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不確実性評価

Uncertainty assessment
http://www.efsa.europa.eu/en/topics/topic/uncertainty-assessment?qt-quicktabs_field_collection=3
将来を完全に確実視することは絶対にできない。科学においても、毎日の生活においてもそうである。何かが起こるという強い根拠があっても、その結末にはほとんどの場合不確実性が付きまとう。だが、この不確実性を考慮することで、結末に影響を与える可能性がある物事について、より良くより透明性高く判断できるのである。
EFSAの科学委員会は、EFSAに付託された権限の中にある諸分野にまたがっている科学的問題に関し、調和のとれたリスク評価を行うための方法論を進展させている。
EFSAは科学委員会に対し、リスク評価における不確実性を特徴付け、文書に表し、説明する方法に関するガイダンスを作成するように依頼した。ここで言う不確実性は、リスク評価の様々な段階、すなわちハザードの同定と特徴付け、暴露評価およびリスクの総合評価での不確実性をカバーしている。この調和のとれたアプローチは、最終的にEFSAの全ての関連作業分野に適用できるようになるだろう。
科学委員会は、科学的評価における不確実性に関するガイダンス案を作成するため、予備作業を実施する作業グループを結成した(Scientific Committee Working Groups: https://www.efsa.europa.eu/en/methodology/working-groups)
FAQ
1. 不確実性とは?科学者は何でも知っているのでは?
科学は知見の探求である。科学者たちは、世界がどのように機能しているかに関する人類の知見のギャップを埋めるために絶えず努力している。科学者は大抵、自分の専門分野について広い知識があり、広く知られていないことについても多くを知っている。彼らの結論について抱いている彼らの自信は、入手した科学的根拠の質、根拠を解釈する上での彼らの経験と判断、および彼らの知らないことがもたらし得る影響(すなわち不確実性)を理解していることに基づいているのである。
2. 科学的不確実性を説明することはなぜ重要?
科学的な不確実性を特定し明示すること、そしてそうした不確実性が評価の結論とどのように関係しているかを説明することは、透明性のある科学的助言を提供する上で重要な要素である。不確実性を取り扱う場合、意思決定者は、どのような異なる結果が生じ得るか、および異なる結果が生じる可能性がどのくらいかを知る必要がある。科学者たちがどのように不確実性を報告するか、またEFSAなど公共団体が意思決定者、利害関係者、より広範な一般人にどのように不確実性を伝えるかによって、評価のリスクと利益の認識や、方策決定への影響度が変わる可能性がある。この報告の仕方は、個人の選択に直接または間接的な影響を与える可能性もある。
3. 誰が科学的不確実性を検討すべきか?
EFSAなどのリスク評価者は、科学的な助言を出す際に、意思決定者や他の関係者に不確実性を説明する責任がある。意思決定者は自らの決定に関する不確実性の影響を解消する責任があり、すなわち不確実性を考慮すべきか、考慮すべきであればどのようなやり方で考慮すべきかを決定する責任がある。
4. 科学的不確実性の例はどのようなものか?
科学者たちは日常的に、自らが行う科学的評価のにおいて、不確実性を生じる可能性のある広範な要因に対応する努力をしている。EFSAの科学委員会は、不確実性を「評価が実施された時点で、評価のために利用できた時間とリソースの範囲内で、評価者が入手することができるあらゆる種類の制約」のことと定義している。例として:
● データの品質と代表性に関して考えられる制約
● 国や分野にまたがった標準化されていないデータの比較
● 予想モデル技術の一つを別のものを棄却して選択
● デフォルトの係数の使用(平均的な成人の体重など)。
5. 不確実性の定量化がより望ましい理由は?
「無視できるほどの」、「低い」、「高い」などの用語で不確実性を定量化することで、評価結果の確実度の感覚をつかむことができる。しかし、そのような用語は様々な人々によって様々に解釈される。不確実性の定量化は、例えばパーセンテージの尺度を用いれば、曖昧な余地を減らすため、より効果的である。定量的な方法の方が一般的に定性的な方法よりも技術的に厳密であることも理由の一つである。つまり、不確実性の定量化は、より堅牢なものであると同時に、意思決定者により明確な実態を提供する。
6. 不確実性の定量化の例を示して欲しい
確率は、結果が起こる相対的な可能性を表して理解するための自然法則的定量方法である。EFSAの科学委員会は、不確実な結果の可能性を定量化する尺度(気候変動に関する政府間パネルが設定)を暫定的に支持している。
可能性の尺度(IPCC, 改訂版)
可能性を示す用語 主観的な可能性範囲
極めて可能性が高い 99〜100%
非常に可能性が高い 90〜99%
可能性が高い 66〜90%
五分五分 33〜66%
可能性が低い 10〜33%
非常に可能性が低い 1〜10%
極めて可能性が低い 0〜1%
評価者がある結論を非常に可能性が高いと考えた場合(90〜99%の可能性)、意思決定者や一般人は、その結論に準じた対策に対して高い信頼度がを持つようになる。その結果が生じる可能性が「五分五分」(33-66%の可能性)の場合、意思決定者は他の非科学的な要因(例えば社会的あるいは経済的要因)の重要度をより大きく捉え、その結果予測をより控えめに受入れる可能性があり、また不確実性が低減される見込み(例えば新しい研究によって)が示されない限り、予防的方策を取る方により傾いていく可能性がある。評価者がある結論を非常に可能性が低い(1〜10%の可能性)と判断した場合、意思決定者は進み行く方法の選択において、その結論をあまり重要視しなくなる可能性がある。
7. 科学的不確実性の定量化はどの程度困難か?
不確実性の定量化は、いくつかの困難を生じるが、不可能ではない。不確実性を特徴付けするには、様々な定量方法がある。不確実性に関するEFSAの改訂ガイダンス案には、およそ10の定量方法が詳述されている。方法の選択は、特定された不確実性のタイプおよび評価に利用できる専門知識や時間などの要因による。サンプル数が少ないことや測定誤差などによるデータ関連の不確実性の多くは、確立された統計学的ツールを用いて比較的簡単に定量化することができる。その他の場合は、専門家の判断が必要とされ、それは主観的なものとはなるが、良く理由付けが為されている場合には、科学的評価の大きな力となり得る。EFSAは2014年に、専門家の判断を得るための正式な手段に関する独自のガイダンスを公表し、可能性の判断を行う専門家の教育を推進している。方法が何であれ、重要なことは、それぞれの方法がどういう理由でどのように利用されるのかを明確に説明することである。
8. だが、全ての不確実性を定量化するのはやはり不可能では?
不可能である。「まだ知られていない未知の事柄」―私達がまだ気づいていない不確実性―を定量化することは全く不可能なことであり、既に知られているの未知の事柄の一部でさえ、定量化することは専門家にとって複雑過ぎ難し過ぎる。EFSAの科学パネルは、彼らの評価に影響を与える不確実性をできる限り多く定量化するよう求められており、彼らが特定できたが定量化できない不確実性については定性的に説明することが求められている。
9. EFSAは画一的な手法を提示しているのか?
いいえ、EFSAが提示する手法は、融通性を有し、それぞれの評価の状況に合ったツールが選択できるようになっている。不確実性に専念できる時間は当然、数時間のうちに助言が求められるような切迫した状況下では限られている(そうした状況下では不確実性は最大であることが多く、不確実性の考慮は非常に重要なのであるが)。全ての入手可能な科学的知見を長期的に包括レビューする際に、不確実性の評価にさらなる努力を割くことができるようになる。同様に、根拠が乏しい場合のある科学的知見の最前線よりも不確実性の少ないよく検討された問題に対しては、様々な手法が適用されることになる。
10. 不確実性に関するEFSAのガイダンスを使用するのは誰?
このガイダンスは主に、EFSAの科学パネルとその作業グループの専門家、EFSAの科学職員、およびEFSAに代わって科学的業務を行う科学組織に向けて作られている。また、EFSAの科学的な助言に基づいて決定を行う欧州委員会EU加盟国のリスク管理者にも関連がある。完成後、このガイダンスは、EFSAの全分野の作業およびあらゆる種類の科学的評価に適用される。それらには、リスク評価およびその構成要素(ハザードの特定と特徴付け、暴露評価、およびリスクの総合評価)が含まれる。
不確実性評価には、評価者および評価を使用する意思決定者の両方に対する専門的な教育が必要である。EFSAは、EFSAの科学者に対する教育を行い、EUリスク管理者や欧州のおよび国際的な他のリスク評価者と協働し、不確実性評価についての調和のとれた理解を推進している。
11. EFSAが不確実性のガイダンス案に対するパブリックコメントを募集した理由は?
2015年6月に、EFSAは国際的な科学コミュニティ、欧州および各国のリスク評価者、リスクコミュニケーター、リスク管理者、およびEFSAの関係者に対し、不確実性の評価のために提案した体系的な手法に関し、フィードバックを提示してくれるよう呼び掛けた。ガイダンス案を強化するため、EFSAがガイダンスに書かれた手法を食品安全の全領域にわたって試用する前に、他の科学諮問機関、不確実性分析の学術的あるいは実務的専門家から、提案した方法のなかでも特にツールボックスに含まれている方法について、情報を提供してもらうことが必要であった。
● 関連記事: EFSAは科学的評価のための「不確実性ツールボックス」を提案する
EFSA proposes “uncertainty toolbox” for its scientific assessments
18 June 2015
http://www.efsa.europa.eu/press/news/150618c