食品安全情報blog過去記事

はてなダイアリーにあった食品安全情報blogを移行したものです

BfR 2 GO: 消費者の健康保護「進むべき道」

BfR2GO: Consumer health protection "to go"
43/2017, 19.10.2017
http://www.bfr.bund.de/en/press_information/2017/43/bfr2go__consumer_health_protection__to_go_-202669.html
最もよく不純物を混ぜられやすいのはどの食品?どうしたら動物実験の件数を減らせる?食品の多様な残留物に関連するリスクとは?これらは一文で簡単に回答できないが、雑誌では適切に取り扱うことのできる質問である。今後、BfRは年に2回、消費者の健康保護分野の話題に注目した、新しい形式の"BfR2GO"を発行する。毎号、BfRの活動分野から時事的なテーマを取り上げて特集する。「創刊号の特集は、食品と飼料の真正性である。これは、評価および研究の領域において、劇的に発展した分野である。誰でもこの雑誌を読めば、日常生活で遭遇するリスクの研究、評価、伝達について見識を得られるだろう。」とBfR長官Dr. Andreas Hensel教授は述べた。

  • BfR 2 GO 2017年1号: 食品の真正性: 食品偽装者を追い詰める

Food authenticity: Tracking down the food fraudsters
BfR 2 GO: The Science Magazine of the German Federal Institute for Risk Assessment Issue 1/2017
http://www.bfr.bund.de/en/publication/science_magazine__bfr2go_-202666.html
BfR 2 GOは、BfR (Bundesinstitut für Risikobewertung: ドイツ連邦リスク評価研究所)が一般向けに年2回発行する科学雑誌。この2017年1号では、食品の真正性および食品偽装の問題を取り上げる。
♦ 主題:食品の真正性
◊ 食品偽装者を追い詰める
○ 食品の指紋捜査
BfRの研究所では、科学者たちが、食品や飼料における特徴的で明確な指紋を検出して、真正性を検証したり、偽装を示す逸脱を捜し当てようとしている。
『原産地名称保護』の品質マークも、本物と偽物を見分ける方法なくしてはあり得ない。BfRは、『供給チェーンにおける真正性保証』グループを作って、技術者を育てている。
○ 非標的分析法
BfRは既に、様々なワイン、食用油、ハーブ、スパイスなどで、物理化学的な指紋データを保持している。また、偽装者側に立って、食品に混ぜ物をした場合のデータも集めている。
食品指紋を使う新しい分析法(非標的分析法)は、特定の偽装食品を探すよりも融通性があり迅速な対応が可能である。
○ 食品指紋のクラウドデータベース
BfRは、食品指紋のクラウドデータベース構築のため、認証された公的および民間研究所が食品指紋を登録・活用できるように共同研究を行っている。監視機関もこのクラウドデータベースを利用して照合が行えるようになる。
○ ネットワーク化された参照データベース
BfRは、データの評価のための、数学的および統計学的モデルを構築しようと研究を行っている。また、データのやり取りをスムーズにするためにデータ方式の協調を図ろうとしている。
これらの構築には、今後10〜15年が見込まれている。
より詳しい情報は、以下のサイトを参照されたい。
http://www.bfr.bund.de/en/a-z_index/authenticity-197999.html
◊ 正規品か偽物か—食品偽装にともに立ち向かう
○ 食品の完全性
38の提携組織から成るEUコンソーシアムが立ち上げられ、偽物を認識するための構造的および方法論的前提条件を確立しようとしている。2018年末までの予定。
○ 食品の真正性
食品指紋分析法が定常的に使用できるようにするための基礎作りが3年計画で行われている。2019年4月までの予定。
○ 動物の由来確認
動物用飼料や食肉のタンパク質を分析して、飼料の起源や食肉の動物種を確認できるようにしようとしている。BfRはこのための4年計画を統括している(2016〜2019年)。
○ 食品のリスク評価用ソフト
BfRは、FoodChain Lab.などのソフトウェアを開発し、飼料や食品の追跡に役立てたり、飼料や食品に基づく危機の数学的なモデルを提供しようとしている。
○ SPICED計画
スパイスやハーブは非常に多くの食品に添加されている。
SPICED計画は、EU 7ヵ国からの11の提携組織により、2013〜2016年にかけて実施される。欧州におけるスパイスやハーブの供給チェーンの安全を図る。
◊ 偽装食品を取り締まりたい(BfR副長官Wittkowski博士とのQ&A)
○ どんな食品がよく偽装されているか?
高価でブランドが確立された製品。例えば、オリーブ油、ヤギの乳からできたチーズ、ワイン、蒸留酒など。質の悪いものを良いものとして売ったり、産地を偽装したりすることが一般的。
○ このような状況下で食品の安全性を信じてよいのか?
基準が食品業界に存在し、監視機関が基準遵守の検査機能を果たす限りにおいて可能となる。
パルマハム(イタリアの特産品)がパルマ産でなかったとしても必ずしも健康リスクが生じるわけではない。経済的な理由以外に生産者が偽装を行う理由はあるか?
偽装者の動機についてはわからない。我々は偽装を見つけたときには言うまでもなくリスク評価を行っている。
○ 何か例を示してほしい
2、3年前にラザニアの中に牛肉と偽った馬肉が検出された。健康リスクは無いと思われたが、馬肉の出所が分からず、禁止薬物等の汚染があるかもわからなかった。その後の検査で安全だと宣言された。
イラン産のピスタチオにマイコトキシンが高濃度で検出された事例では、伝統的な栽培法に問題があった。結果、欧州への輸入の際に制裁措置がとられた。その後、イラン産ピスタチオがカリフォルニア産と偽装される例が現れた。
○ 第一に考慮されるのは消費者の安全であって、偽装食品からの保護ではないということか?
私としてはその答えは「はい」である。偽装者は毒性学者ではなく、危険性をわからずに混入したりするため、食品の安全を維持することに焦点が向けられる。
○ 研究と偽造がまるで競争をしているようだが、正しい方法はいつもあるのか?
偽装者がどのような新アイデアを思いつくかはわからない。ただ、食品指紋法は、標準から逸脱した偽装を検出するだけでなく、これまで知られていない不良化や改ざんを見つける機会をもたらす。
○ こうした方策は、すでに実践されているのか?
民間の分析研究所では既に食品指紋法が取り入れられている。しかしそれぞれが自前のデータでしか機能していない。データーベース構築の面での協調が望まれる。
BfRは食品の真正性の検証にどのように貢献するのか?
我々の固有の特性は、リスク評価と研究を行うことである。他の評価機関と異なり、自分たちの研究所を17ヵ所持っており、厳しい目で評価法を吟味し、データが信頼でき意味のあるものであるかどうかを審査する。国レベルでは、既に連邦の公的食品監視機関と密接に協働している。
BfRは具体的にどのような活動をするのか?
1990年代にワインの真正性を検証するデータベースを立ち上げた。核磁気共鳴法を食品の分析に最初に取り入れた。これらの経験を他の食品にも応用する。豊富なデータで複雑なモデル化も実施する。FoodChain Lab.といったソフトウェアも腸管出血性大腸菌による危機の中で開発した。
○ 次の段階では何をするのか?
標準データの作成について、2016年11月に世界から100人の専門家を集めた会議を開き、検討を始めている。私としては、食品の真正性に関する統一された検査法を確立し、データ収集を行うために、欧州基準研究所が必須だと考えている。
♦ リスク認識
◊ 感知したリスクから目を離さない
BfRは、BfR Consumer Monitorという調査を2014年から実施し、消費者保護の話題についての一般大衆の意向を判断している。以下の目的を持つ。
・ 消費者の傾向や話題の評価および分析
・ 一般大衆の健康リスクに関する過大評価および過小評価の実態把握
・ 消費者の行動の変化の観察
・ 危機的状況における消費者の認知度の迅速な評価
○ データ収集方法
14歳以上の一般家庭の約1,000人を対象とする。
コンピュータ支援電話インタビュー(computer-assisted telephone interviewing: CATI)法を用いる。
経時的な比較ができるように同様の方法で調査を行い続ける。
○ 消費者の興味
ドイツの食品は安全だという消費者の見方は何年も変わっていない。
最も健康にリスクを生じるものは何かを自由回答してもらった場合、2017年8月の最新のConsumer Monitorでも、相変わらず喫煙、気候変化、環境汚染、不健康なあるいは間違った食事、飲酒、不健康なあるいは汚染された食品が上位に挙がった。
重要と考える話題について選択肢から選ぶような質問の場合、サルモネラ感染、遺伝子組換え食品、薬剤耐性、農薬残留物への関心が高かった。
家庭における食品衛生などは、リスク評価の観点からは健康にとって重要だが、消費者には過小評価されている。ゲノム編集といった最新の遺伝子組換え技術の認知度も低かった。
○ 信頼度の底上げ
一般大衆の直感的なリスク推定と、科学的なリスク評価とではしばしば異なる認識を生む。例えば、合成化学物質は毒性のある植物性の天然物質よりも多く懸念の対象とされている。
調査では、農薬残留物は全般的に食品に含まれていてはならないと誤認されていることが分かった。実際は許容残留基準値(maximum residue level: MRL)までは含まれ得る。こうした情報を一般大衆に伝えるリスクコミュニケーションが必要である。
Consumer Monitorを通じてBfRは情報提供の要求に迅速に応えられる手段を確立しており、これにより消費者の健康保護についての保護一般大衆からの信頼をより強くしようとしている。
◊ 完全菜食主義と情報を得ること
2016年は、完全菜食主義者を自認するドイツ(語を話すドイツ国内の)人は約80万人。
完全菜食は、2型糖尿病の人に有効であるとする研究結果がある反面、妊婦や子供にや健康リスク(ビタミンB12、鉄、カルシウム、ヨウ素亜鉛、長鎖オメガ3脂肪酸の欠乏)を生じる恐れがあることも示されている。
BfRは、完全菜食を導入・維持する動機について調査し、合計42名の完全菜食主義者については、フォーカスグループインタビューにより価値観、行動、意見を聴取した。
○ 倫理的判断
倫理的な論争から菜食主義を受け入れる人がほとんど。健康志向が動機となる例はほとんど無い。
宗教・宗派には属しておらず、教育レベルも平均以上である。3分の2は、完全菜食主義者の前に菜食主義を経ている。近しい人が完全菜食主義であると、自分もそうする決断が為されやすい。極めて大多数が雑食に戻ることを想像できない。彼らの社会環境が、彼らに懐疑的であったり嫌悪的であったりするのを感じている。
○ 知識は得ている
完全菜食主義者は普通、栄養に関する確かな知識を有している。欠乏の恐れがあるビタミンB12などについてはサプリメントを利用している。完全菜食の情報源として最も重要なのはインターネットである。
○ リスクコミュニケーション戦略
完全菜食を危険、異常だと説得するやり方はほとんど効果は無い。完全菜食と組み合わせられる具体的な助言を提示するのが効果的なリスクコミュニケーション法である。
◊ 昆虫を食べますか? 実践する前にもっと理論を示して
世界の多くの地域で、コオロギ、ゴミムシダマシ、渡りバッタといった昆虫が食されている。
EU食品法で新規食品とみなされ、承認される方向にある。2017年の春、スイスでも食品として公的に認可された。
しかし、一般大衆による議論は始まったばかりである。毒性学的検討、汚染残留物質レベルの見極め、アレルギー性の検討、微生物学的リスクの検討は行われていない。
BfRは、昆虫食について、2件の調査を行っている。
・ ドイツ人の63%は昆虫食が健康リスクを生じることは無いと考えているが、実践しようとは思っていない。
・ 72%が昆虫食のことを聞いたことがある。昆虫はタンパク質、栄養素およびビタミンが豊富であると考えられており、世界の食糧事情の点から重要な食糧源であるとみなされている。
・ 昆虫食を嫌悪する(46%)主な理由は、親近感がない(13%)こと、衛生面と消化性に懸念があること(15%)である。
・ 昆虫食がメディアに取り挙げられた数は、2014年に27件であったのが2015年には60件に倍増している。多くが昆虫食の良い面を取り扱っている。
消費者は、昆虫食が及ぼす健康へのリスク、昆虫食の生産手法、栄養素含量について、もっと情報を得たいと望んでいる。こうした情報が伝わると、昆虫食が受け入れられることにつながる可能性がある。食品に紛れ込まされていたものが、元の形のまま受容されるようになると考えられる。
より詳しい情報(ドイツ語)は、以下のサイトから。
https://link.springer.com/article/10.1007%2Fs00003-016-1038-0
♦ 食品の安全性
◊ 食品中に望まれないもの: ピロリジジンアルカロイド
食品チェーンにおいて検出される消費者の健康へのリスクがる物質の例として、1,2-不飽和PAs(pyrrolizidine alkaloids: ピロリジジンアルカロイド)が挙げられる。1,2-不飽和PAsは農薬残留物で、最初はハチミツや他のミツバチ製品で検出され、その後お茶、ハーブ茶、スパイス、食品サプリメントでも検出されるようになった。
○ ヒトや動物における1,2-不飽和PAsの毒性影響
ヒトではキダチルリソウやタヌキマメが混入していた穀物による致死的な肝障害が、パキスタン、インド、アフガニスタンタジキスタン、および旧ソビエト地域で報告されている。
家畜では、キオンを食べたウシで肝硬変の発生率上昇が認められた。ウマではセネシオ中毒症と呼ばれる肝臓の変性を伴う症状が確認されている。
急性毒性としては、HVOD(hepatic veno-occlusive disease: 肝中心静脈閉塞症)を肝臓や肺で引き起こす。
高用量で動物において発生・発達毒性が確認されている。
動物試験では、発がん性が確認され、ヒトとの関連が議論されている。遺伝毒性が疑われている。
○ 1,2-不飽和PAsはどのように食品に入り込むのか
PAsを生成する野生のハーブによって農作物やお茶が汚染される場合。農作物やお茶の栽培地域にそうした野生ハーブが発生することによる。
特定の野生植物を起源とするハチミツや花粉もPAsで汚染される場合がある。
汚染された飼料を食べた動物からの食品(鶏卵、牛乳、肉)も汚染される場合がある。
PAsを生成する植物を原料とした食品サプリメントも汚染される。
○ 1,2-不飽和PAs汚染食品による健康へのリスク
BfRは2016年に1,2-不飽和PAsの健康リスク評価を実施した。
6ヵ月齢以上5歳未満の子供では、ほとんどの場合1,2-不飽和PAsはハーブ茶より摂取していた。大人でも同様であったが、子供よりもハチミツの寄与は小さく、緑茶の寄与が大きかった。その他食品サプリメントも1,2-不飽和PAs源となっており、スパイス、ハーブ、小麦粉もデータ不足ながら1,2-不飽和PAs源と考えられた。
現在あるデータに基づくと、1,2-不飽和 PAsを高濃度で含む食品を大量に食べても、急性の健康障害が生じる可能性は低いと考えられる。遺伝毒性発がん性に関しては、MOE (margin of exposure: 暴露マージン)は10,000以上と推定される。公衆衛生上の懸念は小さく、リスク管理対策の優先順位は低い。遺伝毒性発がんには閾値がないとされており、こうした物質からの保護にはALARA原則(as low as reasonably achievable: 合理的に可能な限り低値に)の適用が推奨されている。少量であっても定常的に摂取する場合など、健康にリスクが生じる恐れがある。
様々なシナリオでのPAsの推定摂取量とBMDL 10の73 mg/kg体重/日とを用いてMOEを算出したところ、10,000をはるかに下回った。BMDL 10 (Benchmark dose lower confidence limit 10 %)は、95%の信頼度で対象動物におけるがん発生率が10%となる最小推定用量である。MOEは10,000を下回っていてはならず、食品中のPAsを減らす努力をするべきである。
BfRが取り組んでいる研究
BfRは、構造的多様性があり様々な食品に含まれる1,2-不飽和PAsを、それぞれ特異的に検出する諸方法を開発した。これらは公表しており、食品や飼料の監視に用いることができる。
別の研究では、1,2-不飽和PAsの腸関門の通過は化学構造に依存しており、それが毒性や代謝にも影響していることが明らかになった。そのほかに、PAsによる類洞内皮細胞の破壊(肝臓の静脈閉塞につながる)の研究などを行っている。
○ PAsを低減するための助言
食品中のPAsを減らすために、栽培方法、収穫方法、洗浄方法の改善が望まれる。原料ハチミツの厳選もこの目的に貢献する。食品事業者による監視も引き続き望まれる。
消費者は、多様な食事を摂り、特定の食事による暴露を受けないようにすること。
妊婦、乳幼児、子供は、ハーブ茶やお茶を摂取しないこと。
食用植物と確認できないものをサラダなどから取り除くこと。
花粉や1,2-不飽和PAsを生成する植物由来の食品サプリメントには、1,2-不飽和PAsが多く含まれていることを認識すること。
ザンビアからの手紙
BfRは、SAD-Zambiaと称した調査研究計画を実施している。これは、ザンビアのミルク食品チェーンにおける黄色ブドウ球菌に焦点を当て、ヒトにおける食品媒介疾患や薬剤耐性に対峙することを目的としている。こうした取り組みにより、南部アフリカの食品の安全性確保に寄与している。
◊ 広範な活動範囲
○ E型肝炎の伝播経路の研究
家畜の豚、野生のイノシシ、シカがウィルスを持っていることが分かっているが、ヒトの患者への伝播経路は不明である。狩猟で得た肉からの感染、感染した動物由来の食品からの感染が考えられる。BfRの調査では、ドイツで市場に出回るソーセージにE型肝炎ウィルスが検出された。食品中のこうしたウィルスが感染性を保持しているかどうかは不明である。BfRの研究では、E型肝炎ウィルスは易熱性であるが、数週間冷温および室温で感染性を持ち続けることが判明した。
○ 熱帯魚における藻類毒の研究
シガトキシンによるシガテラは、熱帯地域特有のものであったが、食のグローバル化により欧州でも問題となっている。しかし日常的な検査に用いることができるようなシガトキシンの検出法が無い。EFSA(European Food Safety Authority: 欧州食品安全機関)は、”EuroCigua”を設立し、新しい分析法の開発などを行っており、BfRもデータの提供などを行っている。
○ハウチワマメの種子に含まれるアルカロイド類の研究
ハウチワマメの種子は、加工食品やスナック菓子に使われているが、QAs(quinolizidine alkaloids: キノリジジンアルカロイド類)を含んでいる。 QAsを多く含む種子は苦く、苦味除去をしないと毒性があり、食べられない。苦味除去をしなくても済む種類(Sweet lupins)があり、生産者にはこれらの種類の種子を市場に出すことが勧められる。
◊ 共闘だけが効力を示せる:薬剤耐性Q&A
○ ヒトと動物では違う抗生物質が使われているのではないのか?
違う抗生物質でも、その有効成分でグループ分けをしてみた場合、同じグループになるものもある。どちらかの分野でしか使われていないグループの抗生物質はむしろ少ない。例えばカルバペネムはヒトの治療でしか用いられていないが、他の抗生物質が効かない場合に限り使用される。
○ 家畜で使われていないカルバペネムに耐性の細菌がどうして家畜で見つかったのか?
耐性は自然に獲得されるもので、抗生物質はそれを加速する役目を果たす。
一度耐性菌が出現すると、様々な経路で拡がっていく。新しく導入された動物、ハエ、鳥、飼料、水、ゴミ、機器などにより畜舎に持ち込まれる。
○ カルバペネム耐性腸内細菌が家畜で見つかってからBfRの研究はどのように変わったか?
2014年以降、家畜から分離した細菌についてカルバペネム耐性をルーチンで検査するようになった。2015年以降はより特異性の高い方法が利用できるようにした。さらに、NRL AR(National Reference Laboratory for Antimicrobial Resistance: 薬剤耐性に関する国家標準検査室)がBfRに設けられ、耐性遺伝子の調査を行っている。この目的のため、BfR大腸菌サルモネラ菌の分析法など、様々な方法も開発した。
このような耐性遺伝子はまだほんの少ししか検出されていない(家畜におけるblaVIM-1や野鳥におけるblaNDM-1)。
○ カルバペネム耐性遺伝子と他の耐性遺伝子が一緒に可動遺伝因子に検出された場合どうして特別な注意が必要なのか?
そうした耐性遺伝子は全く異なる細菌群に水平移入してしまう。耐性が細菌群間で出入りするようになると、細菌の特徴が変化し、検出法を変える必要が生じ、耐性の移行性も分析しなければならなくなる。本来無害な細菌についても耐性遺伝子を他の病原菌とやり取りできるようになれば問題となる。
○ 耐性の移行により招きかねない結果として特に留意することは?
効果的な治療法が無くなるということである。
医者は既に、コリスチンなどの今まで見向きもしなかった活性物質グループに救いを求めるようになっている。コリスチンは獣医領域では重要な抗生物質であるが、ヒトでは耐容性が低く、敬遠されていた。
○ 耐性の移行性はコリスチンでも問題になるのか?
そういうことになるだろう。科学者たちは2015年末の時点では、コリスチン耐性は可動的でないということで一致していた。
しかし2015年末に中国で可動的なmcr-1遺伝子が報告された。続いてベルギーの調査でmcr-2遺伝子が家畜由来の細菌から検出された。Tこれはヒトの病原菌にも耐性遺伝子が移行し得ることを示しているが、目下のところ、動物での検出例も稀である。
○ 『生物学的安全』局は何を行うのか?
例えばRESET(動物およびヒトにおける耐性に関する共同研究ネットワーク)である。この活動の中で既存の細菌の分析を行い、新規耐性遺伝子の出現を調べている提携機関に情報提供している。我々が持っている菌株から分離したコリスチン耐性株の分析により、コリスチン耐性遺伝子が既に拡散していることが確かめられている。
○ この問題に関して新たな研究計画を進める必要性はあるか?
どのぐらいの頻度で耐性の受け渡しが起こるか、なにがその引き金になるのか、など、検討する課題がたくさんある。耐性の診断や耐性菌の種類分け技術の開発も必要である。
○ ヒトへのコリスチン耐性菌の主な伝播経路は?
はっきりとはわからない。ブタとヒトで検出されていることから食品を介した伝播説がある。院内感染も考えられる。
○ 耐性菌の蔓延に対する効果的な策は? 誰がそれを進めていくのか?
この問題は、ヒト、動物および環境が複雑に絡み合っており、公衆衛生や獣医領域に関わる人たちが共闘戦略を取らねばならない(ワン・ヘルスアプローチ)。消費者も耐性のリスクを自ら低減することができる。
○ 消費者が知っておくべきことは?
動物や初期品から伝播し得る病原菌に対する衛生規範を順守すること。例えば、動物に触れた後はお湯と接見で手を洗うこと。生肉を触った後も良く手を洗うこと。肉、卵、生乳は、摂取する前に加熱すること。生野菜や果物は飲み水で良く洗うか皮をむいて食べること。
○ 詳しく知りたい方は、次の文献を参照のこと。
Irrgang et al. 2017. Recurrent detection of VIM-1-producing Escherichia coli clone in German pig production. Journal of Antimicrobial Chemotherapy 72: 3, 944–946.
♦ 製品および化学物質の安全性
◊ 混合物は極めて重要:複数残留物質の話
毒性学においては世界的に、蓄積リスクアセスメントが重要視されている。BfRは、今後どのように混合物に対処すれば良いかを検討するため、多くのプロジェクトを立ち上げて活動している。
○ 毒のカクテル、死のカクテル—メディアが書き立てるセンセーショナルな見出し
BfRの調査によると、ドイツ人の80%が、食品を生産する際に複数の農薬が使用されると健康障害のリスクが高まると考えている。
○ 複数混合による影響を見落としてはいけない
複数の農薬残留物があっても健康へのリスクは生じ難いことが示されてはいる。しかし、口に入る様々な新規化学物質の登場および検出感度の上昇で食品中の残留が以前より目に付くようになったことにより、消費者の懸念は高まっている。
○ 全ての混合物を動物試験にかけることは不可能である
混合物の組み合わせは、数えきれないほど多い。こうした組み合わせに対して動物試験を行うことは倫理的問題もあり、実際問題非現実的である。このため、欧州委員会では、動物を用いない試験法(in vitroやin silico)を開発中である。
○ 世界中の国々がこの問題を検討課題としている
混合物による累積的・相加的影響については、それを測定する認定法があれば、考慮に入れなければならないが、目下のところ、そのような方法は存在していない。新しい方法のための技術指針が策定中である。
農薬だけでなく、食品添加物なども考慮対象となってくる。さらに、化学物質それぞれだけではなく、買い物かごの中全体の複数残留物も考慮する必要が出てくる。食品チェーンはグローバル化しているため、欧州レベルで考えるだけでなく、その他の国々、WHOやOECD(Economic Co-operation and Development: 経済協力開発機構)がこの問題に取り組み、ガイドラインを協働して作成する必要がある。
○ ドイツは既に累積影響評価を採用している
BfRは、農薬の累積影響評価のガイドラインを国際的な議論に基づいて作成し、2014年に公表した。農薬製品中の、あるいは説明書に基づいて混合される複数の活性成分による影響を累積的に評価することが目的である。使用者の暴露と消費者の急性暴露の大きい方を考慮することになる。
○ 目的: 世界で統一された混合物の評価
農薬製品の累積影響評価については、国際的な作業部会が立ち上げられており、BfR欧州議会等を代表してこのような作業部会を開催し、2018年2月にはANSES(French Agency for Food, Environmental and Occupational Health & Safety: フランス国立食品・環境 ・労働衛生安全庁)が開催する別の作業部会に参加する。
これらの活動は、消費者や環境を一層保護するための、世界で統一された混合物評価のための次なる一歩である。
◊ 組み合わせによる影響: BfRの研究計画
○ EuroMix
動物を使わずに混合物の毒性をさらに良く測定できる試験法を開発することを目的とする。2019年5月までに800万ユーロを投じた計画が実施される予定である。
より詳しくは、www.euromixproject.euを参照されたい。
○ Combiomix
BMBF(German Federal Ministry of Education and Research: ドイツ教育研究省)による2年半の事業で、2016年の春に完結した。In vitroでトリアゾール類を用いて複数の残留物による影響を調べた。得られた結果から、物質の組み合わせについての予測モデルを作成し、将来的に動物試験によらず、他のグループやカテゴリーの農薬の評価を行えるようにしようとするものである。
より詳しくは、www.bfr.bund.de/en/home.htmlから”Reseach” -> ”Third party projects of the BfR” -> “Combiomics”を検索されたい。
○ Combiomix2
Combiomicsで上手く行った方法や細胞株について、in vitro試験法として標準化することと、将来の規制要件に見合う標準手順に統合することを目的とする。BMBFの支援のもと2019年末までの3年計画で行われる。
より詳しくは、www.fisaonline.de/enから“mixture effects of pesticides”を検索されたい。
◊ 信頼できる評価向かって段階的に
2017年3月から、ドイツでは、農薬の承認審査の中の健康関連評価において、累積的・症状的影響を評価する手法が取り入れられている。HQ (hazard quotient: ハザード比)が個々の物質に定められ、多段階累積評価手順の基本となる。HQは、健康影響の閾値と推定暴露量の比に基づいて算出される。
それぞれの化学物質のHQが1以下の場合、健康へのリスクは生じないと考えられる。1を超える場合、防護服を着るなどしてそれを低減できないかどうかを考える。
全ての物質でHQが1以下の場合、第2の段階として混合物のHI(hazard index: 毒性指数)を求める(HQの和)。HIが1以下であれば、その混合物は健康へのリスクを生じないと予測される。
もしHIが1を超える場合、より精密な方法による第3段階の評価を行う。含まれる化学物質を、標的器官、MOA(mode of action: 作用機序)、構造的類似性に基づいてグループ分けする(CAG: cumulative assessment group: 累積評価グループ)。標的器官やMOAが同じであれば、それらによる影響はその和とされる。あるCAGでHIが1以下であれば、健康リスクは無いと予測される。もしHIが1より大きく、推定暴露量についても有害性評価についてもさらに良い値を導出できない場合、その混合物は安全ではないとみなされる。
この多段階手法には、最初の単純な評価法が健康へのリスクを生じそうもないという根拠を示さない場合にだけ、さらに良い値の導出のためのもっと複雑な方法(CAGが近いものまたはMOAが近いものでの導出)を用いれば良いという利点がある。
◊ ゴールは累積影響評価の段階的な改善である: Roland Solecki博士(BfRの農薬安全部責任者)へのインタビュー
○ 複数の残留物の問題は実際どのくらい深刻か?
内外の様々な公的機関の方法、それによる研究報告、監視計画の結果に基づけば、最悪の場合を想定しても、健康へのリスクはおそらく生じない。EFSAも2015年のモニタリング結果報告書で同様の結論に達している。
○ EuroMixとは何か?
EUの枠組みの中の研究・改革計画であるHorizon 2020に沿って実施される、混合物の累積影響評価に関する研究事業である。農薬だけでなく、食品添加物や他の化学物質も含め、混合物による影響の評価を動物試験によらずに行う方法を開発し、暴露量の推定方法を革新し、累積影響のリスクのモデル化を行う。
BfRはEuroMixにどのように関わっているのか?
BfRの中の農薬安全部は、規制的評価手順と関係している。おなじく食品安全部は、肝毒性などを調べる試験および、農薬の組み合わせ物についての試験を行っている。
○ EuroMixで研究していることは何か?
まず、法的要件に関わる研究と、世界中の様々な公的機関が混合物による影響をどのように対処しているかを研究している。また、肝臓に特定の有害影響を及ぼす混合物の研究も行っている。統計分析ツールなども開発中である。暴露分析に関する試験も行う予定である。プロジェクトは2019年に完結予定である。
BfRが関係している欧州における他の活動は?
EFSAは、複数の農薬などへの組み合わせ暴露の影響をヒトやミツバチで調べる方法を開発した。EFSAはさらに、食品チェーンにおける複数の化学物質への暴露によるヒトや環境のリスクを評価する統一された方法を確立するために活動している。BfR内の諸組織も、EFSAの化学委員会が設置した専門が作業グループに属し、組み合わせ暴露に関連した活動を行っている。その一環として、MixToxというガイドラインを作成中で、2018年にパプリックコメント募集にかける予定である。
○ これらの様々な活動に関わっている観点からの個人的な目標は何か?
健康を重視したリスクの総合評価のため、およびそれが法的に統一して実施されるように、化学物質の累積影響評価を段階的に改良していくことである。
◊ 様々な話題
○ 肝臓や腸管へのアルミニウムの影響は?
ドイツとフランスの研究事業”SolNanoTox”は、経口摂取したアルミニウムが腸に一時的に蓄積することを明らかにした。腸管に蓄積した粒子の一部は糞便を介して排泄される。消化によって、アルミニウム化合物はその反応性や溶解性が変化する。高用量の場合、アルミニウム化合物は神経系や胎児の生命に影響を及ぼす。また、生殖能力や骨の発達にも影響する可能性がある。
○ 内分泌攪乱物質の同定: 基礎から実践まで
内分泌攪乱物質を同定するために、農薬や他の化学製品中の活性物質について、統一された科学的基準を設ける必要がある。BfRは、EFSAやECHA (European Chemicals Agency: 欧州化学物質庁)と協働し、専門家を送ってガイドライン等の策定に助力している。
○ 衣類に施した殺虫剤処理: アレルギーを起こすことはなさそう
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◊ 機能性衣類の中のナノ粒子
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♦ 研究用動物の保護
◊ ヒトにおける状況を反映するモデルを求めて
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