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クラトムがオピオイド化合物を含んでいることを示すFDAの科学的根拠とクラトムに依存・乱用誘発能があることについての警告: FDA局長Scott Gottlieb医学博士の声明

Statement from FDA Commissioner Scott Gottlieb, M.D., on the agency’s scientific evidence on the presence of opioid compounds in kratom, underscoring its potential for abuse
February 6, 2018
https://www.fda.gov/NewsEvents/Newsroom/PressAnnouncements/ucm595622.htm
FDAはクラトム(kratom)が関係する有害事例とクラトムの成分がオピオイド様特性を有することをさらに強く証拠付ける科学的分析結果を発表した。
FDAは、クラトムが乱用、依存、および死亡などの深刻な健康への危害を及ぼすのではないかと危惧を抱いていたが、それを裏付ける科学的ツールを用いた分析結果、データおよび研究結果を紹介する。
特筆すべきことは、FDAの科学者が開発したコンピュータモデル化を応用した新しい科学的分析を行った結果、クラトムに含まれる化合物がオピオイドの特性を有していることが一層強く証拠付けられたということである。また、クラトムによって生じた死亡事例からもさらに情報を得て、クラトムが引き起こす新たな危害も特定した。
FDAは、オピオイド離脱症状の緩和にクラトムが使われていることについて特に懸念を抱いてきた。なぜなら、クラトムがそうした症状を緩和するという信頼できる根拠は無く、安全性に関わる深刻な問題が存在しているからである。FDAは、オピオイド依存症や慢性疼痛の緩和に新たな方策が求められていることを理解しており、クラトムについても医療効果を示す根拠があれば評価する姿勢を取っている。しかし今のところ、FDAの認可基準を満足するような申請も根拠の提示も為されていないのが現状である。
FDAがクラトムの分析に用いたPHASEモデルについて
連邦当局は、新たな合成違法薬物を確認した場合、迅速にその乱用性を評価する必要があるが、そうした薬物は薬理学的データが無いかわずかしか得られていない。そこでFDAは、構造解析による公衆衛生評価(Public Health Assessment via Structural Evaluation: PHASE)システムを開発した。このツールは、三次元コンピュータ処理技術を採用し、対象とする化学物質(クラトムで検出される化合物やアルカロイド類)の化学的要素がどのように分子構造を構成しているか、体内でそうした化学物質がどのような挙動を示し得るか、そして脳にどのような影響を及ぼし得るかを推定するのに役立つ。
まず最初に、このコンピュータモデル化システムを用いて、クラトムの中に含まれる主要25種類の化合物を分析した。その結果、これらの全てが、モルヒネ誘導体のような規制対象オピオイド系鎮痛剤とほぼ同様の構造を有していると結論付けられた。
二番目に、その構造をソフトウェア解析に供し、標的である可能性が高い器官を決定した。その結果、25種類の化合物の内22種類(ミトラギニン: mitragynineを含む)が、µ-オピオイド受容体と結合すると予測された。以前に行われた実験的データとも合わせると、最も主要な5種類の化合物の内2種類(ミトラギニンを含む)がオピオイド受容体を活性化する(オピオイド作動性である)ことが再確認された。
こうして得られた新しいデータから、クラトムに含まれる化合物がオピオイド特性を有することが一層強く証拠付けられた。
コンピュータモデル化により、クラトムに含まれる化合物のいくつかは、神経機能および心血管機能に影響を及ぼすストレス反応に関係があると考えられる脳内受容体と結合する可能性があると推測された。この点に関して、FDAは以前、クラトムに関連して発作や呼吸抑制などの深刻な副作用が生じ得ることを警告している。
三番目に、三次元画像解析により、どこに化合物が結合するかだけではなく、どのぐらい強くその生物学的標的と結合するかも分かるようになった。そして、クラトムは指定オピオイド医薬品と比べ、µ-オピオイド受容体と強く結合することが明らかとなった。
このPHASEモデル化で得た科学的根拠が意味するものは、クラトムに含まれる化合物がオピオイドと全く同様に体内に影響を及ぼすということである。文献からの科学的情報がPHASEモデル化によりさらに裏打ちされ、またヒトにおける有害影響の報告も加わって、FDAは、クラトム中に検出された化合物がオピオイドであると言い切れると感じている。
さらに強調したいことは、PHASEのようなコンピュータモデル化に基づく手法の威力である。天然であろうと合成であろうと新たに確認されたオピオイドを迅速に評価し、公衆衛生上の非常事態に対応することができるようになる。
クラトムが関連する死亡事例報告から学ぶこと
クラトム製品は、違法に米国に入荷されるのを防ぐため、輸入警告措置対象物質とされている。FDAは製品の押収も何度か行っている。FDAだけではなく、多くの国、州および市が、クラトムが管轄地域に入ることを禁じている。FDAは、クラトムに対する取り組みについておよび消費者への呼びかけを2017年11月に発信している。
ここで、クラトムにまつわる痛ましい死亡事例報告の中からFDAが新たに入手した情報を提供する。現在まで、クラトンの使用により生じた死亡例は44件報告されている。2017年11月の発信時に36件であったのから増加している。FDAはこれからも新しい報告を受けたら、内容を検討し、すぐに公表していくが、こうした新しい報告においても、以前の報告に書かれているような、同じことが繰り返されていることに留意することが重要である。
本日、2017年11月の発信記事で言及した36件の死亡例についての報告書を公表する。これらの報告書は、クラトムを使用することで深刻で時には死に至るリスク、およびクラトムが引き起こす相互作用の問題を浮き彫りにしている。多くの事例は情報が限られているため、完全に評価することはできないが、1件の死亡事例は特に留意されるべきである。この件の犠牲者は、クラトムを除いて、オピオイドの使用歴や毒物学的痕跡は認められていない。この件はまだ調査中ではあるが、目下のところ、クラトムの使用が問題であったとの意を強く持っている。
他の何件かでは、クラトムが脳に作用する他の薬物と一緒に使用され、結果として死を招いたと考えられる。一緒に使用された薬物は、違法薬物、処方オピオイド製剤、ベンゾジアゼピン系薬物、およびオピオイド止瀉薬であるロペラミドの様な店頭販売医薬品などである。クラトムはオピオイド受容体を活性化するため、FDAが認可したオピオイド類と同様、他の医薬品と組み合わせて使用するのはリスクがあり、非常に問題である。
ただし、FDAが認可した医薬品は、クラトムとは異なり、安全性と有効性について詳細な検討が行われており、今まで知られていなかった新たなリスクに関する安全性データが継続的に追跡されている。そのため、FDAはこれらの医薬品のリスクに関するより良い情報を持っており、それを一般市民に公表することができる。例えば2016年8月には、FDAは医薬品のラベルについて、クラス分類規模の変更を要請した。これは医療関係者や患者に、オピオイド系医薬品とベンゾジアゼピン系医薬品を合わせて使用した場合に生じる深刻なリスク(呼吸抑制、昏睡、死亡など)を伝えやすくするためである。また、2016年6月には、非常に高用量でロペラミドを服用した場合(高揚感を得るための乱用や誤用、断オピオイド薬のための自己処方)、死に至ることもある深刻な心臓障害を引き起こすことがあることを警告した。さらに、最近には、ロペラミドの乱用を減少させるための活動を進め、OTCで売られるロペラミド製品の包装表示に制限を設けるよう要請した。
これまで述べてきた通り、クラトムは疾患の治療に用いるべきではないし、処方オピオイド医薬品の代わりに用いてもいけない。クラトムが「ただの植物」であるから無害であるというのは近視眼的で危険である。周知のようにヘロインは、オピオイド系のモルヒネを含有し、違法で危険で依存性が高いが、これもケシという植物から作られるものである。
クラトムはオピオイド物質であり、新たなリスクを生じる。それは、クラトムがどのように作られ、売られ、快楽のために使用されるかが一定ではなく、鎮痛のため自己処方しようとする人たちやオピオイドの禁断症状を抑えるためにクラトムを使用する(クラトムがそうした症状を緩和するという信頼できる根拠は無い: 前述)人たちがいるためである。オピオイド依存症の治療には、FDAが認可した安全で有効な薬物療法がある。これらの治療法は心理社会的支援と組み合わされ、効力を発揮する。重要なのは、これらの治療法に使える薬物として、ブプレノルフィン(buprenorphine)、メサドン(methadone)、およびナルトレキソン(naltrexone)といった、FDAによって認可されている医薬品があるということである。そして、疼痛の治療には、より安全な、オピオイドに依らない選択肢も存在する。FDAは、患者の中には利用可能な治療法を受け、それでもなおさらなる医療行為を櫃王としている人がいることを理解している。こうした患者に深く関わり合い、新たな、安全で有効な選択肢をこのような症状を抱える人たちに提供できるよう、前進していく所存である。
(有害事象報告が公開されている)