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遺伝毒性データ評価の定量的アプローチ

COM ガイダンス
Quantitative approaches to the assessment of genotoxicity data
Published 3 May 2018
https://www.gov.uk/government/publications/quantitative-approaches-to-the-assessment-of-genotoxicity-data
遺伝毒性は、伝統的にtraditionallyはDNA及び/又はゲノムの忠実性を制御するその他の細胞成分に傷害を引き起こす物質を同定するために設計されたin vitroあるいはin vivoの試験系の開発と実行に基づいてきた。こうした試験由来の情報は、その物質が遺伝毒性あるいは変異原性ハザードがあるかどうかを決めるために、定性的に使われてきた。従って人々を遺伝毒性の可能性のある(従って発がん性の可能性がある)物質の暴露から守るリスク管理アプローチは、この二元論的(イエス/ノー)決定に基づいていた。またこうした試験方法は遺伝毒性のない製品の開発にも有用だった。しかしこれはリスクが非常に小さいにも関わらず有用な化合物を排除し不必要な廃棄をもたらす可能性のある保守的な方法である。
非遺伝毒性の化合物のリスクを評価する保守的アプローチは、一般的にin vivoで毒性のない用量(参照用量RfD)、出発点PODに不確実係数を用いたものに基づきADIなどのような健康に基づくガイダンス値(HBGV)を設定する。遺伝毒性発がん物質については一般的に閾値はないとみなす。暴露が避けられない遺伝毒性発がん物質については発がん試験から導出したPODをもとにしたMOEアプローチが利用されている。現在遺伝毒性の用量反応データの定量的解析方法の開発と評価に関心が高まっている。
遺伝毒性についてイエス/ノーアプローチを変えることは現在の方法の相当な変更になる。より定量的解析に基づく戦略の開発には適用可能性や利用可能性を決める前に広範な評価が必要となるだろう。遺伝毒性リスク評価の定量的アプローチについての遺伝毒性試験国際ワークショップワーキンググループIWGTの報告書やHESI遺伝毒性技術委員会によるワークショップの報告が国際グループがこの件にどう対応しているかの知見を提供するだろう。
遺伝毒性データの評価アプローチの精密化は毒性試験における動物の使用数の削減や改善に役立つことが示唆されている。
COMは遺伝毒性データ評価の定量的アプローチについて検討しそれがどう使えるかについて2013年6月に最初に検討している。IWGTやHESIの仕事も承知している
COMは重要ワーキンググループのメンバーであるGeorge Johnson (Swansea 大学)博士のプレゼンを受け、この分野の重要研究要約論文を検討した。このトピックスについては以下の質問が重要であると考えられる:
・遺伝毒性データの評価にはどのような用量反応モデルが利用可能で、どれが最も適切か?
・遺伝毒性データを評価するにはどのPODがベストでどうやって適切なベンチマーク応答(BMR)が確立できるか?
・エンドポイントや組織、サンプリング時間や研究デザインのような要因はデータの定量性を評価するのにどう影響するか?
・遺伝毒性データの定量的情報はリスク評価に使えるか?つかえるならどうやって?
・遺伝毒性データだけから発がん性リスクの特徴づけは可能か?
この声明はCOMの検討した情報の要約とその結果としての議論と意見である。
(全体的議論と結論の一部)
遺伝毒性データの定量的評価への動きは現在のハザードのみの評価とは相当異なる。このような議論は遺伝毒性データのリスク評価への使用を拡大する可能性がある;例えば遺伝毒性のある化合物でもリスクが許容できると考えられれば使えるのか、どうやってそのような量を決めるのか?
広い意味ではCOMは遺伝毒性データを定量的に評価することには合意する。そのようなアプローチは遺伝毒性データの解釈を改善させ長期発がん性試験の必要性を減らし実験に使用する動物の数を減らす可能性がある。そのようなアプローチの開発が進みに連れその利用可能性がわかってくれば規制枠組みに組み込むことも視野にはいるだろう。
遺伝毒性を定量的に評価するためにはBMD方法のソフトウエア開発と使用が重要であるとCOMは考える。しかし現時点では多くの解析が少数の専門家のみで行われていてソフトウエアのバージョンによって継続的に改訂が加えられているため、あまり馴れていない人にとっては変更の意味を理解するのは困難である。解析の多くは複雑でより広範な聴衆に検討してもらう前に説明と明確化が必要である。用量反応モデル作成の一部の側面は発展途上であり他の側面は開発者や方法によって異なる。そのためCOMは異なるモデルの使用が適切かどうか結論できない。ソフトウエアの変更については記述されるべきでありソフトウェアの比較をする場合には何が比較されているのかを明示すべきである
リスク評価における遺伝毒性データ由来のPODの利用可能性については、結論を出す前に異なるソフトウェア方法論の詳細な評価を薦める。さらに使用に関して重要な問題は明確にしておく必要がある。
特定の遺伝毒性エンドポイントの適切なCES (Critical effect size) /BMR (Benchmark Response)の選定に関してはコンセンサスはなく、より広範な議論と評価が必要である。異なる遺伝毒性のエンドポイント、例えば小核誘導や遺伝子突然変異などに同じ応答サイズ(例えば対照群に比べて10%増加など)が適切とは思わない。BMRの選択には各エンドポイントの生物学的妥当性の理解と、バックグラウンドに対する反応の相対的大きさの性質をよく知ることが必要になるだろう。現時点ではどれが良いとも言えない
限られた化合物のデータに基づいて広範な想定をすることはできない。遺伝毒性試験のBMDはがん原性試験のものより低いだろうとは思われるが決定的結論はできない。従って現時点ではCOMはMOEの計算において定量的遺伝毒性データを使うことについては何の助言もできない。
(MOEのPODはin vivoでのがん原性試験で導出したBMDL10などを使っているがそれが遺伝毒性試験の何らかの数値で代用できれば長期発がん実験は減らせる、というのが最もありそうな近未来。そこまでの課題は多いが具体的ではある。)