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害虫がGM綿の毒素を克服できる

ネイチャーニュース
Pests could overcome GM cotton toxins
6 July 2009
Heidi Ledford
http://www.nature.com/news/2009/090706/full/news.2009.629.html
芋虫は組換え作物の鎧に抜け穴を発見
実験室での研究が、昆虫が遺伝子組換え綿の作る二種の異なる毒素を克服する可能性があることを示した。
昆虫は個々の殺虫剤に対して細菌が抗生物質耐性を獲得するように耐性を獲得できる。この脅威を減らすための方法の一つは同じ昆虫を標的とした複数の毒素を産生する作物を作る「ピラミッド」アプローチである。これは現在ほとんど全ての企業が採用していて、耐性獲得を遅らせるために二つ以上の遺伝子を組み合わせて導入している。例えば来年モンサントは除草剤と昆虫への耐性を作る8つの異なる遺伝子を含む組換えトウモロコシ系統を発売する予定である。
最も多く市販されているピラミッド戦略をとった遺伝子組換え綿はBacillus thuringensisが天然に産生する二つの異なるBt毒素を作るものである。この二つの毒素Cry1Ac と Cry2Abはアミノ酸配列が大きく異なり異なる標的と結合する。そのため二つの毒素両方に耐性をもつ変異はできにくいと考えられた。しかしアリゾナ大学の昆虫学者Bruce TabashnikらはCry2Ab耐性昆虫の選択的交配でその一部がCry1Acにも耐性をもつことを発見し、PNASに発表した。
彼らが研究に使ったのはワタアカミムシガの幼虫Pectinophora gossypiellaで、昆虫の耐性獲得メカニズム解明のために毒素を含む餌を与えて多様な系統を作っていた。驚いたことにある系統はCry2Abに対しては通常の240倍、Cry1Acに対して420倍の耐性を示した。この二つの毒素は結合部位は異なるものの、昆虫の同じ経路で活性化される。交差耐性の原因は毒素活性化に必要なプロテアーゼの変化である可能性がある。但し現時点ではこれが現行のBt綿の脅威とはならない。彼らの耐性昆虫は通常よりCry2Abに耐性があっても遺伝子組換え綿の綿の花にある濃度のCry2Abでは生存できないからである。実験室での結果を野外に当てはめるには注意が必要である。しかしながらこの結果は、昆虫の進化は止められず、ピラミッド戦略は万能薬ではないことを改めて示した。
Tabashnik, B. E. et al.
Proc. Natl Acad. Sci. USA advance online publication
doi:10.1073/pnas.0901351106 (2009).
オープンアクセス
http://www.pnas.org/content/early/2009/07/02/0901351106.full.pdf+html