食品安全情報blog過去記事

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その他

  • グリホサートとがんの法廷闘争がエスカレートしようとしているが、もしこの除草剤が制限されたら農業にとっての影響は?

With glyphosate-cancer legal battles poised to escalate, what are the ramifications for agriculture if the herbicide is restricted?
Cameron English | Genetic Literacy Project | August 13, 2018
https://geneticliteracyproject.org/2018/08/13/with-glyphosate-cancer-legal-battles-poised-to-escalate-what-are-the-ramifications-for-agriculture-if-the-herbicide-is-restricted/
サンフランシスコでの判決を受けて、モンサントを訴えている側の弁護士と緊密な関係の反GMO団体Right to KnowのCarey Gillamは以下のような勝利宣言をしている:「世界中の公務員が企業の利益のためではなく公衆衛生を守るために対応すべき時だ。」そしてフランスのEmmanuel Macron大統領が禁止に動き、世界中の活動団体がこの判決をてこに禁止活動を活性化させている。
グリホサートがもし禁止あるいは制限されたらその影響は?
グリホサート耐性GE作物も使用できなくなるので影響は大きいだろう。農家が古い方法を用いることで食糧価格の上昇と環境への悪影響となるだろう。より毒性の高い除草剤の使用が増えるだろう。土を耕すことでCO2排出量が増え気候変動への影響も大きくなるだろう
(長い記事、略)

  • 現実の「私の中のあなた」シナリオ:オーストラリアの夫婦がきょうだいを救うため赤ちゃんに遺伝子操作をしたことでバックラッシュに直面

Real life My Sister's Keeper scenario: Aussie couple face backlash over baby genetically engineered to save brother
https://www.tvnz.co.nz/one-news/world/real-life-my-sisters-keeper-scenario-aussie-couple-face-backlash-over-baby-genetically-engineered-save-brother
5人の子どもをもち6人目を妊娠中のメルボルンOlivia DensleyはWiscott Aldrich症候群の二人の子どもの骨髄移植のために妊娠中の子どもは遺伝子操作したという。この信じがたい話はJodi PicoultのベストセラーMy Sister's Keeper(「私の中のあなた」のタイトルで映画になっている)に似ている。家族はチャンネル9の60 Minutesに出演して話をした。しかし番組のフェイスブックに批判コメントが寄せられている。
(???)
Gamble of life: Making babies to save children
By Liz Little • 60 Minutes Digital Producer
8:56pm Aug 12, 2018
https://www.9news.com.au/2018/08/12/20/56/gamble-of-life-60-minutes-making-babies-save-children-densley-family
(番組のページからは体外受精で適合する胚を選んだだけのように見える。いくら何でも遺伝子組換え人間はないと思うのだがメディアが平気でそういう単語を使うのはあまりよろしくない)

  • がん検診:必要なものと必要でないもの

Cancer Screening: What You Need, What You Don't
by Health After 50
http://www.berkeleywellness.com/self-care/preventive-care/article/cancer-screening-what-you-need-what-you-dont
がん検診の目標は目標は二つで前がん病変をみつけること、早期に見つけることである。しかし全ての検査が全ての人に勧められるわけではない−しばしば検査は良いことよりも悪いことのほうが多い
(以下USPSTFの紹介。検査の害の周知が増えた)

  • モンサントの製品が男性のがんと関連するという米国の司法判断への専門家の反応

SMC UK
expert reaction to US jury ruling that Monsanto product linked to man’s cancer
August 11, 2018
http://www.sciencemediacentre.org/expert-reaction-to-us-jury-ruling-that-monsanto-product-linked-to-mans-cancer/
NorwichのSainsburyラボグループリーダーSophien Kamoun教授
残念ながらメディアはこの裁判の決定がグリホサートについての決定と同じだと報道している。実際にはもっと複雑で、裁判では製剤が議論されている。それは私の知る限りRound Upと Ranger Proである。我々科学者はたとえグリホサートが安全だとしても、Round Upと Ranger Proが安全だと結論するためのデータはほとんどないことを注記する必要があると思う。
Cambridge大学がん疫学教授Paul Pharoah教授
こうした法医学の裁判はいつも難しい、なぜならリスクや因果関係の概念が科学の意味と法的意味で違うからである。全ての根拠を評価することは非常に複雑である。
グリホサートとリンパ腫リスク増加の疫学的根拠は極めて薄弱で、さらにリスクがあったとしてもそれは小さく特定の個人がその暴露のせいでがんになった可能性が高いと結論できるほど大きくない。純粋に科学的見地からはこの判決には頷けない。
QMUL病理学名誉教授Colin Berry卿
多くの国の独立した規制機関による膨大な数のレビューがグリホサートの発がん性を支持する根拠はないことを発見している。
さらに非ホジキンリンパ腫は多くの異なる種類と遺伝的変異の多数の腫瘍を指す用語であり、単一メカニズムでは説明できない。そしてグリホサートはいずれにせよDNAを傷害しない。

  • モンサントがグリホサートがん裁判に負ける−専門家の反応

SMC NZ
Monsanto loses glyphosate cancer case – Expert Reaction
Published: 13 August 2018
https://www.sciencemediacentre.co.nz/2018/08/13/monsanto-lose-glyphosate-cancer-case-expert-reaction/
環境大臣Eugenie Sageが環境保護局(EPA)にラウンドアップを再評価が必要な有害物質リストに加えるかどうか検討することを求めると言った。彼女の対応はサンフランシスコの裁判所が、モンサントの除草剤を何年も使った結果リンパ腫になったと主張するグランド管理人に、がんと関連する警告をしなかったとして2億8900万米ドルを払うよう求めたことによる。モンサントは上訴する予定である。
SMCは専門家のコメントを集めた
オタゴ大学毒性学講師プログラムリーダーBelinda Cridge博士
裁判はIARCがグリホサートを「おそらくヒト発がん性」と再分類したことに基づく興味深いテストケースである。しかしIARCの知見の影響は広く議論されていて、ひとつは大企業の関与とIARCはリスク評価を行うのではないということである。つまりその化合物にどこでどのくらい接触するのかは考えない。しかしリスクを決めるにはそれが重要である。例えばIARCは赤肉もおそらく発がん性と分類している。
米国の裁判ではラウンドアップに使われている添加剤もがんの原因として相乗作用した可能性があると言っている。そのような混合物の毒性はまだ詳細にはわからない。つまり可能性はあるがいまのところ仮説であり証明されていない。裁判に関しては、原告にはグリホサートががんの原因であることを決定的に示す必要はなく、ありそうな寄与要因であるだけでいいというところが興味深い。モンサントはグリホサートが間違いなくがんの原因ではないと証明することはできない。どちらも証明できないが起訴の成功はIARCの分類を根拠として支払いを求める人たちを増やすだろう。
最後に全体を考えることが重要だろう。ラウンドアップは全ての雑草管理にとって安全な万能薬というわけではない。科学者は研究を続ける。しかし代用品は極めて魅力が無くヒトや環境により悪い。ラウンドアップは世界中で長い間広く使用されてきた。合理的な安全な使用歴があり、他のものに比べて環境影響が少ない。もちろん改良は必要だが、農家にとってはラウンドアップが現在入手できるより安全な選択肢のひとつである。
私の標準的助言は、必要のないとことには化学物質を使わない、使うならよく知って防護装備をすること。これは全ての化合物にあてはまる。
カンタベリー大学毒性学教授FRCPath、 Ian C Shaw FRSC
グリホサートは発がん物質?
IARCがグリホサートをおそらくヒト発がん性と分類した、私はこれは極めて合理的な結論だと思う。この分類でいくつかの国がグリホサートのレビューをした。その前まではグリホサートは安全と考えられていた。NZの反応は違った。NZ EPAはDr Wayne Templeを招いてIARCの評価とデータを検討した。結論はグリホサートは遺伝毒性も発がん性もありそうにない、だった。これをもとにNZはグリホサートを含む除草剤の規制状態の見直しはしないことを決めた。Temple博士は非遺伝毒性発がん性については考慮しなかったようだ。グリホサートが細胞の受容体(エストロゲン受容体)と相互作用できることを考えるとこれは驚きでこのため私はNZの決定は科学的厳密性に欠けると考える。米国の裁判所の判断はIARCの分類を受け容れた。裁判所の判断は可能性が51%でよいが科学者は普通はもっと大きな統計学的保障を要求する。私は米国の裁判の事例を根拠にして規制を決めるべきだとは思わないがグリホサートの発がん性の根拠はしっかりしていると思う。NZでの再評価を支持する。
オタゴ大学がん疫学者Brian Cox准教授
米国の判事は個人の非ホジキンリンパ腫の原因がグリホサートがどうかについては限られた根拠で十分であると考えた。この米国の一裁判事例で、まだ上訴もされていないのに、ニュージーランドの健康政策を決めるのは適切ではない。しかし監視をするのは適切だろう
Massey大学雑草科学上級講師Kerry Harrington博士
私は雑草の科学者で毒性学者ではないのでグリホサートの安全性の詳細についてコメントするのは適切ではない。しかし世界中の毒性学者のたくさんのレビューがグリホサートの安全性を確認しているということは言える。IARCが言うような発がん性があったとしても、それは保存された肉よりリスクの低い分類になるようだ。加工肉を禁止しろという激しい抗議はおこっていない。複雑な問題を一般の人に判断させる米国の裁判の結果でニュージーランドの規制が変わるのは懸念である。グリホサートは我々にとって主要な雑草管理手段である。グリホサートを禁止しろという要請は、リスクの低さと世界中の持続可能な雑草管理にとってこれがどれだけ重要かということを考慮することを望む。

(農業のイメージが「耕す」なので、不耕起で環境へのダメージを減らすのが理解されにくいのでは。)