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Natureニュース

チェルノブイリの遺産
Chernobyl's legacy
Published online 28 March 2011 | Nature 471, 562-565 (2011)
http://www.nature.com/news/2011/110328/full/471562a.html
核災害後25年、クリーンアップは継続し健康研究はおぼつかない。これらは日本にとって教訓となるか?
(いろいろ略して抜粋)
Slavutych発の列車は普通の通勤列車のようにカードで遊んだりネットを見たりしている人がたくさん乗っている。ただし終点の改札口には放射線モニターが並んでいる。地球の反対側でおこっている福島第一原子力発電所の事故が話題になる。「事態は悪いようだがチェルノブイリほどではない」とある通勤者が言う。
1986年4月26日にチェルノブイリの第4原子炉が爆発したとき、炎は6.7トンの物質を大気圏まで高く噴き上げて放射性同位体を20万平方キロメートル以上まき散らした。緊急作業にあたった労働者数十人が放射線暴露によって数ヶ月以内に死亡し数千人の子ども達が後に甲状腺がんを発症した。発電所の周囲30kmは封鎖された。今は約3500人のスタッフが毎日この場所の監視やクリーンアップのためにこの範囲に入っていて、回復作業はあと50年は続くだろう。
これまでのところ福島の事故はこれほどひどくない。発電所近くの放射能レベルはチェルノブイリより低く福島に放射能汚染が広がってはいるもののチェルノブイリ近傍に硬化した量とは違う。そのような違いはあるが、チェルノブイリの惨劇後の四半世紀の作業は日本に、福島の健康と環境影響を評価するにあたっていくつかの重要な教訓を提供するだろう。チェルノブイリ後の問題は正確な情報の大切さについて再確認させるだろう。当局は人々に最初の最も危険な暴露を回避するための方法を伝える必要がある。そして長期に渡って科学者や政府は、しばしば放射線そのものよりも有害な、低線量放射線暴露による不必要な心配と戦わなければならない。
ある意味この二つの事故の関連はチェルノブイリにとって最も利益をもたらすかもしれない。しばらくの間、世界はこれまでほとんど無視されてきた仕事に注目するだろう。新たな関心がこの場所のクリーンアップと健康研究に必要な資金の提供につながるかもしれない。この事故を研究してきた英国のポーツマス大学の放射線生態学者Jim Smithは、最近チェルノブイリは資金提供団体や科学者コミュニティからずっと無視されてきた、と述べている。しかしまだチェルノブイリから学べることはある。
1986年にできたチェルノブイリのコンクリートの石棺は今やぼろぼろになっている。石棺の正面に線量計をかざすと5 microSv/hで、約10分で腕のX線撮影と同程度の用量である。現在の最優先課題は石棺が壊れる前に新しい封じ込めシェルターを作ることである。
(水の汚染部分省略)
発電所から3キロに見捨てられた町Pripyatがある。約44000人の住人が事故の翌日に避難した。Antropovは当時数ヶ月の娘とここに住んでいて発電所の技術者として避難の責任者だった。Pripyatからの避難者は、逃げる前に暴露された放射線への恐怖とともに生活している。周辺地域の数百万人の人々と同様、彼らはあらゆる病気の徴候を事故と結びつける。しかしチェルノブイリの真の公衆衛生への影響は驚くほど違うことが証明されている。
チェルノブイリの事故対応にあたった労働者たちの恐ろしい運命については意見の違いはない。134人の緊急労働者のうち28人は放射線暴露のために4ヶ月以内に死亡した。その後19人がいろいろな理由で死亡し、多くの生存者は現在白内障と皮膚傷害がある。
事故当時旧ソ連の汚染地域に住んでいた子ども達に5000例以上の甲状腺がんが観察されていて、通常の10倍以上である(成人はほとんど影響なかった)。ほとんどの症例は放射性ヨウ素汚染のあるミルクを飲んだためである。そのうち死亡したのは20人より少ないが、その数と5年以内の急増は多くの疫学者を驚かせた。このことにより甲状腺研究が多数行われ、そのうち最も注目すべきものがウクライナベラルーシの1986年に子どもだった25000人を追跡した長期コホート研究である。最新の結果はこれまでの知見を確認するもので、甲状腺がんの頻度は線量に比例し、最もリスクが高いのは食生活が貧しくてヨウ素欠乏でより若年だった子ども達であった。この研究は日本に直接影響する。日本では甲状腺への放射性ヨウ素取り込みを予防するため暴露リスクのある人にはヨウ化カリウム錠剤が与えられるだろう。NCIは事故後しばらくしてからクリーンアップや監視のために避難地域に送られた50万人以上の人々のコホートも観察している。彼らは白内障リスクがごく僅か上昇し、僅かな白血病リスク増加があるかもしれない(possibly、可能性としては低い)。
より広範囲の人への影響は?ヨーロッパ全域へのチェルノブイリの影響についてはいろいろな研究で推定を試みているが、その結果は2~3千人から数十万人まで様々である。ヨーロッパの全ての死亡の1/4ががんであり、チェルノブイリの影響を解きほぐすのは不可能であろう。さらにこのような漠然とした数字に注目することはこの事故によるより大きな社会的影響から目をそらすことになる。ウクライナベラルーシでは放射線への消えない恐怖が希望の喪失をもたらし喫煙と飲酒を増加させ、そのほうがより大きな健康影響を与えた。一部の人は自分の運命は放射線により決まってしまったと考えた。一部の研究ではチェルノブイリにより乳がんや心血管系疾患のわずかな増加を報告しているが、それらは交絡因子を適切に処理していない。さらに子ども達の遺伝子に突然変異が増えているとする報告もあるが、より高線量暴露された日本の原子爆弾生存者にそのような知見はない。
チェルノブイリの長期健康影響については統一した研究が必要である。しかし問題は最近の経済危機で財政支援が期待できないことにある。またコホート参加者を集めるのも難しい。医学検査は時間がかかり何一つ問題を発見しない。
チェルノブイリ健康研究が福島事故の関係者に役立つかどうかはわからないが、すでに世界に教訓は与えている。核事故の間と同様その後の明確なコミュニケーションが重要だということである。
日本政府はソビエトより迅速に住民を避難させ汚染された食品は販売禁止にしている。
放射能の影響より心理的なものによる社会的影響が深刻って言ってるけど、でも事故後永遠に住めなくなるとか言われてしまったソ連の場合と違って、日本人は原爆後の広島・長崎で比較的早くから元気に暮らしているし広島産・長崎産の特産物も美味しく頂いているから大丈夫かも? 放射能汚染があったら永遠に住めないなんて嘘だってことを世界で一番よく知っているのは日本人なのでは。)

  • 健康:長い、勤勉な人生

Health: A long, diligent life
Nature Volume:471,Pages:443–444 Date published:(24 March 2011)
http://www.nature.com/nature/journal/v471/n7339/full/471443a.html
本の紹介
The Longevity Project: Surprising Discoveries for Health and Long Life from the Landmark Eight-Decade Study
Howard S. Friedman and Leslie R. Martin Hudson Street Press/Hay House: 2011. 272 pp. $25.95/£10.99
90年コホート研究でパーソナリティが寿命に与える予想外の影響を示唆する
1921年に11才の子ども1500人ほどをフォローした長寿研究の紹介。例えば喫煙が短命につながるなど予想通りの結果も得られているが、長時間一生懸命働いて出世することの方が、楽で野心のない仕事をするより健康で長生きする、などの結果も得られている。結婚は女性より男性にとって幸いで、離婚は男性にとってより有害影響が大きい。女性のほうが良く参加しているソーシャルネットワークが人生における有害イベントの影響を緩和する。さらに健康のために脂肪を食べる量を減らすというような細かい注意はあまり有用ではなく人生全体へのアプローチが必要。健康長寿を最も良く予測するのは根気強さ。この研究の注意点としては、もともとの目的は職業上の成功を決めるのは何かを調べるためだったことと、1910年に生まれた人達と今の人達では生活様式が違うこと。