食品安全情報blog過去記事

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企業グループが雑誌に発表を遅らせるよう「脅迫」

Industry group “threatens” journals to delay publications
(IARCがLancet Oncologyの記事を紹介)
http://download.thelancet.com/flatcontentassets/pdfs/S1470204512700943.pdf
Lancetを含むいくつかの雑誌に 、企業が出資している団体Mining Awareness Resource Group (MARG)から、米国政府によるディーゼル排気ガスと肺がんの研究に関する論文の「発表と配布」に反対する警告文書が送付された。ロビイスト Henry Chajetの署名があるこの文書は雑誌に対して裁判と議会での問題が解決するまでこの研究を知らせないよう繰り返している。もし発表すれば雑誌には何らかの “影響consequences”があるだろうと警告している。Occupational and Environmental Medicineの編集者Dana Loomisは「私はこのようなものは今まで見たことがない」と述べている。
NCIとNIOSHは共同で1150万ドルをかけた炭鉱労働者のディーゼル排気(DEMS)研究を1992年から行っている。この研究は12000人以上のディーゼル排気に曝露された地下炭鉱労働者の肺がんリスクを、タバコなどの交絡因子をコントロールして調べているものである。MARGはこれまで何度もDEMSの研究者にデータを見せて論文を発表する前に90日間レビューさせろという裁判をおこし議会に圧力をかけていた。2011年8月にNCIとNIOSHはMARGによる「意味のある科学的レビューにはデータが必要」という主張により法定侮辱罪の判決を受け、司法省が控訴し早ければ今年3月に判決が出る予定である。この研究からは3つの論文がOccupational and Environmental MedicineとJNCIに受理されているが著者らが判決が出るまで待って欲しいと要求したため発表は延期されている。
IARCのモノグラフは6月にディーゼル排気の発がん性について再評価を予定している。1989年の評価では「おそらくヒト発がん性がある」となっている。統計学的にもしっかりしたDEMSの知見はこの評価を変える可能性があるが、IARCは発表されたデータしか考慮しない。DEMS研究のデータは何一つ発表されていない。NTPも今年ディーゼル排気粒子状物質を発がん物質報告書評価対象にしている。
MARGの雑誌への手紙が孤立事例でないとしたら、科学文献の信頼性に関わる。