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1,3-ブタジエン、エチレンオキシド、塩化ビニル、フッ化ビニル、臭化ビニルの発ガン性

IARCモノグラフワーキンググループからの報告
Lancet Oncology 2007; 8:679-680
DOI:10.1016/S1470-2045(07)70235-8
Yann Grosse et al.,
Carcinogenicity of 1,3-butadiene, ethylene oxide, vinyl chloride, vinyl fluoride, and vinyl bromide
http://download.thelancet.com/pdfs/journals/1470-2045/PIIS1470204507702358.pdf
2007年6月に表題物質の発ガン性について再評価を行った。
1,3-ブタジエンは主に合成ゴムやポリマーの製造に使用される。カナダ・米国・西洋ヨーロッパにおける作業環境中濃度は一般的に2 mg/m3以下であるが、古い技術を使っている国ではこれより高いかもしれない。一部の労働環境では短時間の高濃度暴露(〜200 mg/m3)がまだある。またブタジエンは燃焼副産物であり低濃度では環境中にどこにでも存在する。
マウスの吸入試験ではリンパ腫や肺・肝・腎・心・前胃・ハーダー腺・包皮腺・卵巣・乳腺の新生物増加が示されている。ラットでも同様の試験で膵・甲状腺・ジンバル腺・精巣・子宮・乳腺腫瘍の発生頻度増加が示されている。
スチレン-ブタジエンゴム産業における疫学研究では、米国とカナダの8工場の約17000人の労働者の死亡率を調査している。最も高濃度に暴露された労働者群で、特に1950年代以前に雇われて10年以上の長期間働いていた場合に、慢性リンパ球性及び骨髄性白血病による死亡率の増加リスクが認められた。さらにブタジエンモノマー製造業労働者における研究では非ホジキンリンパ腫との関連が見られている。メカニズムに関するデータからは、ブタジエンがエポキシドに代謝されてDNAとの付加体を形成しリンパ球の小核や染色体異常を誘発することが示唆されている。従ってワーキンググループは1,3-ブタジエンはヒトに対して白血病リスク増加の「十分な根拠がある」として「ヒト発ガン物質(グループ1)」と分類した。
エチレンオキシドは化学物質の製造原料であるが、ほとんどのヒト暴露は医療器具の滅菌による。西部ヨーロッパや北米での病院や製造工場での濃度は低下しており現在2 mg/m3以下である。
マウスの吸入試験では肺胞及び細気管支腫瘍、ハーダー腺腫瘍、悪性リンパ腫、子宮腺ガン、乳ガンの発症頻度増加が見られた。雌雄ラットでの吸入試験では単核球細胞白血病、脳腫瘍、精巣の腹腔中皮腫、皮下線維腫の増加がみられた。
鍵となる疫学研究は米国で滅菌用にエチレンオキシドを使っていた14の工場での18000人の労働者を対象にしたもので、他の化学物質暴露による交絡の可能性が低いという利点がある。非ホジキンリンパ腫や多発性骨髄腫による全体の死亡率に増加は見られなかったが、内容解析の結果蓄積暴露量と男性のリンパ球系の腫瘍(非ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫、慢性リンパ球性白血病)との関連がみられた。しかしながら他のコホート研究の結果からは、弱い関連はしばしば報告されているものの、エチレンオキシド暴露とこれら腫瘍のリスク増加との一貫した結果は得られていない。乳ガンについては一貫した結果は報告されていないが7500人の女性を対象とした研究の内部分析でエチレンオキシド暴露量に相関する乳ガン頻度の増加が報告されている。
疫学研究による根拠は「限られている」が、ワーキンググループはエチレンオキシドを、直接DNAと結合するアルキル化剤であること、ヒトや齧歯類で用量依存的にヘモグロビン付加体を増加させること、全ての系統発生レベルで変異原性物質であり染色体異常誘発性があること、齧歯類生殖細胞に遺伝性の転座を誘発すること、労働者のリンパ球に姉妹染色分体交換・染色体異常・小核形成頻度増加を誘発することから「ヒト発ガン物質(グループ1)」と分類した。塩化ビニルへの労働者暴露は西部ヨーロッパや北米では低下しており、1970年代にヒト発ガン性物質とされたための規制の結果1 mg/m3以下である。しかしながら世界中の塩化ビニル暴露される労働者の数は、主に規制の緩い国において増加している。
塩化ビニルは吸入すると、多くの場所で血管肉腫を、マウス・ラット・ハムスターでは乳腺腫瘍を、ラットでは肝細胞ガンを誘発する。ラットへの経口投与では肝血管肉腫と肝細胞ガンが見られている。動物実験からは生後早い時期に感受性が高いことが示唆されている。ラットの周産期暴露では子どもに血管肉腫や肝細胞ガンが高頻度に起こるが、同じだけ暴露させた親にはおこらない。特に4週齢以下の動物で塩化ビニル誘発性DNA付加体の形成と持続性の感受性が高い。
塩化ビニル、ポリ塩化ビニル又は塩化ビニル製品を製造している工場での二つの大規模コホート研究で暴露された労働者に、累積暴露量又は暴露期間の増加により大きくなる肝血管肉腫の相対リスク増加が認められている。組織学的に肝細胞ガンと確認された患者についての内部分析からは、このガンのリスクは累積暴露量の増加により増加することが示された。もう一つのコホート研究でも同様の結果になっている。塩化ビニルが肝細胞ガンのリスク因子である肝硬変リスクを増加させるという知見と併せて、塩化ビニルがヒトに置いて肝血管肉腫と肝細胞ガンリスクを増加させるという「十分な根拠があり」、「ヒト発ガン物質(グループ1)」と分類した。一部に肺ガンや結合組織や軟組織での悪性新生物リスク増加の根拠がある。
フッ化ビニルと臭化ビニルは主にそれぞれのポリマー合成に使用される気体である。これらの物質は塩化ビニルと類似の反応性を示すことから、「ヒトに対しておそらく発ガン性がある(グループ2A)」と分類した。実際にはこれらの物質はヒト発ガン物質である塩化ビニルと同じ作用があるとみなすべきであることを強調しておく。