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薬剤の毒性を調べる革新技術: 主任研究員のブログ 担当Phil Reeves

Innovative technologies in drug toxicity testing: Phil Reeves, Chief Scientist
https://apvma.gov.au/node/28056
前回は化学物質の毒性を予測する新しい方法のいくつかを紹介した*1。
今回は、APVMA*2 (Australian Pesticied and Veterinary Medicines Authority: オーストラリア農業・動物用医薬品局)が特に関心を寄せているToxicogenomics (トキシコゲノミクス技術)、in silico (イン・シリコ: コンピュータシミュレーションに基づく方法)、Organ-on-a-chip (生体機能チップ法)を詳しく取り上げる。
◇トキシコゲノミクス研究
トキシコゲノミクスは、生物の特定の細胞や組織の遺伝子がどのように毒性物質に反応するかについての情報を収集、調査、理解することに特化した学問分野である。
Iトキシコゲノミクスは、1日に何千もの検体を試験する『ハイスループットスクリーニング』と呼ばれる工程に採用され、動物試験を代替する。
実験毒性学および生態学の一人者であるRoland Buesen博士は、化学物質のリスク評価へのトキシコゲノミクス技術の応用: ECETOC (European Centre for Ecotoxicology and Toxicology of Chemicals: 欧州化学物質生態毒性・毒性センター)の作業部会からの報告*3の中で、トキシコゲノミクスについて、細胞や組織内における分子的な変化に関し、包括的で毒性学的に重要な情報をかつてないほどより早く、より正確に、より少ない資源で提供する有望な技術であると述べている。
トキシコゲノミクスが利用可能となり、規制の分野で最も有用な手法となるには、妥当性の確認がまず必要で、また、ビッグデータ*4を解釈・評価する経験がまだ足りないため、規制目的の毒性評価に適用するにはまだ限界がある。
◇in silico
In silicoモデルを用いた手法は、read-across法(類推法: ある化学物質のデータを類縁構造を有する他の化学物質に外挿する手法)と共に、APVMAが関心を寄せている技術である。
既知の構造を持った化学物質の毒性に関する情報が増えるほど、そうした知識に基づいてQSARs (uantitative structure-activity relationships: 定量的構造活性相関)を考慮しながらread-across法を導入することができるようになるため、この新しいin silico技術は魅力的である。
この技術の進捗は良いものの、規制評価に用いるにはまだ障壁が残っている。
◇生体機能チップ法
この技術は、ヒトの臓器由来の生きた細胞をコンピュータでモニタリング可能な透明ポリマーのマイクロチップに貼り付けるもので、科学者が、生きた生物学的機構がどのように化学物質に反応するかをリアルタイムに観察することができる。
腸の蠕動や肺の拡張/収縮を模倣することができる。
この技術が採用される前に、標準的な手順が確立され、それが妥当性確認され、広く受け入れられるようにならなくてはならない。
これらの動物試験に代わる技術は、有望ではあるが、課題や障壁があり、その解決策を規制を行う側と業界が一緒になって探求する必要がある。
それでも、我々は、規制目的の有害性およびリスクの評価における新しい時代の入り口に来ていると言える。