食品安全情報blog過去記事

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論文等

  • 福島からヨーロッパに届いた放射性物質はほんの少ししかない

C & EN
Little Radioactive Material From Fukushima Reached Europe
August 15, 2011
http://pubs.acs.org/cen/news/89/i34/8934scene.html
ボランティアのモニタリングネットワークが日本からヨーロッパに到達した放射性同位体の濃度を報告した
Environ. Sci. Technol., DOI: 10.1021/es2017158
TRACKING OF AIRBORNE RADIONUCLIDES FROM THE DAMAGED FUKUSHIMA DAIICHI NUCLEAR REACTORS BY EUROPEAN NETWORKS
http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/es2017158
非公式のボランティアネットワークを作った大学や政府機関がヨーロッパ25か国の約150のモニタリングステーションのデータを集めた。特に注目したのは甲状腺がんを誘発する放射性ヨウ素で、131Iは半減期は短いものの気体だと遠くまで運ばれる。
科学者らはヨウ素と他の同位体との比を測定し放射性物質の飛来源を確認した。結果は日本で報告されたものと一致し、検出されたものが福島由来であることを確認した。ヨーロッパのモニタリングステーションでの131Iの最大濃度は4 mBq/m3だった。ヨーロッパでの131Iのバックグラウンド濃度は通常無視できる。
検出された全てのヨウ素濃度は1986年のチェルノブイリ事故後にヨーロッパで検出されたレベルの1000から10000分の一で、健康リスクはないと結論した。

  • 福島からの放射性硫黄についての専門家の反応

SMC
Experts on radioactive sulphur from Fukushima
August 16th, 2011.
http://www.sciencemediacentre.co.nz/2011/08/16/experts-on-radioactive-sulphur-from-fukushima/
PNASが福島の原子力発電所由来の放射性硫黄をカリフォルニアで検出したという論文を発表した。
カリフォルニアのラ・ホーヤで測定をしていた科学者らが福島の原子力発電所から漏れた中性子が放射性硫黄を作り、それが強い西風に乗ってカリフォルニア南部に運ばれたことを発見した。著者らは、二酸化硫黄が硫酸イオンに速やかに酸化される太平洋の海洋境界層の放射性硫酸イオンの1%近くがプルームとしてカリフォルニアに運ばれたと推定している。PNASの共著者は以下のようにコメントしている:
「観察された放射性硫黄の濃度はヒト健康に有害影響を及ぼしそうにないものであるが、この知見は硫黄同位体が大気中化学物質の変化と長距離運搬の指標として有用であることを示した。」
この研究についてSMC英国とカナダが科学者の意見を集めた。自由に引用していい。
英国SMCより
マンチェスター大学放射化学教授Francis Livens
この研究の著者らが使っている用語「中性子漏出‘neutron leakage’」は一般読者に誤解される可能性がある。検出されたS-35は、アルファ粒子の自発的核分裂と核吸収由来の中性子により(原子炉の緊急冷却水として使われた)海水で生じた可能性が高い。この程度の中性子を生じるには、通常の原子炉内でのエネルギー源である持続する核分裂連鎖反応は必ずしも必要ない。この論文は有用なトレーサー実験であるが、S-35レベルは低く、放射線としては意味がない。
ポーツマス大学環境物理学教授Jim Smith
米国で検出されたS-35の量は僅かでヒト健康には影響ない。福島においてすらこの論文で予想される大気中濃度は1r立方メートルあたりS-35約18 mBqでしかなく、より重要な放射性セシウムや放射性ヨウ素の大気中濃度の数千分の一である。
サリー大学核物理学教授Paddy Regan
この論文は、緊急シャットダウン後の福島の原子炉のコアで生じた中性子(最も可能性が高いのは分裂フラグメント由来ベータ遅延中性子と自然分裂)が、ポンプが壊れたため水の代わりに炉を冷却するのに使われた海水中にある特定の物質(天然同位体である塩素-35)と相互作用したことを示す興味深いものである。この結果放射性硫黄35Sができた。この放射性同位体は天然に大気中で宇宙線により常にできていることを注記する必要があるだろう。この物質は約3ヶ月未満と比較的半減期が短いため、増加の原因を同定し推定できる有用なトレーサーである。
福島での大気中放出の数日後にカリフォルニアで35Sの量が増加したということから太平洋を横断する気流や速さがわかる。科学的には面白いものであるが、福島からカリフォルニアに放射線の健康恐怖があると読むべきではない。濃度は確かに増加したが、この手の放射線の全体的レベルは天然のバックグラウンドに比べると僅かで、健康リスクはない。さらにデータは、増加した35Sの濃度は(予想通り)数日でバックグラウンドレベルに低下していることを示している。
核環境コンサルタントSteve Jones教授
コアを冷却するために使用された海水がS-35を作るのに十分な中性子に曝され、他の放射性核種と同様に環境中に放出されたのだろう。中性子は「コアから漏れ出た」のではない、中性子は燃料から出るガンマ線ベータ線アルファ線と一緒にいつでも存在する(もちろんだからコアが遮蔽されている)。海水中にある安定元素に中性子があたったことで他の放射性同位体も生じているだろうが、ほとんどは半減期が短いために検出可能ではない。
カナダSMCの集めたコメント
オンタリオ工科大学健康物理学環境安全性NSERC/UNENE産業研究教授Anthony Waker
この論文は重要か?
大気モデルの観点からはとても重要である。これは突然実施可能になった実験であり、だから行った。海洋研究所は硫酸エアロゾルが大気と海洋の相互作用を調べるのには有用なトレーサーなのでいつでも硫黄を調べている。突然福島で事故があってそれが放出されたため、モデルをチェックするのに使える滅多にない出来事だったので、測定しモデルを使った。注意すべきことは放射線学的視点の研究ではないということである。彼らが言っているのは硫酸が大気との境界層とどう反応するかについてであって、放射線学的評価をしているわけではない。
この数値から生物学的影響は考えられるか?
いくつか計算してみた。放射線学的には彼らは大気中の硫黄原子の数を導き出して推定している。それによるとS35の半減期から、カリフォルニアではS35の1立方メートルあたりの活性から、1立方メートルあたり0.00126ベクレルという数値になった。カナダの原子力安全委員会のS35安全性データシートによると線量限度は20ミリシーベルトである。これはS35が2億ベクレルに相当する。ただし一般人の線量限度は1年あたり1ミリシーベルトで1/20なので1000万ベクレルになる。カリフォルニアの大気中濃度と呼吸量1分あたり0.02 m3から、1分あたり2.52 x 10-5ベクレルとなる。これで(1mSvになるには)大体70万年かかる。

論文
Evidence of neutron leakage at the Fukushima nuclear plant from measurements of radioactive 35S in California
Antra Priyadarshi et al.,
http://www.pnas.org/content/early/2011/08/11/1109449108.abstract
(確かにタイトルが誤解を招きそう)

  • 福島反応炉のダメージがカリフォルニアの風で捕らえられる

ScienceNOW
Fukushima Reactor Damage Picked Up in California Winds
15 August 2011
http://news.sciencemag.org/sciencenow/2011/08/fukushima-reactor-damage-picked-.html?ref=hp
不確実性が大きいという指摘も

Natureニュース
Chemicals track Fukushima meltdown
15 August 2011
http://www.nature.com/news/2011/110815/full/news.2011.482.html
UCSDの化学者Mark Thiemensはここ数年間宇宙線が大気中のアルゴンを照射して作る大気中の35S濃度を測定していた。3月28日にバックグラウンド濃度より高い35SO2 と35SO4-2を測定した。彼らはこれが海水中の塩素からできたと考え、モデルを作成した。

  • 医薬品廃棄物が魚を傷つける

Drug waste harms fish
15 August 2011
http://www.nature.com/news/2011/110815/full/476265a.html
使わない避妊薬を廃棄する消費者が魚に影響を与えていると長いこと批判されてきた。患者から排出される薬物も下水処理を経ても川を汚染する可能性がある。しかし医薬品向上の排水もまた川の汚染源である。