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今週の書評:食べ物のためなら死んでもいい?

Review of the Week
Food to die for?
Benjamin Caballero
BMJ 2008;336:723 (29 March), doi:10.1136/bmj.39517.639560.34
http://www.bmj.com/cgi/content/full/336/7646/723
おばあさんの時代に食べていた加工していない食べ物に回帰すれば肥満問題は解決する、などという主張はあまりにも認識が甘い。
Michael Pollan のIn Defence of Foodの書評
一般の人々が食事や健康に関するたくさんの助言に苛立ちを深めているのは間違いない。つまり新しい研究結果は物事を明快にするどころかこれまでの「証拠」と矛盾して混乱を増すだけである。例えば、これまでバターには不飽和脂肪が多いので避けて植物油を使うように言われてきたが、その後植物油に飽和脂肪同様悪いトランス脂肪が含まれていることがわかった。科学者は混乱の原因は、「ホット」な研究成果をその質や文脈を無視して伝えるメディアだと避難している。一方メディアは科学者を、一部のジャーナリストは彼らを「栄養主義」と呼ぶ−食物を単なる化学物質の塊にしてしまったと非難する。こうした状況からPollanが「反栄養主義」の立場から「本当の」食品を守ろうと感じたのである。
しかしPollanは行きすぎた。彼は科学者と食品企業が、「悪い食品」を食べさせる目的で「本当の食品」を避けさせようとしているという陰謀論を作り上げてしまった。しかし陰謀など必要ない。企業は売り上げを伸ばすために消費者にとって明確な利益のない製品に宣伝文句として怪しげな「科学的根拠」を利用しているだけである。
Pollanは食べ物のことが気になればなるほど道を外れるので、昔の「ピュアでナチュラル」な食べものに回帰すべきだと信じている。彼は「あなたの偉大なるおばあさんが認めないだろうものは全て食べるな」と主張している。しかしこれは無意味なアドバイスである。栄養学は遺伝学や核物理学やその他の科学一般と同様、発見を隠して単純だった過去を夢見るためのものではなく、新しい知識を我々の生活をより良くするために使うためのものである。Pollanは、食に関連する問題を解決する唯一の方法は、新しい知見を無視してこれまで一度も存在したことのない食の桃源郷に帰ることだと信じている。彼が孫と一緒にスーパーマーケットに行ってくれる健康で長生きのおばあちゃんを持ててラッキーだったのだろうが、実際には我々の偉大なおばあさんたちは我々より15年寿命が短く、我々の平均寿命が長いのは栄養学も含めた科学のおかげである。栄養学の進歩は我々の食糧の質の向上や安定供給に役立っている。Pollanは食事内容に変化がないことが質の証明だと反対のことを信じている。伝統的な食生活で健康に悪いものはたくさんあるし、残念ながらおばあさんの助言はしばしば間違っている。