食品安全情報blog過去記事

はてなダイアリーにあった食品安全情報blogを移行したものです

SMC UK

  • ヒトの排泄物にマイクロプラスチックを発見したという学会要旨への専門家の反応

expert reaction to conference abstract that reports finding microplastics in human stools
October 23, 2018
http://www.sciencemediacentre.org/expert-reaction-to-conference-abstract-that-reports-finding-microplastics-in-human-stools/
欧州消化器病週間で発表された要旨でヒトの排泄物からマイクロプラスチックを見つけている
ヨーク大学環境科学教授Alistair Boxall教授
私は今年のもっと早い時期にオスロで開催されたEmCon2018学会でこのポスター発表を見ている。我々は日常的にマイクロプラスチックに暴露されていることを示す興味深い研究で、人体中マイクロプラスチックを探している他の研究もある。この知見には全く驚かないし心配でもない。マイクロプラスチックは水道水やボトル入り水、魚、貝、ビールからもみつかっている。ハウスダストや食品包装、プラスチックボトルの使用でも暴露されている。だからそれが肺や消化管はいるのは避けられない。
実験室でのヒト以外での研究で取り込みや影響を調べたものもあるが通常それは極めて高濃度を用いていてヒト健康リスクについては結論できない。現実的な暴露での研究が必要である。この研究は極めて初期的なもので、要旨を読む限りこれが環境暴露だとは結論できない。これらがどこから来たのかは根拠が無く、ハウスダストやプラスチック容器、あるいは乾燥機のナイロン繊維かもしれず、それらのほうが環境由来より多いだろう。暴露源を詳細に調べた後でないとどこからきたのか、もし健康上の懸念になるならどこに介入すればいいのかはわからない
コンサルタント毒性学者Peter Jenkinson博士
要旨を書いたときよりデータは増えていると思うが、要旨とプレスリリースでは調べたプラスチックの数が違う。要旨では11、プレスリリースでは10、これは変わるはずがない。要旨では分析したのはたった5検体でそのうち2検体から2種類のプラスチック(PSとPU)しか検出されていない。しかしプレスリリースではPPとPETが全ての検体から検出されたと言っている。方法や結果がわからず意味のあるコメントはできない。
結果は驚くようなものではなく、検出されない方が不思議だ。問題はそれが健康に影響するかどうかだがこの点については何の情報もない
King’s College London研究員Stephanie Wright博士
この要旨からは、マイクロプラスチックが体内にあるという根拠はなくただ通り過ぎたこと、つまり蓄積されているという根拠はない。検体数が少ないなど限界がある。多くのものからマイクロプラスチックが検出されているので驚くべき結果ではない。健康影響があるという根拠はない。大きな粒子ほどただ通り過ぎるだけだろう。むしろこれらに化学汚染があるかどうか、溶出するかどうかの方が問題だろう

  • ハードなEU離脱は「英国の科学を毀損する可能性がある」声明への専門家の反応

expert reactions to statement that a hard Brexit ‘could cripple UK science’
October 23, 2018
http://www.sciencemediacentre.org/expert-reaction-to-statement-that-a-hard-brexit-could-cripple-uk-science/
フランシス・クリック研究所が職員の調査を完了して英国のEU離脱は英国の科学に重大なダメージを与える可能性があると警告した
たくさんの科学者の意見。離脱を半年以内に控えて、交渉が進んでいないため(‘no deal’ Brexit)危機感を表明。

  • オーガニック食品とがん

organic food and cancer
October 22, 2018
http://www.sciencemediacentre.org/organic-food-and-cancer/
Before the Headlines(見出しの前に:ジャーナリスト向け事前説明)
・タイトルと出版日と雑誌
‘Association of Frequency of Organic Food Consumption With Cancer Risk – Findings From the NutriNet-Sante Prospective Cohort Study’ JAMA Internal Medicine
・研究の主要な主張とそれがデータによって支持されているか
この研究はオーガニック食品摂取頻度が高いこととがんリスクの低さが関連すると主張する。著者は最もオーガニック食品摂取頻度が高い1/4の人は最も低い1/4の人に比べて約25%がんリスクが低いことを発見した。著者が関連を同定したのは事実だが、これは観察研究なので(著者自身が注記している)オーガニックががんリスクを減らすことを示したわけではない。オーガニック食品を食べる人は他の方法でもより健康的だと考えられるので、解析で考慮されていない他の健康的ライフスタイル要因のせいである可能性がある。著者らは多様な変数を考慮しようとしているがそれでもそうした要因が原因である可能性は残る。この研究は食品中の農薬とがんリスクの関連を見つけているわけではない。著者らがメカニズムとして仮定しているだけで、その根拠はこの論文にはない。この研究の結論は「一般人にオーガニック食品を食べるよう薦めればがん対策になるかもしれない」であるが、これは単なる推測で、因果関係を示していないため全面的には正当化できない。
この論文にはコメントがついていて、それがこの研究をよく説明している。コメントでこの研究の限界について詳細に記している
・強み
規模が大きい。69000人の、インターネットが使えるフランス人ボランティアからなる。
・欠点
食事調査は自己申告による。オーガニック食品摂取頻度調査に使った質問の妥当性評価はされていない。また統計学的に有意なのは閉経後の乳がんとリンパ腫だけである。著者らが検討した他のがんは有意ではなく、また僅かのがんしか検討していないが何故それを選んだのかは説明されていない
・用語
妥当性評価:信頼できることがわかっている他の食事評価方法と比較
・この論文に必要な統計以外の専門性
私はコホート研究のデザインと解析には経験があるが食事や環境暴露の研究は経験がない

  • オーガニック食品とがんの関連についての専門家の反応

expert reaction to organic food and cancer relationship
October 22, 2018
http://www.sciencemediacentre.org/expert-reaction-to-organic-food-and-cancer-as-published-in-jama-internal-medicine/
King’s College London遺伝疫学教授Tim Spector教授
これはしっかりした観察コホート研究でオーガニック食品とがんリスクを調べたものの中では最大規模のものである。観察研究につきものの全てのバイアスがある。オーガニック植物をたくさん消費している人たちで小さいが有意なある種のがんお削減が示唆された。非ホジキンリンパ腫ではこれまで別の2つの研究で同じような予防効果が報告されているので最も信用できる。このデータは殺生物剤や農薬の安全性をもっと厳密に検討することを促す。
King’s College London栄養と食事名誉教授Tom Sanders教授
これは観察研究でRCTではない。オーガニックを最も多く食べていると報告した人たちは非喫煙者が多くBMIが低く飲酒量が少ない−全てがんを少なくする要因である。乳がん前立腺がん、大腸がんのような最もよくあるがんに差がないがリンパ腫で低リスクだった。リンパ腫はウイルスによるものもあるが慢性炎症や化合物も関連する。非ホジキンリンパ腫の頻度の低さは英国の研究と同様である。この研究では既知のリスク要因を補正しようとしているがそれでも残る可能性が高い。従ってオーガニックが原因かどうかはわからない。さらに非ホジキンリンパ腫は他のがんに比べて症例数が少ない。一般人にがん予防のためにオーガニック食品を薦めようという結論は誇大である
Oxford大学疫学教授Tim Key教授
オーガニックを選ぶ人たちが非ホジキンリンパ腫リスクが低いという観察は少数の事例に基づくが英国のミリオンウーマン研究と同様であるのでさらなる研究に値するだろう。