食品安全情報blog過去記事

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Natureから

Journal blacklists: show your working
EDITORIAL 16 October 2018
http://www.nature.com/articles/d41586-018-07033-5
使うべきあるいは避けるべき学術雑誌リストは透明な基準に基づくべき
(主に中国のブラックリストの基準がわからないことが懸念)

The biggest pandemic risk? Viral misinformation
WORLD VIEW 16 October 2018
Heidi J. Larson
http://www.nature.com/articles/d41586-018-07034-4
世界最悪のインフルエンザ流行から1世紀経って、間違った情報の急速な拡散が公衆衛生にとって必須のワクチンへの信頼を毀損している、Heidi J. Larsonが警告する
1918年の今月、インフルエンザによる死亡率はピークを迎えていた。流行全体で5億人が感染し5000万人から1億人が死亡した。当時の世界人口の約3%である。それから一世紀、ワクチンの進歩によりインフルエンザ、はしか、風疹、ジフテリア、ポリオの大流行は希になった。しかし人々は病気のリスクを過小評価している。昨年の冬に米国で推定8万人がインフルエンザとその合併症で亡くなったことを知っている人はほとんどいない。そのうち183人はインフルエンザ関連であることが確認されているこどもたちの死亡で、そのうち80%は予防接種を受けていなかった。
次に大規模アウトブレイクがおこるとしたらそれは予防手段がないせいではないだろうと私は予想する。デジタル技術が可能にした、伝染性の感情がワクチンへの信頼を毀損するだろう。ソーシャルメディアに溢れる矛盾した情報、間違った情報、意図的に歪められた情報は世界的公衆衛生上の脅威と認識されるべきである。
ではどうすればいい?私が主導しているワクチン信頼プロジェクトは、ワクチンに関するうわさや恐怖情報の早期兆候を検出し、雪だるま式に巨大になる前に対応する。国際チームは人類学、疫学、統計、政治科学などの専門家からなる。我々はニュースやソーシャルメディアをチェックし世論調査を行う。これまでワクチン信頼指数Vaccine Confidence Indexを開発して態度を追跡している。
ワクチンを巡る感情は移ろいやすいので効果的アウトリーチには監視が必須である。2016年には我々はワクチンの安全性についての疑いが最も高い地域としてヨーロッパを同定した。EUは我々にこの夏の再調査を依頼し、今月結果が発表される。フィリピンではワクチン安全性への信頼が2015年の82%から2018年に21%に低下した。新しいデング熱ワクチンへの正当な懸念がもちあがったためである。そして既に確立されている破傷風、ポリオなどの予防接種率が急減した。
我々は間違った情報をいくつかのレベルに分類するのが役にたつことを発見した。最もダメージが大きいものの一つはバッドサイエンスである:医学的資格のある人が根拠のない恐怖あるいは誇大な説を主張する。典型的な例が悪名高いAndrew Wakefieldによる1998年の論文発表である。彼の医師免許は剥奪され論文は取り下げられたにもかかわらず、Wakefieldは反ワクチン活動に存続し続けている。彼の存在が2017年のミネソタ州でのはしかアウトブレイクなどに寄与したことに専門家の合意がある。
二つ目に危険なカテゴリーには本やサービスやその他の製品の売ってお金を儲けるために反ワクチン議論を利用する場合である(Wakefieldもワクチンが信頼されないほうが儲かる特許をもっている)
そして次は反ワクチン議論を政治利用しようとする人たちからの間違った情報である。人々を分断する。
次がソーシャルメディアでの間違った情報を拡散する「スーパースプレッダー」である。よくある主張はワクチンによると疑われる反応(典型的には同時におこったこと)が確認されているというもの。最後に常にあり続ける間違った理解あるいは不適切な情報である。
ソーシャルメディアに標的を絞った対策は間違った情報と戦うことができる。デンマークアイルランドではHPVワクチンで障害を負ったと主張する少女達のグループがソーシャルメディアやテレビで証言し、デンマークでは予防接種率が200年の90%以上から2005年の20%以下に落ち込んだ。それに対応してデンマークの公衆衛生担当者は病気のリスクを強調し子宮頸がんで妻や母を失った人たちの物語を宣伝した。またフェイスブックのページで親たちの疑問に答えた。アイルランドでも同様にソーシャルメディア対策が行われ2018年の予防接種率は2017年から6%増加した。
全てのタイプの間違った情報に有効な単一の方法はない。特に既に懐疑の種を植え付けられた人には。教材やリソースは重要であるが限定的で、公衆衛生や教育キャンペーンはしばしば既存の認識に対応するのではなく自分たちが言いたいことを根拠にしているため足りない。対話が必要である。聞くことと参加することを含めなければならない。もし1918年のインフルエンザのような恐ろしい病気が発生して人々のワクチン懐疑が今のままだったら、恐ろしい病気が広がってしまうのでもっと上手くやらなくてはならない。
(間違った情報は病原体のようなもの、というのは食品安全でもまさにそうなのだけれど、全然勝てそうにない。まともな予算はつかず成果として評価もされない。)

  • カナダでの大麻の合法化が科学にとって意味すること

What legal weed in Canada means for science
17 October 2018
Elie Dolgin
http://www.nature.com/articles/d41586-018-07037-1
詳細な記事。研究はしやすくなる(というか今まであまり研究できなかったので都合の悪い事実もわかるかも)

Rotten meat and bottled formaldehyde: fighting for food safety
Felicity Lawrence
http://www.nature.com/articles/d41586-018-07038-0
毒小隊:二十世紀の変わり目のある化学者の食品安全を求めるひたむきな運動The Poison Squad: One Chemist’s Single-Minded Crusade for Food Safety at the Turn of the Twentieth Century, Deborah Blum , Penguin Press (2018)
不味い真実:如何にして食品企業が我々の食べるものの科学を歪めてきたかUnsavory Truth: How Food Companies Skew the Science of What We Eat , Marion Nestle, Basic (2018)
の2冊をFelicity Lawrenceが称賛する
最初の本はHarvey Washington Wileyによる人体実験Poison Squadの話。当時まだ冷蔵庫は普及していなくて企業はいろいろなものを食品に入れていた、それを人体実験で有害性を証明して食品安全のための法律を作ることにつなげた。
Marion Nestleの本は現在の話。食品企業が宣伝するチョコレートミルクで認知機能向上とかブルーベリーが勃起不全予防とかの「研究」が如何にダメかを告発する。