食品安全情報blog過去記事

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環境汚染物質に関する王立委員会による作物への農薬散布と住人や近傍にいる人の健康に関する特別報告書−政府の対応

The Royal Commission on Environmental Pollution's special report on crop spraying and the health of residents and bystanders - Government response
20 July 2006
http://www.defra.gov.uk/environment/rcep/pdf/rcepcropspray-response.pdf
2005年9月にRCEPが標題報告書を発表した。この報告書で提案されていることについて、政府の対応をまとめた。
この報告書が根拠とした科学的事項については、農薬に関する助言委員会や食品・消費材・環境中化学物質の毒性と発がん性に関する委員会などの独立した専門家委員会が注意深く検討し、バランス良く状況を見極めようとした。専門家委員会とRCEPは同意する部分も見解を異にする部分もあった。特に専門家委員会と王立委員会で見解が分かれたのは緊急度のレベルと健康影響についての調査が必要な部分、および追加に必要とされる予防的措置の全体的レベルについてである。また王立委員会は多数の法律制定を推奨しているが、これらについては「良い法律の基本原則」を達成するというより広い文脈で検討した。政府は立法のみが王立委員会の目的を達成する手段ではないと考える。王立委員会の報告にあるいくつかの問題は農家と住人の相互理解や対話を促進することで解決できるものもある。またEUで検討中の農薬の持続的使用に関する戦略を含む指令が、英国での新しい規制に取って代わられる可能性もある。

以下個別の事項についての対応を列挙している。
一部抜粋して紹介すると
・リスク評価に不確実性があることからより予防的側面の強い措置を求めているのに対して、不確実性への対応にも科学的根拠が必要である、既に充分予防的措置は含まれていると回答している。
・健康問題については、農薬暴露により慢性の疾患が誘発されるという確実な根拠はないが可能性が否定できないので予防的措置を執ることを求めていたが、「可能性が否定できない」ということが緊急な研究や追加の予防的措置が必要な根拠とはならない、と回答している。
・農薬が関与する慢性疾患を研究するためにMRSや遺伝子及び蛋白質プロファイリングなどの新しい臨床指標研究を薦めていたが、これには同意しないと回答している。もし慢性疲労症候群CFSや多種類化学物質感受性MCS患者などにそのような特別な研究が必要だというのなら、農薬だけではなくあらゆる原因となりうる可能性についての研究が必要だと考えるからである。そしてそれは緊急性が低い。またCFSやMCSは診断基準が明確ではなく心理学的問題とも生理学的問題とも言える。CFS/MCSについては毒性に関する委員会がレビューするだろう。
・有害事象サーベイランス強化などは検討する、と回答している。
・住居などと農場との間に緩衝地帯を設けることは根拠がないとしている。
有機農法でも通常農法でも規制は同じにするべき、ということには合意している。
・農薬散布の住人への事前通知に関しては、興味のある住民に情報を伝えることは意味があるとしながらも、全ての住民に文書を配布するといったような要求は経済的に正当化できないとしている。事前通知研究で、情報提供が必ずしも何らかの予防的対応には繋がらないことや実際に情報を求める住民が少ないことなどが示されているからである。


(全体的にRCEPの主張する「可能性が否定できない」から予防的措置として要求した農業をし難くするような政策は却下されている。CFS/MCSは疾患の存在そのものが不明な段階であり、それを根拠に法律を作ったり過大な財政支出を行ったりするのは正当化できないという論調となっている。)