食品安全情報blog過去記事

はてなダイアリーにあった食品安全情報blogを移行したものです

GM飼料を与えられた動物の肉やミルクや卵の中での組換えDNA又は蛋白質の運命に関するEFSAの声明

EFSA statement on the fate of recombinant DNA or proteins in the meat, milk or eggs of animals fed with GM feed
20 July 2007
http://www.efsa.europa.eu/etc/medialib/efsa/science/gmo/statements.Par.0002.File.dat/EFSA_statement_DNA_proteins_gastroint.pdf
画像ファイル
1. 背景
GM食品と飼料については表示の必要があるが、2007年3月15日の文書において、ECからEFSAにGM飼料を与えられた動物由来の食品(肉やミルクや卵)についての表示申請があったことを伝えられた。欧州委員会は卵やミルクへの組換え遺伝子やその産物が移行する可能性について興味をもち、EFSAに文献調査を依頼した。
2. GM飼料中の組換えDNAの運命についての文献調査
今日まで、GM植物を与えられた動物の組織から組換えDNA配列が見つかった例はない。GM植物由来の組換えDNAやそれから作られた蛋白質が動物の組織やミルクや卵に入るかどうかを検討するには、いくつか調査すべきことがある。それらには(1)組換えDNAや蛋白質が飼料の加工の際にどうなるのか、(2)組換えDNAや蛋白質が食べた動物の消化管でどうなるのか、(3)組換えDNAや蛋白質の消化された断片が吸収されるかどうか、(4)吸収されたDNAや蛋白質が生物学的にどのような活性があるのか、等が含まれる。
2.1.組換えDNAや蛋白質が飼料の加工や生牧草貯蔵の間にどうなるのか
GM植物は動物に食べさせる前に異なる処理法により飼料に加工される。DNAの安定性について機械的処理は影響がないが、抽出や溶媒除去などによりDNAは細かく断片化される。サイロに保管されると約200 bpの細かい断片に分解される。
2.2 家畜の消化管での組換えDNAや蛋白質の運命
家畜の消化管での組換えDNAや蛋白質の運命を検討するにはいくつか考慮すべきことがある。
2.2.1. GM飼料中の組換えDNAや蛋白質は食品中の他のDNAや蛋白質と変わらない
基本的に全ての飼料(及び食品)には相当量のDNAや蛋白質が含まれ、消化されてヒトや動物の必須栄養素になる。従ってヒトや動物の消化管は常に食品由来の外来DNA、蛋白質蛋白質断片に曝されている。組換えDNA技術を用いて作物に導入されたDNAも他の食品中DNAと違いはなく、既に食べられている食用生物のDNAと同等であると見なされている。
2.2.2. DNAと蛋白質の消化
植物由来DNAや蛋白質は消化管内における通常の消化過程により植物から放出される。食べたDNAや蛋白質は口の中で咀嚼による物理的行程や消化管酵素による分解や酸加水分解により急速に分解される。DNAは断片やヌクレオチドに、蛋白質ポリペプチドやオリゴペプチドやアミノ酸に分解される。多くの最近のレビューがこのプロセスについて議論している。
2.3. ヒト消化管における組換え植物DNAの残存
この声明は家畜の消化管における組換え植物DNAや蛋白質の運命について扱っているが、ヒト消化管における組換え植物DNAの運命についてのデータもある。この研究では12人の健康な人、及び7人の回腸造瘻術を行った患者にepsp遺伝子を含むGM大豆を食べてもらった。回腸造瘻術患者においては消化効率に個人差があったが最大で3.7%が人工肛門から回収された。健康な人の消化管を通過して生き残った組換え遺伝子はなかった。7人の回腸造瘻術患者のうち3人からはGM大豆から腸内細菌叢への遺伝子の転移は少ないことが示された。著者らはこの実験で腸内細菌叢への遺伝子の転移はおこらなかったと結論している。
2.4. 消化されたDNAや蛋白質断片の動物組織への吸収の可能性
通常の消化におけるDNAや蛋白質の急速な分解は、無傷のDNAや蛋白質が吸収される可能性は少ないことを予想させる。2006年にCASTは「現代のバイオテクノロジー由来作物を与えられた動物由来の肉やミルクや卵の安全性」と題したペーパーを発表している。この報告によれば、組換えDNA技術を用いて作った農作物を与えられた動物の肉・ミルク・卵・リンパ球・血液・臓器から無傷の、又は免疫学的に反応性のある組換え蛋白質及びDNA断片は検出されていない。以下の章で消化管におけるDNAや蛋白質の吸収分野の研究概要を述べる。
齧歯類
精製して経口投与した非組換えオブアルブミンがラットの血漿及びリンパ液から0.007-0.008%の極微量検出された。DNAについては薬理学的に高濃度投与された精製M13ファージDNA(非組換え)がマウスの白血球から検出された。
家畜
通常の条件では反芻動物も胃が一つの動物も、消化された蛋白質は遊離のアミノ酸又は2-及び3-ペプチドとして吸収される。乳牛・成長中のウシ・ブロイラー・ブタでの研究に置いて現在入手で着るGM作物を飼料として与えられた動物の組織から組換え蛋白質は検出されていない。(引用文献)
組換えDNAについては、さらに多くの試験が行われておりCASTがレビューした。 結論として、非常に感度の高いPCRやサザンブロット法が用いられた場合でも肉・ミルク・卵・皮膚・十二指腸組織・白血球・リンパ球・血液・その他組織から組換えDNA断片は検出されなかった。rたったひとつの例外として、組換えcry1a(b)及びcp4epsps遺伝子(それぞれ3500及び1800 bp)の非常に短い断片(106及び146 bp)が通常飼育ミルクから検出された。しかしオーガニックミルクからもこの断片は検出されており、検出されたDNAは糞便又は空気による汚染か、あるいは土壌細菌B. thuringiensisとAgrobacterium sp.の自然観虚から直接由来するものであることが示唆されている。
CASTのレビューでは天然に植物に複数コピーが存在する遺伝子(例えば葉緑体遺伝子)の断片がある種の動物組織に検出されたという報告はあることを注記している。
上述のデータから、消化管から体内にDNA断片や蛋白質断片を取り込むのは動物の正常な生理学的過程であることが明白である。
無傷の組換えDNAが肉やミルクや卵に検出されないという事実は、(1)組換え配列が消化の過程で無傷でいられないこと、(2)GM植物の組換え配列は単一コピー又は極めて少数しかないため吸収されるのは希な事象であるため検出が困難であること、により説明できるだろう。もし、例えば組換えDNAが葉緑体ミトコンドリアDNAに組み込まれて細胞あたりのコピー数が多くなったような場合には変わるかもしれない。しかしながら以下に述べるようにそれは安全上の懸念とはならないであろう。また現在入手できる方法ではGM植物を含む飼料を与えられた動物由来製品を追跡する有効で信頼できる方法はない。
Flachowskyら(2007)は最近の論文では食事中のDNAは消化管でほとんど分解されると結論しているが一部のDNA断片は動物の組織から検出されている。これらの断片は「天然の」植物DNAで、ある種の動物ではみつかり別の動物では見つかっていない。組換えDNAや蛋白質は検出されていない。
2.5. 吸収されたDNAや蛋白質断片の生物学的機能
飼料中に含まれるDNAや蛋白質が消化により断片化されて組織内に吸収された後、機能を持つという仮説は、断片の大きさから考えて極めて疑わしい。さらに吸収された後に機能を示すには以下の項目が考慮されなければならない
・ 外来DNAや蛋白質は内因性制限酵素蛋白質分解酵素で分解される。これらの酵素は外来DNAや蛋白質を破壊するために進化してきた自然防御システムの一部である。
・ 組換えDNAが機能を持つためには発現のためのゲノムへの組み込みが必須である。植物や細菌遺伝子から動物ゲノムへのそのような水平遺伝子伝達は極めておこりにくい。なぜならゲノムへの遺伝子組み込みの基本メカニズムは相同組換えだからである。
・ さらに組み込まれた遺伝子が機能を発揮するには吸収されたDNAが転写活性領域に組み込まれなければならない。独自の発現系を持たない場合、組み込まれたDNAにはプロモーターや転写部位やリボソーム結合部位がなければならない。
・ 現時点で、動物が食べた植物に由来する植物蛋白質が動物で発現しているという証拠はない。さらに植物遺伝子が人やその他の動物のゲノムから検出されたことはない。
・ 複数コピーの植物DNAがある種の動物の組織で検出されたと上述したが、葉緑体DNAやトウモロコシ遺伝子が野生のトリのゲノムにみつかったことはない。
・ マウスに8代にわたって大量の組換えDNAを食べさせたが、マウスで遺伝子が発現したとか生殖系統に組み込まれたとかいうことはない。
結論
(1)食品や飼料中には生物学的に活性のある遺伝子や蛋白質が様々な量で普通に含まれる。食べると、ヒトや動物の消化管内では短いDNA断片やペプチド断片に速やかに分解される。
(2)今日まで、多数の家畜での実験で、GM植物に由来する組換えDNA断片や蛋白質が組織や体液や可食部から検出されたことはない。