食品安全情報blog過去記事

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論文等

  • リスク認知:それは個人的なもの

Risk Perception: It’s Personal
Valerie J. Brown(ジャーナリスト)
Environ Health Perspect; DOI:10.1289/ehp.122-A276
http://ehp.niehs.nih.gov/122-a276/
(抜粋)
リスク認知は極めて個人的な意思決定プロセスで、多くの要因の中でも個人の人生のなかで形成されてきた枠組みに基づく。過去数十年の研究から、健康と安全に関する意思決定において、我々は必ずしも最も差し迫った脅威について心配するわけではないことが明確になっている。リスクコンサルタントのDavid Ropeikはこれを「リスク認知のギャップ」と呼んでいる。
表面的にはこのリスク認知のギャップは無知によるように見える。しかしRopeikやオレゴン大学の心理学者Paul Slovicなどはこれは我々に生まれつき備わっている脅威を速やかに判断する能力の自然な発露であると言う。人々が感情的だから不合理だというのは正しくない、とSlovicは言う。
リスクについて考える
Ropeikは専門家と一般の人々のリスクについての考え方の違いがしばしばそれ自体リスクを作り出すと信じている。リスク評価を行う科学者にとっては、リスクの定義は「ハザード×暴露=帰結」であるが、平均的な人のリスクの定義は「何か悪いことがおきる可能性」である。そしてリスクコミュニケーションは通常「何か悪いこと」の主観性については考慮しない。
規制あるいは研究に置いて、リスク評価は通常ハザード同定、ハザードキャラクタリゼーション、暴露評価、リスクキャラクタリゼーションの4段階からなる。この過程にリスクの定性や定量、不確実性評価などが組み込まれる。目的は、入手できる最良の根拠に基づき最も合理的な解析を根拠にした意思決定である。環境健康科学者は系統的レビューの原則を用いてこのプロセスの全体性を強化する方法を探っている。
個人は心の中で同じようにリスクを評価するが、リスク認知は、科学者でも非科学者でもいくつかの意識されない情動的プロセスに影響される。例えばヒトの脳はどんな種類の脅威に対しても速やかに防御的に反応するようにできている。物理的なものでも、光や音、臭い、単語やなんらかの恐怖や危険に関連した記憶にすら反応する。例えば「化学物質」という単語だけで一般のヒトに無意識の恐怖反応を誘発することが示されている。
もう一つの無意識なプロセスは部分的情報で意味を読み取る短絡回路の使用である。既に知っているパターンに部分的情報を当てはめる。
三番目は脅威の性質がリスク認知の重みに影響する。例えばコントロールできないもの、不本意なもの、将来世代への影響にはより大きな不安を引き起こす傾向がある。最後に人々は彼らの見解を文化的認識として知られている最も近しい集団に合うように見解を形成する。
リスクコミュニケーションの課題
効果的リスクコミュニケーションは個人のリスク認知に関係する多くの要因に考慮することが必要で、人々ができる限り最も健康的な選択をするための根拠と直感を結びつける助けになることを目的とする。リスクコミュニケーションの情動的側面については、信頼が多分最も重要である。環境健康問題について取り組む人たちに話をする科学者などの専門家は、人々が既にその問題が間違って取り扱われていると感じている場合は大きな怒りや恐怖、不信を抱いていることを知るだろう。人々を最も怒らせ不信を抱かせるのは、リスクに暴露されていることを知らされていなかった、あるいは誤解させられていた、同意無しに暴露された、といった場合である。
2014年にウエスバージニアでElk川に工業化学物質が流出した際のクライシスコミュニケーターはこれらの問題に取り組まなければならなかった。流出物は約30万人の飲料水を汚染し数日の間健康当局は怒って警戒している住人に確実な事実をほとんど共有できなかった。危機が終了した後、Kanawha–Charleston保健局のRahul Gupta局長は信頼構築のために最も役立ったのは、わからない時は知識や能力の限界を率直に語ることだったとしている。
また数字を読み解く能力についても課題がある。多くの人は解くに確率の数字を理解するのに苦労する。しかしそれでも、専門家でない人でも確率や不確実性を上手に取り扱うことができる。
一部のコミュニケーターは人々の環境健康への洞察力はかつてより高いことを見いだしている。10年前より今のほうが多くの人がより多く学び知識が多く、おびえていない、とカリフォルニアのNPO環境研究所長Sharyle Pattonは言う。ワシントン州立大学の遺伝学者Pat Huntはしばしば一般向けに話をしているが、「人々は知りたがっていて、情報を与えられた消費者になりたがっている」という。
社会レベル
しかし単純に人々にリスク対策リストを与えるだけでは十分ではない。個人が自分のリスク評価をできるというのは期待しすぎである、とカリフォルニア大学のRachel Morello-Frosch教授は言う。
予防的措置
困難なのは科学が明確でない時にリスクを決めるときである。しばしば予防原則が持ち出され、これは批判者からは「麻痺原則」と呼ばれるが支持者は信頼できる情報に基づくのであれば合理的であるとする。問題は、情動を排除することではなく、科学的根拠を毀損することなく直感の力を生かすことである。
(問題をとらえる枠組みを変えるのが一番大変だけど重要だと思う。リスコミといった場合に、「我々に何か都合の悪いことを押しつけるために誤魔化す場」と捉えられているとうまくいきそうにない。最良の選択をしてもらうための情報を伝える、消費者のエンパワメント、が目的なのに。食品については「悪いもの、避けるべきものを知って忌避する」という思考の枠組みから抜け出してもらえればあとはなんとかなる。でも告発型の報道ばかりなのでなかなか。正義の味方が絶対悪をやっつければ平和になる、というのは現実ではなかなかおこらないのに物語としての力がとても強い。)

  • 気候変動が日本の性比変化と関連

Climate change linked to changing sex ratios in Japan
Thursday, October 2, 2014
http://news.sciencemag.org/sifter/2014/10/climate-change-linked-to-changing-sex-ratios-in-japan
ただし他国ではそのようなことは報告されていない

気候変動が日本の新生児の男女比と胎児死亡に関連
Climate change is associated with male:female ratios of fetal deaths and newborn infants in Japan
Misao Fukuda et al.,
http://www.fertstert.org/article/S0015-0282(14)01840-8/abstract
1968年から2012年の気温差と新生児の性比に統計学的に有意な負の関連
一部は男性胎児の死亡により気温の変化が大きいと男の子が減る
(えっ?聞いたことない研究所だなと思ったら産婦人科個人病院?http://www.fukuda8767.com/index.html

  • 社会経済要因、ファッションの流行が悪性黒色腫増加に関連

Socioeconomic factors, fashion trends linked to increase in melanoma
2-Oct-2014
http://www.eurekalert.org/pub_releases/2014-10/nlmc-sff100214.php
American Journal of Public Healthの2014年10月6日号に発表された報告。早期発見率の向上だけでは米国の悪性黒色腫の増加は説明できない。1900年代からの衣服の流行、社会通念、医療パラダイム、日焼けした皮膚への認識、経済傾向及び旅行パターンを調べた。
例えば20世紀初期の人々は頭のてっぺんから足の先までほぼ全てを隠した服を着て、肉体労働の象徴である日焼けした皮膚より陶器のように白い肌を上流階級の証として好んだ。一方医療界では20世紀初め、日光はくる病の治療法と認識され日焼けは身体に良いとみなされてUV暴露の危険性についてはほぼ無視された。これが道を拓きやがて日焼けが上流階級の健康とQOLの象徴とみなされるようになった。日光暴露量が増え悪性黒色腫が増えている。しかし世界で最も非皮膚がんの多いオーストラリアでは公衆教育キャンペーンにより日焼けへの見解を変えつつある。これが他国でも参考になるだろう。