すべき3つのポイントがある。まず最初に、農薬摂取量は測定されていない、推定されているだけである。二つ目に「農薬」は代謝も経路も大きく異なる広範な化合物の総称であり、異なるクラスの化合物の人体での挙動は大きく異なる。妊娠アウトカムと全ての農薬の関連を調べるのは良い情報にならず少なくとも農薬の種類を分けるべきである。最後に報告されている信頼区間は非常に広く、これらの結果はしっかりしたものではないことを示唆する。

もと論文は
Association Between Pesticide Residue Intake From Consumption of Fruits and Vegetables and Pregnancy Outcomes Among Women Undergoing Infertility Treatment With Assisted Reproductive Technology
https://jamanetwork.com/journals/jamainternalmedicine/fullarticle/2659557

コメントがついていてこっちのほうがわりとひどい
Pesticides and Human Reproduction
Philip J. Landrigan
https://jamanetwork.com/journals/jamainternalmedicine/fullarticle/2659554
DDTやヒ酸鉛は減ったものの発がん性グリホサートと神経毒性ネオニコチノイドの使用が急増しているとか途上国で農薬による中毒でヒトが死んでるとか。最後は医者はオーガニックを食べるよう患者に薦めて農薬を厳しく規制する政治家に投票すべきと。
(もともと鉛、アスベスト、農薬が危険と主張し続けている人。)