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SMC UK

世界中の有機農業をモデル化した論文への専門家の反応
expert reaction to paper modelling worldwide organic agriculture
November 14, 2017
http://www.sciencemediacentre.org/expert-reaction-to-paper-modelling-worldwide-organic-agriculture/
Nature Communicationsに有機農法による持続可能な食糧供給戦略についての新しい研究が発表された
Rothamsted研究所持続可能農業部Lawes TrustシニアフェローDavid Powlson教授
これは将来の食糧システムについて議論するための良い土台となる研究である。世界の食糧システムは、収量のみでではなく、評価されなければならないというのは極めて正しい。著者らが検討している二つのこと−ヒトが食べる肉の量を減らすことと食糧廃棄を減らすこと−が、有機農業に関するどんな考察にも関わらず、効果的で政策的に推進する必要があることである。肉を食べる量を減らすことは温室効果ガスの排出削減にもなる。著者らは有機農業だと慣行農法に比べて25%作物の収量が減ると想定している。これは妥当な想定だが地域やシステムにより相当異なるだろう。ただ私は彼らがオーガニック農法での作物栽培の違いを完全に考慮しているかどうかは疑問がある。有機農法では慣行農法より頻繁に作物のローテーションを行うため、小麦の収量が(一回の収穫で)25%減るだけではなく栽培できる年数が少なくなるためローテーション全体を考えるとさらに減ることが避けられない。従って有機農業で必要な土地の広さについては過小推定ではないかと思う。
著者らは有機農法では窒素の供給に課題があると指摘している。彼らは豆を入れると窒素が固定できると想定しているがこれも豆が供給する窒素に過剰推定が疑われる。「方法」の項目を読むと5年に1回豆を植えるとしているがこれは少ない。二つ目に肉の代わりにタンパク源として豆を育てるとしている。豆はタンパク源とされるなら固定した窒素は収穫されて土壌にはあまり残らない。緑肥として植えるならそれは収穫されないことになる。状況によっては緑肥はカバー作物として何も育てていない土地に植えられるがそれは限定的で窒素源としては限られた量にしかならない。
私にとってこの研究で最も意味のある知見は、最大限に楽観的な想定をしても、有機農業が増加することによって必要とされる土地の増加は、森林破壊を増加させ大量のCO2を排出するということである。野生生物の住処を奪うことは言うまでもない。従って有機農業の利点と欠点を評価する必要がある。森林破壊を加速することは彼らの言うところの農薬使用を減らすことの価値に見合うか?これは議論の基盤になるが、私は「ノー」と言いたい。もちろん農薬使用量は減らしたいが私はより良い規制と安全な使用方法を探りたい。余剰窒素についても同じである。減らす必要はあるがより良い新しい管理方法がある。
(長いので以下の草地などについて略)
James Hutton研究所生態科学主任科学者Geoff Squire博士
この論文はフードシステムモデルを用いて一連の栄養や環境指標を使って、将来の世界人口を養う食糧を作るのに必要な土地を各種シナリオで推定している。この論文のオーガニックと非オーガニック生産の比較アプローチは、しばしば極端になりがちなオーガニックについての議論から離れた主張を導く。このモデルではある種のオーガニック生産と食品廃棄の削減と肉を食べる量を減らすことと窒素固定豆類をもっとたくさん使うことの組み合わせで2050年の人口を既存の農地を増やすことなく維持できると示唆する。しかし食品廃棄の削減と飼料の削減と豆の利用増はオーガニックに限らず薦められるべきであろう。さらにアルコールとバイオ燃料の生産に使う土地を減らすことも考えるべきであろう。
さらに生産方法とその影響の推定は特定の地域ごとに調整すべきである。例えば元々ミネラルの少ない土地にミネラルを加えることなく食糧を生産するのは難しいだろう。
Warwick大学応用統計学とリスクユニット長Martine Barons博士
この論文は有機農法で世界人口が養えるかを検討した。検討したシナリオは有機農法の割合各種、土地利用の拡大、食品廃棄の削減、飼料の削減である。目標はより持続可能な食糧システムを作ることである。直感的には、「持続可能」という言葉は使ったものが元に戻るということを意味すると理解するが、システムの持続可能性の程度はどうやって測定できるのだろうか?昔に比べて持続可能性が増えたのか減ったのか測定するものさしはあるのか?「持続可能性」の正確な意味を著者らは明示していない。
フードシステムは単独では存在できず、食糧−エネルギー−水の相互に影響し合う結びつきであるという認識が増加している。この論文では水とエネルギーのコストは常に同じであると想定して、必要な土地の増加分は現在動物用飼料を育てている土地を全てヒトの食料に変えて食品廃棄を50%削減することでまかなえると結論している。
明確には考慮されていないことのひとつはシステムの不確実性の定量である。タンパク質とカロリーの生産量は2005-9年の値で計算されているが、たとえ気温の変化が無くても気候は毎年変わり食糧生産には波及効果がある。生物多様性にも言及していて農薬使用が減ると森林破壊の悪影響が緩和されると示唆している。しかし生態系は多様性だけではなく量も必要である。さらにある種の殺虫剤は恐ろしい寄生虫を管理するにも必要で農薬の完全禁止は非現実的である。近代農業は病害虫による食糧生産の著しい減少を避けることを可能にしてきた。必要な時に必要なところに使うスマート技術がますます使われるようになり使用量は減っている。有機農業にすると人々が飢える可能性は高くなるだろう。
最後にこの研究では人間の要素を除外している。フードシステムが複雑なのは人々の選択や行動が複雑なことも理由の一つで介入は難しい。夕食に肉ではなく豆を食べるというのはどうやればいいのか?
この論文は相当な仮定の下に価値ある貢献をしている
Queen Mary, University of London (QMUL)病理学名誉教授Colin Berry卿
全てのモデル同様、仮定をどうするかで結論は大きく変わる。草地が一定という想定は大きなものである。廃棄物の問題を防カビ剤なしで管理するのは困難だろう。冷蔵はエネルギーを使う。大きな問題は、有機農業のメリットとされるものが、周囲や過去の有機でない農業のおかげで得られているという事実である。周囲の農場が害虫を管理しているおかげでオーガニック農場の害虫が少なくてすんでいる。世界には正常な生長のためにタンパク質が不足している集団もある。
Leeds大学持続可能農業部長Les Firbank教授
有機農業の疑問の一つはそれで世界を養えるか、であるがこの論文はモデルを使ってそれを調べた。彼らは可能だと結論しているがそれには肉を食べずに廃棄を減らす必要がある。このモデルは単なるガイドとみなせる:数多くの仮定がありその中のには間違いもあるだろう。そしてモデルは現実に比べて単純すぎる。しかし中核のメッセージは価値がある:我々は社会として世界の食糧需要にどうやって応えるか真剣に検討する必要がある
Newcastle大学自然環境科学農場管理上級講師Jeremy Franks博士
著者はいろいろな組み合わせを検討しているがどれも薦めていない。
100%有機農業にすると相当な森林破壊になり、持続可能でない。将来の作物生産システムの進化が有機農法か慣行農法かという二分法を無くす方向で達成されるだろう
(英国はこういう議論、ほんとうによくやっている)