食品安全情報blog過去記事

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Scienceから

  • カナダは大規模大麻実験を始める

Canada begins a great ganja experiment
Craig Schluttenhofer
Science 03 Aug 2018:Vol. 361, Issue 6401, pp. 460
世界中の国が違法薬物の社会的影響をなんとかしようと苦闘しているが、薬物の入手と実験の困難のため政策決定に役立つ研究は少ない。大麻法成立によりカナダは娯楽用大麻の合法化を行う最初の大規模経済圏になる。
カナダは若者の大麻入手を抑制し公衆衛生と安全性を向上させ刑法によるひずみを緩和しようとした。大麻使用提唱者たちは合法化で闇市場の販売が減ると主張してきた。こうした主張を確認するのも否定するのも根拠をみつけるのは困難だった。相当な研究費を投じて、いまやカナダは大麻研究の先駆者になれる。研究者も研究材料が豊富に入手できる。
ただし娯楽用大麻の使用を認めることは国際条約違反であり国連がどういう制裁をするかによって他国が追随するかは変わるだろう。研究機会がいつまでつづくか不明なため研究者らはこの機会を政治的にバイアスのない研究を行うことに利用すべきである。

  • CRISPR作物についてのEUの判断は科学者を失望させる

EU verdict on CRISPR crops dismays scientists
Kai Kupferschmidt
Science 03 Aug 2018: Vol. 361, Issue 6401, pp. 435-436
先週スウェーデンのUmeå大学の植物生理学者Stefan Janssonはスウェーデン農業委員会に、裏庭で花を咲かせている遺伝子編集キャベツについて電子メールで質問した。7月25日に欧州司法裁判所が遺伝子編集植物はこれまでのGMOと同じ膨大な規制プロセスを経なければならないと決定した。同僚の実験室で作ったJanssonのキャベツは突然違法になるのか?
最初の返事は職員が休暇中で8月に返事をするという自動返信メールであった。それから「OK、我々はこれを慎重に検討する必要がある」という返事をもらった。
同じようなことが先週欧州中でおこった。不意をつかれた英国とベルギーの規制当局は既に認可したあるいは実施中の野外試験をどうするかという問題に直面している。しかしこの判断の影響は現在行っている試験にとどまらない。多くの研究者がこれは植物バイオテクノロジーを萎縮させるだろうという。そのような技術への長く続く疑念から、欧州では概ねトランスジェニック作物を避けてきた;そして今度は別の技術革新も失おうとしている。さらにこの決定は基礎科学にも障害となり国際取引にも妨げとなるだろう。「どこまで影響が及ぶか計り知れない」とドイツ連邦消費者保護食品安全事務所の遺伝工学部長Detlef Bartschは言う。
この判定はEU諸国がCRISPRのような革新的遺伝子編集技術の産物をどのように扱うべきかについてのものである。遺伝子丸ごとを移す古典的遺伝子組換えと違って遺伝子編集は極めて正確にほんの僅かな遺伝的変更を可能にする。EUでは古典的GMOは2001年指令で規制されている。この指令では化学物質や放射線を使って突然変異を誘発する技術を「長い安全使用歴がある」として例外としている。
科学者は遺伝子編集もこれらと同様規制対象外とすべきだと主張してきていてフランス政府も同じスタンスだった。環境団体がそれに反対してフランスの議会が欧州裁判所に判断を求めた。そして裁判所がCRISPRなどの遺伝子編集技術は「自然にはおこらないやりかたで生物の遺伝子を変化させるので」例外にはならないと決定した。新しい技術の法が古典的GMに劣らずリスクがある可能性があると(環境団体に)賛成した。
一部のNGOは勝利宣伝をしている。しかし科学者は失望した。
いくつかの遺伝子編集作物の販売を認めている米国政府も不快を表明している。「政府の政策は、新しい技術に不必要な障害や不当な烙印を押すことなく科学的革新を促すべきだ」と米国農務省Sonny Perdue長官は言う。しかしこの決定は米国に有利である可能性がある、もし欧州の科学者がもっと研究に適した場所を探すことにすれば。
科学者の中にはこの判定は実行不可能だろうと言う人もいる。遺伝子編集と自然の突然変異を見分けることが困難だからだ。自然に発生する無数の突然変異の中からほんの少しの欠失を見つけ出すのは不可能だろう。常にそうではないが。
植物科学は停滞するだろう。
エジンバラ大学ライフサイエンスにおける革新研究所長Joyce Taitは欧州の規制システムは作出に使った技術についてではなく個々の植物のリスクを評価するようにすべきだと考えている。
この判断は欧州以外にも影響する可能性がある。カルタヘナ議定書ではある種の農産物の輸入を安全性を理由に禁止できる場合の詳細を記している。この議定書に署名しているEUはこれまで遺伝子編集を含めることには反対してきた。それが変わる可能性がある。つまり欧州を含む世界中の国々が遺伝子編集作物の輸入を阻止する可能性が拓かれた。それが欧州とその他の国の貿易をしやすくすることはないだろう、とBartschは言う。
欧州の保守的判断が途上国に影響するかどうかも別の疑問になる。Taitは「こうした国々は、多くの可能性のある新しい技術には概ね積極的だった」という。「しかしNGOによる強力なキャンペーンが次世代技術を農業に採用することを妨げてきた。」
(一部)

  • 妊娠中にスリムでいることの対価

Staying slim during pregnancy carries a price
Dennis Normile
Science 03 Aug 2018: Vol. 361, Issue 6401, pp. 440
日本の痩せた女性への強迫観念が胎児を傷つけ日本人全体への長期にわたる健康問題を生み出している。既に、日本人女性のかなりの割合が過小体重で妊娠を開始していて、多くの科学者がこの国の妊娠中の体重増加に関する公式ガイドラインがあまりにも厳しいと批判してきた。今回、調査の結果多くの妊娠女性がこの厳しい目標よりさらに少ない体重にしようと努力していることがわかった。この要因の組み合わせが出生時低体重の異常な高率につながっている。これは日本人成人の平均身長が1980年以降に生まれた人たちで年々減っていることの理由である可能性が高い。
(グラフ有り。わりと衝撃的。「失われた20年」で国が貧しくなった上に身長まで減っているなんて!)
影響は身長だけにとどまらない、とこの研究を主導した国立成育医療研究センターの周産期疫学者Naho Morisakiはいう。「日本は成人の疾病負担が増えているようでこれが寿命に影響する可能性がある」。オークランド大学の健康と病気の発達起源の専門家Peter Gluckmanは、小さく産まれた人は糖尿病や高血圧になりやすい、という。彼は日本の事態を「まさに警告すべき」という。Gluckmanは「我々は日本の当局に体重増加ガイドラインを改定するよう非常に熱心に説得してきた」という。しかし厚生労働省は改訂の予定はない言う。
日本人の身長が低くなっているのはほんの僅かだが間違いようがない。2016年に発表された国際研究では19世紀後半から日本人成人男性の平均身長は14.5センチ伸び、1978年と1979年生まれの171.5センチがピークだった。しかし1996年生まれは170.8センチである。同時期に女性は16センチ伸びで158.5センチになりそれが0.2センチ縮んだ。他の国で身長が低下した場合もあるが、経済不調や背の低い移民の増加、あるいは貧しい食生活などに関連するとされている。
日本では出生時体重との関連の根拠が強いと専門家は言う。第二次世界大戦後、低出生体に重児−生まれたとき2.5kg未満−の割合は1951年の7.3%から1978-79年の5.5%まで減り続けてきた。しかし赤ちゃんが重くなると医師らは妊娠高血圧腎症を心配し、1970年代には一部の日本の産婦人科医らが妊娠中に低カロリーの食事をすればリスクが減ると示唆して1981年から産婦人科学会のガイドラインに取り入れられた。それまでは母親には「二人分食べる」ように言われていたのが「小さく産んで大きく育てる」よう言われるようになった、と早稲田大学の産科医Hideoki Fukuoka医師は言う。(早稲田に医学部はないよね?)
厚生大臣が1995年に発行した助言にもこの懸念が反映された。当時IOMの発行したアメリカ人女性のためのガイドラインを小さく軽い日本人に当てはめるときに相当厳しくした。BMI 18.5以下の過小体重の女性の場合、IOMは12.7-18.1kgの体重増加を推奨したが日本は9-12kgにした。
日本女性はその助言を真摯に受け止め、低体重の赤ちゃんは2010年には9.6%まで増えた。それが成人の身長低下の原因である、とGluckmanはいう。Morisakiは痩せていたいという思いがこの傾向に拍車をかけたことを確認した。現在、20代の日本人女性の20%以上がBMI 18.5未満であるが、米国では20-39才の男女の1.9%である。1681人の妊娠女性に尋ねたところ妊娠中の理想的な体重増加は推奨値以下と回答したのが54%である。Scientific Reportsに発表される。
(以下略。日本人にとっては肥満より痩せのほうが実害が大きくなっているのに肥満対策ばかりなんだよね。多分問題は肥満学会に頼ったことと欧米追従だと思う。専門ではあるが肥満が大問題と言いたい人たちの集まりなのでバランスのとれた政策は提言できない。米国の科学アカデミーは公衆衛生全体を見る人がいて学際調整が上手。)

Wheat—the cereal abandoned by GM
Brande B. H. Wulff 、Kanwarpal S. Dhugga
Science 03 Aug 2018:Vol. 361, Issue 6401, pp. 451-452
突然あらわれる作物の病気は取り返しのつかない経済的ショックを引き起こす−特に途上国の小さな農家には。例えば2016年にバングラデシュにおこった小麦葉枯れ病。現在検疫で管理されているが簡単に拡がる可能性がある。こうした病気への耐性をもつ遺伝子を単離して導入する方法は解決法になるが、小麦は遺伝子組換えの世界では孤児である。
たったひとつの認可申請されたGM小麦は2004年に米国で破棄され、以降なにひとつ申請されていない。あまり儲けにならない作物への、主に欧州と日本の反GM消費者団体からのプレッシャーが小麦を優先順位の低いものにしているようにみえる
(以下略。いつかはGMのメンバーにならないといけない、という結論。日本の消費者団体の影響ってそんなにあるのかな?)