食品安全情報blog過去記事

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SMC

UK

  • 飲酒と男性生殖能の研究への専門家の反応

expert reaction to research on alcohol intake and male fertility
July 18, 2018
http://www.sciencemediacentre.org/expert-reaction-to-research-on-alcohol-intake-and-male-fertility/
Andrologyに発表された研究で軽度飲酒と精子の容量・濃度・総数の多さとの関連を調べた
Imperial College London生殖内分泌学者Channa Jayasena博士
この研究は週に2パイント(約1L)飲む男性が週に1パイント飲む男性より僅かに精子が良いという事実を研究している。しかし全く飲まない人のほうが精子の質がベストであることが重要である。精子の質を良くしようと飲酒量を増やさないように。
CARE Fertility創設者Simon Fishel教授
この研究は他の研究よりサイズが大きく合理的に行われている。他のこの種の研究同様、自己申告によるため不正確であるリスクがある。精子数などのパラメーターが上がっていることについては他の研究と矛盾するため確認が必要である。さらに精子数が増えても生殖能力が良くなるとは限らない、精子が少なくても不妊とは限らないように。また参加者は一般人ではなく不妊カップルである。妊娠への影響は報告されていない。
また暴飲が有害であることにすべての人が同意できるが、中程度飲酒の影響についてはリスクがないかもしれないが個人によるだろう。
Sheffield大学男性病学教授Allan Pacey教授
これは興味深い研究で、一見アルコールが健康に悪いという常識に反するように見える。しかし私は中程度飲酒が男性の生殖能力にとって意味のあるリスク要因だと思ったことはない。だからといって見境無く飲んでいいということにはならない。暴飲は精子の質の悪さに関連するという研究がある。

  • ヒト生殖におけるゲノム編集についてのNuffield生命倫理評議会の新しい報告への専門家の反応

expert reaction to Nuffield Council on Bioethics new report into genome editing in human reproduction
July 17, 2018
http://www.sciencemediacentre.org/expert-reaction-to-nuffield-council-on-bioethics-new-report-into-genome-editing-in-human-reproduction/
のNuffield生命倫理評議会が「ゲノム編集とヒト生殖:社会的倫理的問題」という新しい報告書を発表した
(略。この分野はいつもイギリスが先頭。)

  • プラスチックの化合物とラットの脳を調べた研究への専門家の反応

expert reaction to study looking at plastic chemicals and rat brains
July 16, 2018
http://www.sciencemediacentre.org/expert-reaction-to-study-looking-at-plastic-chemicals-and-rat-brains/
JNeurosciに発表された新しい研究で、生まれる前とほ乳期に化学物質混合物に暴露されたラットは、暴露されていないラットよりも、成獣になってからの前頭葉前部皮質が小さく注意切り替えタスクの成績が悪いと報告している
Cincinnati大学環境健康教授Daniel Nebert教授
著者の要旨では「妊娠中の母獣は妊娠期間中と授乳中10日間、0, 200, あるいは1000 μg/kg/dayのフタル酸を経口摂取した。」と記述してある。文献によるとフタル酸のNOAELは4.8 mg/kg bodyでヒトTDIは0.05 mg/kg body weight per dayである。著者らは「環境中に存在する程度の混合物」と書いているが、彼らがラットに与えた量はTDIの4倍および20倍である。従ってこれらの知見が「エキサイティング」や「予期せぬ」とは言えない
Cambridge大学小児科名誉教授Ieuan Hughes教授
これは齧歯類を使った実験で機能の研究と脳の詳細な探索を組み合わせている。この研究からはどうしてこのようなことがおこるのか正確にはわからず、それが内分泌撹乱によるものなのかどうかについても著者らは確かではない。確かに著者らはフタル酸類(それぞれ異なるいくつかの物質からなる)がステロイド酵素大麻やニコチン受容体、インスリン信号伝達、甲状腺機能などの多様なシステムに自由自在に作用すると議論している。しかしこのラットの実験からヒトでの精神疾患の原因だとどうして飛躍できるのだろう?
Leeds大学環境毒性学名誉教授Alastair Hay教授
ラットでの実験は確かによくできている。過去に行われた実験に比べて用量はヒトでの高摂取量に比較できる程度になっている。フタル酸により神経細胞シナプスの数が減るという知見は懸念があるので他の研究者によって確認が必要である。
脳への影響を評価するのは複雑で他の影響を排除するには詳細な実験が必要である。さらなる研究が必要である。
UCL医学統計学者Graham Wheeler博士
使ったラットの数が少ないため結論には注意が必要である。タスクを行ったラットは脳の測定を行ったラットとは別のラットである。フタル酸の用量が増えると間違いが多くなると予想されるが、高用量群のほうがしばしば間違いが少ない。
メルボルンRMIT大学分析化学准教授Oliver Jones博士
興味深い研究である。この研究自体は賢いものの、動物実験の結果が必ずしもヒト、あるいは他の動物にすら、あてはまらないことに注意する必要がある。例えばアスピリンはマウスの先天障害を誘発するがヒトではおこらず、コルチゾンはマウスで先天障害を誘発するがラットではしない。フタル酸は消費者からの圧力で既に多くの商品から消えつつある。しかしこの問題の答えを得るにはまだ研究が必要だと思う。

  • オメガ3脂肪についてのコクランレビュー−専門家の反応

SMC NZ
Cochrane review on omega-3 fats – Expert Reaction
18 July 2018
https://www.sciencemediacentre.co.nz/2018/07/18/expert-reaction-cochrane-review-on-omega-3-fats/
79のRCTの結果を検討したコクランレビューが、魚油などの長鎖オメガ3サプリメントを摂ることに心臓の健康上のメリットや脳卒中あるいは何らかの原因による死亡リスクを下げることはないという強力な根拠を発見した。
植物油のオメガ3には心臓と循環器系をほんの少し保護するかもしれないという幾分かの根拠を見出した。
SMCは専門家のコメントを集めた。
オーストラリアNSWの Wollongong大学医学部Barbara Meyer教授
私はこれが極めて重要なレビューだとは思わない、なぜならメタ解析に血中オメガ3濃度が1%しか増えない低用量オメガ3の研究が含まれているから。現在の心血管系疾患の治療を受けている人が血中オメガ3濃度が1%増えたことで死亡率や疾患に影響がないのは驚くことではない。
このコクランレビューでは長鎖オメガ3脂肪は死亡率やCVDイベントに、ポジティブにもネガティブにも大きな影響はないと結論しているが、この結論の文脈をみてみよう。
歴史的にはグリーンランドエスキモーが欧州や米国のCV死亡率(全死因の45%)よりCV死亡率が低い(全死因の7%)ことが報告され、彼らは魚やシーフードを多く食べ血中長鎖オメガ3脂肪酸が多かった。その後の介入試験ではコレステロールを減らす薬を飲んでいる人を対象にした。メタ解析に含まれた研究の多くは心血管系イベントの発生率が低く、治療を受けていることが原因のひとつだろう。しかし使用した用量が少ないせいかもしれない。またDHAの量のほうが重要かもしれない。そしてすべての研究で血中長鎖多価不飽和脂肪酸濃度を測定しているわけではない
英国心臓財団上級栄養士Victoria Taylor
この試験はサプリメントをみたもので魚を食べることではない。オメガ3サプリメントについての助言は数年前に変わっていて、最早心臓発作の既往症がある人にサプリメントは薦めていない。サプリメントは健康的な食事の代わりにはならない。数年前に更新したガイダンスはこの研究に一致している。心臓や循環器の病気を予防するためのオメガ3サプリメントは薦めない。しかしそれは油分の多い魚やくるみなどを食べるなという意味ではない。我々のメッセージは明確である−サプリメントではなく健康的な食生活を。
Sheffield大学心血管系医学教授で名誉心臓相談医Tim Chico教授
食事は心疾患予防に十四杖あるが、それは複雑なもので食品中に含まれる単一要因だけに関連することはありそうにない。さらに食事の影響は直接食べたもののせいなのか収入などの他の要因によるものなのかを知ることは難しい。
これまでの経験から、ある種の食事法が心疾患のリスクの低さと関連することが示されたとしても、その食事の中の有用な要素を同定してそれをサプリメントで摂ろうとしても一般的にほとんどあるいは全く利益がない。ビタミンがそうだった。ビタミン類の多い食生活は心疾患リスクの低さと関連するが、人々にビタミン錠剤を与えると利益がないどころか害すらあった。この解析はオメガ3サプリメントが心疾患を減らさないことを明確に示す。サプリメントはお金がかかるので、私の助言はそんなものにお金を使うのは止めて野菜を買おう、である。
Quadramバイオサイエンス研究所栄養研究者で名誉フェローIan Johnson博士
これはヒト介入試験の質の高い、包括的解析で、その結果はオメガ3脂肪酸に重要な利益があるという根拠はほとんど無いことを示す。これまでの疫学研究からの強力な根拠を考えると、この結論は幾分驚くかもしれないが、重大に受け止める必要がある。集団で観察された油分の多い魚を摂取することの保護的作用は、何らかのメカニズムにより精製したオメガ3サプリメントの比較的短い介入では再現できないのか、あるいは油分の多い魚の摂取に関連する同定されていない環境要因によるのかであろう。
King’s College London栄養と食事名誉教授Tom Sanders教授
このレビューの大きな限界は、過去20年のオメガ3脂肪摂取量増加を評価できないことである。食品企業が加工食品に使う油のオメガ6と3のバランスを考慮し部分水素添加植物油の使用を止めキャノーラや大豆油を使うようになってリノレン酸の摂取量が増えた。
また多くの試験は心血管系疾患既往の患者でそれも一般人にあてはめる場合の制限になる。
このレビューでは考慮していないこれまでの観察研究データからは、心血管系疾患リスク増加に関連する閾値は1日1g以下のアルファリノレン酸摂取量で、従ってこれ以上摂ることでさらなる利益はないだろう。必須栄養素としての必要量は僅かなので、それ以上摂っても良くはならない。
これまでの観察研究では魚の摂取はより一貫して心血管系疾患リスクの減少と関連している。魚に蓄積する長鎖オメガ3脂肪酸はアルファリノレン酸とは異なる影響をもつがそれらは1日3g以上でのみ明確になり、それは多くの試験で使われた量(1g/日)より多い。
現在の食事ガイドラインサプリメントを摂るのではなく魚を食べることを薦めている。この研究はこの食事助言を変えるべきだという根拠にはならない。
(この記事の写真がなかなか)