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FDAは食品中の部分水素添加油(PHOs)の特定の使用に関して遵守日を延期:PHOsの特定の使用に関する申請を拒否

FDA Extends Compliance Date for Certain Uses of Partially Hydrogenated Oils in Food; Denies Petition for Certain Uses of PHOs
May 18, 2018
https://www.fda.gov/Food/NewsEvents/ConstituentUpdates/ucm608076.htm
米国FDAは、部分水素添加油(PHOs)の使用中止に関する遵守日を、特定の使用に関して延期する。PHOsの使用の大部分については、2018年6月18日が遵守日として維持され、製造業者はその日以降、食品にPHOsを使用出来なくなる。しかし、市場に混乱を招かないようにするため、FDAは2018年6月18日以前に製造された製品の流通については遵守日を延期し2020年1月1日とした。この措置は、食品からPHOsを排除することによる健康への有益性と市場の混乱のない移行の必要性とのバランスを取ったものである。PHOsは食品を介した人工トランス脂肪酸の主要な摂取源である。
同時に、FDAは全米食品製造業者協会(GMA: Grocery Manufacturers Association)から提出されたPHOsの限定的な使用を求める食品添加物申請を却下している。PHOsを用いない組成への変更に要する時間を持たせるため、FDAは、この特定の、GMAから申請されたPHOsの限定的な使用については、その食品の製造中止の遵守日を2019年6月18日に、流通中止の遵守日を2021年1月1日に延期した。
2015年6月17日にFDAは、PHOsの食品への使用はもはやGRAS(一般的に安全であると認められる)に該当しないという最終決定を下し、食品事業者が組成変更するためや、特定の使用を求める食品添加物申請を提出するための移行期間を3年とした遵守日を設定した。その最終決定が下された後にGMAが提出した申請は、着色料や香料物質のキャリアー、離型剤及び加工助剤としてのPHOsの限定的な使用であった。これに対しFDAは、申請された使用で安全が確保されるという十分な根拠が提示されていなかったという理由で却下している。
FDAは、PHOsを使用した製造の中止期限である2018年6月18日は遵守可能であるとの情報を業界から得ている。流通に関する遵守日の延期は、2018年6月18日までに製造された食品の賞味期限が3〜24ヶ月とさまざまで業務用や小売店での販売が継続する可能性があることに基づいている。FDAはGMAから申請されたPHOsの使用とその他の使用を区別し、GMAから申請されたPHOsの使用については食品事業者が適当な代替品を特定するのに追加の時間が必要であることを認識している。遵守日は次の通りであり、それ以降はFDAによる強制措置の対象となる。
(表)

Grocery Manufacturers Association; Denial of Food Additive Petition
https://www.federalregister.gov/documents/2018/05/21/2018-10715/grocery-manufacturers-association-denial-of-food-additive-petition
FDAによる申請内容のレビューの抄訳)
 GMAは、PHO又はPHOs混合品について次の3つの使用条件について認可を申請した。ただし添加する対象食品について、ダイエタリーサプリメントは除外した。
?. 香料、風味増強剤及び着色料の溶媒又はキャリアーとして最終製品中150 mg/kg未満
?. 加工助剤として最終製品中50 mg/kg未満
?. 焼く時の離型剤としてスプレーオイル中にPHO又はPHOs混合品が最大0.2 g/100 gであり、使用するPHOは工業的に生産されたトランス脂肪酸がスプレー中に0.14 g/100 g未満となるようにする
 今回の食品添加物申請はPHOsに含まれる工業的に生産されたトランス脂肪酸によるヒトでの心血管系疾患リスクに着目した特別なものであり、FDAは、認可されるには、申請された条件下で食品添加物として使用された場合にヒトに害を与えないという安全性の科学的根拠が確実に示されている必要があると考えている。FDAは申請された使用について、以下の評価結果をもとに、その安全性に関する科学的根拠が十分に示されていないと判断し、申請を却下した。
A. PHOsの化学的同一性、目的とする技術的効果、および申請された用途
FDAは申請者より使用例のサンプル提示を受けたが、それらで使用されているPHOsは酸敗臭や酸化を防止するなどの食品への持続的な技術的効果を有しており、申請者が用途として申請している加工助剤とはみなされない。
B. トランス脂肪酸(TFA)への推定暴露量
・ 申請者は、PHOsを申請された用途で使用した場合に、工業的に生産されたTFA(IP-TFA)への暴露量を低く見積もりすぎている。
C. TFAの消費に関する最近の科学文献および専門家の意見
・ 申請者が提示した特定の話題に関する情報は不完全であり(注:都合の良い部分しか提出されていない)、いくつかの科学的結論については申請者の解釈は誤っている。
D. 閾値用量反応関係に関する最近の研究
・ PHOsが血中LDLコレステロール値に及ぼす影響に関して申請者が引用した2試験は、デザインにいくつかの不備があり、データの解釈にも疑義が残る。作用機序の論文についても被験動物とヒトとの間の生物学的反応の違いが考慮されていない。メタ回帰分析に関する論文でも、誤ってデータポイントが重複しているのが見受けられた。
E. リスクの推定および安全性の議論
・ 申請者は、de minimis (取るに足らない)リスクの基準を持ち出している。de minimisリスクとみなされるのは、
(1) リスクが生じる可能性が認容される打ち切りレベル(bright line 輝線もしくは閾値)より低い場合
(2) 存在するリスクを確定する科学的データが無い場合(すなわちリスクが検出不能)
(3) リスクが生じる可能性が自然発生でリスクが生じる可能性よりも低い場合
と述べている。
・ (1)について
申請者は、Castorina and Woodruffの論文をもとに、非腫瘍性の健康リスク(冠動脈性心疾患:CHD)に関して、申請されたPHOsの使用で生じるIP-TFAの“bright line”は一日の総エネルギー摂取量に対し0.05%であるとしている。しかしFDAは、同じ論文から、CHDよりも深刻ではないが有意な健康リスクがいくつか生じる恐れがあることを確認した。0.05%の摂取ではリスクはほとんど生じないとする申請者の主張は、FDAの分析結果からは支持されない。
・ (2)について
申請者は、トランス脂肪酸がLDLコレステロール値等におよぼす影響に関し、線形用量反応モデルを当てはめて定量することに疑問を呈し、低用量のトランス脂肪酸摂取がCHDのリスクを高める経験的な根拠は無いと論じている。しかしFDAは、申請者が根拠としている試験の個体数が少なく、統計的検出力が小さいと判断した。また、最近の集団調査で、低用量のIP-TFA摂取がCHDのリスクを増大させるという経験的な根拠が示されている。さらに、大多数の科学的試験は、TFA消費量と血中脂質やCHDリスクとの間に線形関係が存在することで一致している。
・ (3)について
申請者は、肉や乳製品などの自然由来のTFA摂取は平均で一日の総エネルギーの0.46%であり、一方、IP-TFAでは0.05%で無視できるほど少量であると主張している。しかしFDAは、IP-TFAの割合が平均TFA摂取量の約10%であることに着目している。IP-TFAで内在性のTFAの10%が置き換わるのではなく、総TFAに10%が加わるのであって無視できる値ではない。
・ 結論として、申請者が提出したデータに基づき、FDAは、申請された用途により生じるリスクはde minimisでも無視できるものでもないと判断した。