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グリホサート:がんの症例とグリホサートを含有する農薬の使用との関連性がないことが新規の疫学調査から明らかになった

Glyphosate: New epidemiological study finds no connection between cases of cancer and use of plant protection products containing glyphosate
BfR Communication No. 036/2017 from 22 December 2017
http://www.bfr.bund.de/cm/349/glyphosate-new-epidemiological-study-finds-no-connection-between-cases-of-cancer-and-use-of-plant-protection-products-containing-glyphosate.pdf
疫学調査は、グリホサートの発がん性を取り巻く論争において物議を醸す中心要素である。11月に米国で発表された調査では、かなり広範なデータベースを用い、グリホサート含有植物保護製品の使用と農業従事者におけるがんの症例とに関連性があるかどうかが検討されている。この目的のため、調査では、11年間という長い観察期間が設けられ、米国の農業従事者健康調査(AHS)の未公表データの評価が行われている。この長期間のAHSのフォローアップデータから、グリホサート含有植物保護製品の散布と、調査した集団におけるがんの発生との間に明らかな関連性は立証されないと結論付けられた。このことは、一般的ながんに対して当てはまるだけではなく、グリホサートの評価と関連して議論されてきた非ホジキンリンパ腫などの特殊なタイプのがんにも当てはまる。急性骨髄性白血病(AML)との関連性の可能性を示唆する結果については、統計学的に不明確であり、慎重に解釈するべきである。
BfRはこの新規の調査について初動的評価を行い、The Journal of the National Cancer Instituteに発表した(djx233, https://doi.org/10.1093/jnci/djx233)。この調査の結果は、IARCでは考慮に入れられておらず、また、グリホサートを植物保護製品の有効成分として再認可するための申請過程において出された欧州健康評価の結論でも考慮されていない。
調査の概要
Andreottii et al. (2017)の調査は、11年間という長い観察期間で米国の農業従事者健康調査(AHS)を評価したもので、AHSの評価についてはDe Rooset al. (2005, Environmental Health Perspectives 113:49–54)もすでに報告している。最初の2005年の評価では、グリホサート使用者におけるがんの症例は1,324件であったが、対照的に、2012年あるいは2013年まで延長したフォローアップでは、5,779件の症例が再評価のために利用可能であった。
調査結果
ここで報告されるアイオワ州と北カロライナ州での農薬や植物保護製品の使用者の包括的な前向き疫学調査(統計的評価に供した件数: n = 54,251)においては、使用者自身が示した情報に基づくと、グリホサート含有植物保護製品の使用と、一般的ながんおよび非ホジキンリンパ腫(NHL)や多発性骨髄腫などの白血病の発生との間に、特に統計的関連性は認められなかった。結果は、交絡因子(年齢、喫煙、アルコール、家族のがん履歴、州、他の農薬や植物保護製品の使用)に関して調整されており、様々な方法で暴露量を定量しても一貫していた(三分位数や四分位数の使用、観察終了前の最大5、10、15または20年の累積暴露の検討)。
最大暴露量(上位4分の1)でグリホサートを含む植物保護製品を使用した人は、非使用者と比較して、急性骨髄性白血病(AML)のリスクの増加はみられたものの統計学的に有意な増加ではなかったことが報告されている。三分位値を用いて20年間以上の累積暴露を考慮した場合の有意傾向検定など、暴露の定量に用いられた様々な統計学的手法(上記参照)の間で結果は同一ではなかった。
調査の評価
調査結果は、職業的に農薬や植物保護製品を使用する人達において、グリホサート含有農薬の使用によって生じる発がんリスクを疫学的に推定することに関連している。この調査は以下により、信頼できるとみなされる:
 事例数の多さ(評価された調査対象者: n = 54,251、グリホサート使用者におけるがんの症例数: n = 5,779)
 農薬や植物保護製品の使用者グループからの調査対象者が集められており、これは意味のあることとみなされる
 交絡因子が調整されている(他の農薬や植物保護製品の使用を含む)
 この調査の対象者を集めた(登録した)際の暴露量のデータが収集でき、前向き疫学調査デザインが有利であること
 観察期間の長さ(登録期間: 1993〜1997、フォローアップ: 2012〜2013まで)
この調査の対象者は米国の2州に限定され、暴露の情報は問診から得られ、データが抜けている部分についてデータ補完法が用いられていて暴露による影響の推定に歪みが生じる可能性があるなど、この調査にも制限はある。暴露の情報は、この調査の対象者の登録時点から最も遅くて2005年までの期間のものとなっている。この調査の重要な記述は、グリホサートの使用と、一般的ながん、特に非ホジキンリンパ腫(NHL)といった白血病および多発性骨髄腫の発生との間に、有意な関連性が立証されなかったということである。結果は統計学的に明確ではないが、急性骨髄性白血病(AML)についての結果は、統計学的に不明確であるため、―この調査の著者もそうしているが―十分慎重に解釈されることになる。入手可能な最新の水準の知見に照らすと、BfR、EFSAおよびECHAが今日まで実施したグリホサートの評価において、AMLは問題として浮上していない。現在までに知られている他の疫学調査に照らしても、指定された条件で使用した場合にグリホサートの発がん作用を示すという根拠は、さらに弱められている。BfRおよびEUの所轄機関は、現在の知見に基づいて、グリホサートを発がん性物質に分類すべきでないと判断しているが、この判断は、この新しい疫学的調査によってさらに支持を得ている。