食品安全情報blog過去記事

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長官のコラム:ヘンなものに立ち向かう

CE’s column: Tackling the weird and wacky
9 July 2009
http://www.nzfsa.govt.nz/publications/ce-column/ce-column-6.htm
メディアの一部や一般の人々の科学リテラシーを向上させる必要があるという私のテーマの続きとして、興味深いウェブサイトを紹介しよう。NZFSAはこのサイトに関係ないし内容を保証するものではない、私がいろいろと示唆に富むと思っただけである。
STATS (www.stats.org)は米国のGeorge Mason大学が連携している非営利無党派研究組織である。STATSは人々に「ニュースの背景にある数について考えて欲しい」と言っている。それはまさに私がニュージーランドの新しい科学アドバイザーに望んでいることで、報道について科学の光をあて、ジャーナリストや一般の人々にメディア報道の背景にあるデータを解析するための情報と教育を提供することである。ニュージーランドのサイエンスメディアセンター (www.sciencemediacentre.co.nz)ではまだ深さで及ばないものの同様のことをしている。
STATSはプラスチックボトルや缶の内側に使用されているビスフェノールAが何百万人もの赤ちゃんを危険にさらしているという報道のような、メディアの科学神話との困難な闘いから撤退しないだろう。
STATS blog (http://thestatsblog.wordpress.com/)ではニュースの見出しになったいくつかの奇妙な「科学」に立ち向かっている。例えば家庭での、あるいは未就学児のコンピューター関連事故が732%増加しているとか、仕事でエレベーターを使っていると乳がん患者が多いとか。
さらに英国の医師でライターのBen Goldacreが彼のブログや著書「Bad Science」で指摘しているように、科学的問題を巡るメディアで受け入れられている迷信−例えば「プラスチックは有害」のような−に意義を唱えるような研究は、主要メディアではほとんど又は全く報道されないことも明らかにしている。
我々の最も重要な発行物Food Focusの6月号で、我々は毒性学者がどのように化学物質のリスクを評価しているのかを説明した。NZFSAの毒性学者John Reeve は、消費者の食品についてのリスク認知は、規制担当者の用いる客観的科学に基づいた手続きによって同定され評価されるリスクとはしばしば違うことを指摘している。
彼は、消費者は食品の安全性について、白黒以外の方法で見ることが困難であると指摘している。このことが明確なメッセージを伝えることを困難にしている。科学者や規制担当者は残留化学物質などのハザードが、全く存在しないか又は許容できる限度以内であればその食品は食べても大丈夫だと考える。
メディアはしばしば食品中の化学物質を含む化学物質の規制を担当する政府機関によるリスク評価アプローチを批判する。人工化学物質の影響が広く強調されているため、STATSは専門家集団である毒性学会会員に調査を行った。そのような人工物が危険という懸念は専門家には支持されているのかどうかを調べたかった。
この調査結果について、STATSの代表Robert Lichter博士(George Masonのコミュニケーション教授)は、ほとんどの毒性学者は、食品添加物を健康リスクとはならないとみなしていると述べている。
「彼らは全体として、有害な化学物質がどんなに微量でも危険であるという意見やバイオモニタリングである化学物質が検出されたというだけでリスクがあることを示唆するという意見は否定した。そしてオーガニックやナチュラル製品がそうでない製品より安全であるという意見についてはほぼ全員が否定した。」
調査した毒性学者の多くは化学物質の規制を担当している政府機関のアプローチは信頼していた。
「ある物質に有害性が疑われる場合は、科学的合意が無くてもその物質の使用は禁止されるべきだという予防原則に従って規制すべきであると信じている人は4人に1人より少なかった。同様に、米国の規制システムが予防原則が法的力を持つヨーロッパより劣っていると信じている人は4人に1人より少なかった。」
Lichter博士は、調査した毒性学者の多くがメディアや規制担当者が一般向けに化学物質リスクの説明をバランス良く行っていないと批判しているが、ほとんどの政府機関や専門家団体は化学物質のリスクをほぼ正確に描写していると評価している、とも言っている。そして反対にメディアのニュースはリスクを誇張していて、環境団体はさらに大袈裟である。
良い研究と悪い研究の区別、因果関係と相関関係の区別、リスクとベネフィットのトレードオフの説明、相対リスクと絶対リスクの区別、オッズ比の説明、そして「毒性は量による」ことの説明、という毒性学の基本について項目で、少なくとも95%がメディアを「落第」と評価している。
これはおもしろい調査で、全文は以下から読める。
http://stats.org/stories/2009/are_chemicals_killing_us.html

  • 注 

732%増加 
1994-2006年にコンピュータ関連機器による打撲などの怪我が732%増えたという報告。単純にコンピュータのある家庭が増えただけだろうと思われるのに、Timesは「コンピューターが安くなって教育レベルの低い怪我しやすい人が使うようになったから事故が増えた」と書いている。


BPA
本文は紹介済み
http://d.hatena.ne.jp/uneyama/20090618#p12
その後質疑応答が追加された
STATS responds to queries from the Milwaukee Journal Sentinel
http://www.stats.org/stories/2009/stats_responds_mjs_7_7_09.html
新聞からの質問は、企業からお金をもらっているから批判しているということにしたいという意図がありあり。


Ben Goldacre
これまでFSAの記事やBMJなどで何度か取り上げている
http://d.hatena.ne.jp/uneyama/20090430#p23
http://d.hatena.ne.jp/uneyama/20081222#p14
http://d.hatena.ne.jp/uneyama/20081009#p15
http://d.hatena.ne.jp/uneyama/20081001#p12
http://d.hatena.ne.jp/uneyama/20080311#p10
http://d.hatena.ne.jp/uneyama/20071206#p10