食品安全情報blog過去記事

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論文等

  • 遺伝と環境と時代

Nature, nurture and time
30-Dec-2014
http://www.eurekalert.org/pub_releases/2014-12/yu-nna123014.php
遺伝と環境に新しい伴侶が見つかった−歴史的文脈である
PNASに12月29日発表された研究によると、肥満などの複雑な状態に与える遺伝子の役割は時代とともに変わる。Framingham Heart Studyのデータを解析し、肥満に関連するとされるFTO遺伝子については、生まれた時代によって寄与率が異なる。1942より前に生まれた人では肥満リスクとの関連はなく、1942年以降に生まれた人では関連が強い。この違いは遺伝要因が働くかどうかに影響する社会や環境条件が変わったためだと考えられる。このことは現代の遺伝学の研究にさらに注意が必要であることを示唆する。
(遺伝子検査という名前の占いには注意)

  • 1996年から2013年の間にファストフードの大きさや組成はあまり変わっていない

Little change seen in fast food portion size, product formulation between 1996 and 2013
31-Dec-2014
http://www.eurekalert.org/pub_releases/2014-12/tuhs-lcs123014.php
タフツ大学の研究者による二つの新しい報告書が1996年から2013年の間にファストフードの大きさや組成はあまり変わっていないことを示した。Preventing Chronic Diseaseに発表された研究によると3つのナショナルファストフードチェーンのメニューの平均カロリー、ナトリウム、飽和脂肪は高いまま一定であった。例外はフライで2001年に飽和脂肪が減り2005年から2009年にトランス脂肪が減った。揚げ油の変更によると考えられる。

  • 果糖はマウスでは砂糖より有害

Fructose more toxic than table sugar in mice
4-Jan-2015
http://www.eurekalert.org/pub_releases/2015-01/uou-fmt122914.php
The Journal of Nutritionの2015年3月号に発表される論文によると、カロリーの25%を添加された果糖とブドウ糖の単糖またはショ糖(果糖とブドウ糖の組成はどちらも同等)を与えたマウスで死亡率や生殖能力を比較した。但し実験は特殊でマウスは血縁のない家ネズミで喧嘩をしながら暮らしている
(マウスの自然に近いていえばそうだけど何を見ているのかわからなくなる。別にネズミの健康を守りたいわけではないので)

  • エネルギードリンク誘発性の急性腎障害

Energy drink-induced acute kidney injury.
Greene E, Oman K, Lefler M.
Ann Pharmacother. 2014 Oct;48(10):1366-70
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24986632
Red Bullを毎日2-3週間飲んでいた40才男性の症例。止めて2日のうちに改善。米国。
(珍しい)

  • 鹿の角スプレーの使用に関連する中心性漿液性脈絡網膜症の症例

A case of central serous chorioretinopathy associated with use of deer antler spray supplement.
Wong SS, Morrison-Reyes JA, Smithen LM.
Ophthalmic Surg Lasers Imaging Retina. 2014 May-Jun;45(3):256-8.
IGF-1を含むと宣伝されていたアスリート用サプリメントの鹿の角(鹿茸?)スプレーの使用に関連する中心性漿液性脈絡網膜症の男性の症例報告。サプリメントの使用を中止して回復。

  • 予期せぬ場所の普通でないニンニクやけど

An unusual garlic burn occurring on an unexpected area.
Karabacak E, Aydın E, Kutlu A, Dogan B.
BMJ Case Rep. 2014 Apr 7;2014. pii: bcr2013203285.
http://casereports.bmj.com/content/2014/bcr-2013-203285.long
喉が痛いからと生ニンニクを首の回りに5時間あてて火傷した24才の女性の写真

Iodine-induced thyrotoxic hypokalemic paralysis after ingestion of Salicornia herbace.
Yun SE, Kang Y, Bae EJ, Hwang K, Jang HN, Cho HS, Chang SH, Park DJ.
Ren Fail. 2014 Apr;36(3):461-3
糖尿病と高血圧治療の目的でSalicornia herbacea(アッケシ草)を摂っていた56才韓国人男性の下肢の発作性弛緩性麻痺の症例。ヨウ素過剰摂取による甲状腺機能障害で低カリウム血症になっていた。健康食品の使用を中止して改善。

  • 20年にわたる死亡率低下で150万人以上のがん死が避けられた

More than 1.5 million cancer deaths averted during 2 decades of dropping mortality
31-Dec-2014
http://www.eurekalert.org/pub_releases/2014-12/acs-mt1123014.php
米国がん学会年次がん統計報告書によると、20年以上に渡ってがんの死亡率を22%減らせたためにそのままだったらがんで死亡していただろう150万人が助かった。全ての州でがんの死亡率は減っているがまだ相当なばらつきがあり南部で低下が鈍く北東部で高い。
報告書は専門家向けのCancer Statistics 2015, published in CA: A Cancer Journal for CliniciansとわかりやすいCancer Facts & Figures 2015の二種類。
男性の場合全てのがんの半分が前立腺、肺、直腸結腸であり前立腺だけで全がん診断の1/4を占める。女性は乳、肺、直腸結腸で乳がんだけで全がんの29%。ただし死亡原因としてはどちらの場合も肺がんが多い。
(まだCancer Facts & Figures 2014しかないようだけれど
http://www.cancer.org/research/cancerfactsstatistics/index)

  • なぜあなたががんになる(あるいはならない)かを説明する単純な数学

Scienceニュース
The simple math that explains why you may (or may not) get cancer
By Jennifer Couzin-Frankel 1 January 2015
http://news.sciencemag.org/biology/2015/01/simple-math-explains-why-you-may-or-may-not-get-cancer
がんと診断されると多くの人が最初に口にするのは「どうして?」である。Johns Hopkins大学のがん遺伝学者Bert Vogelsteinは「それはまったくもっともな疑問だ」という。彼は生涯をかけてその質問に答えようとしてきた。応用数学者の友人の協力を得てほとんどのがんは生物学的不運の結果であると主張する説を提示した。今週のScienceに発表された論文で、Vogelstein と2013年にHopkinsの生物統計学部に参加したCristian Tomasettiががんの発生を説明する数式を提案した。その理屈はこうである:臓器の細胞の数と、その中にある長期生存する幹細胞のパーセンテージを同定し、その幹細胞が何回分裂するかを調べる。一回分裂する毎に娘細胞にがんの原因になりうる突然変異のリスクがある。従ってVogelstein とTomasettiは幹細胞の分裂回数が多い組織ほどがんになりやすいと考えた。この理論上の数と実際のがん統計をあわせてこの理論でがんの2/3が説明できると結論した。(略)
Vogelsteinにとって重要なメッセージの一つは、しばしばがんは予防できないので、早期検出にもっとリソースを割くべきである、ということである。NCIのDouglas Lowyは早期発見には合意するが同時に「がんは予防できる」しその努力も継続すべきと強調する。
がんが無作為に生じるということは恐ろしいことかもしれないが、平均的がん患者にとってはその病気は彼らの罪ではないと知るのに役立つかもしれない。
(これに143もコメントがついていてびっくり。メディアが変なふうに報道した?)

Variation in cancer risk among tissues can be explained by the number of stem cell divisions
Cristian Tomasetti,*, Bert Vogelstein,
Science 2 January 2015: Vol. 347 no. 6217 pp. 78-81

Johns Hopkinsのプレスリリース
ランダム突然変異の「不運」ががんで主要な役割を果たす、研究が示す
'Bad luck' of random mutations plays predominant role in cancer, study shows
1-Jan-2015
http://www.eurekalert.org/pub_releases/2015-01/jhm-lo123014.php
「全てのがんは不運と環境と遺伝の組み合わせである、そして我々はこれらの要因がどれだけ寄与しているかを定量するのに役立つモデルを作った」とBert Vogelsteinはいう。喫煙しながら長寿の人はしばしば「良い遺伝子」のおかげだとされるが実際には単に運が良かっただけだろう。悪いライフスタイルはがんになる不運を上げる。
ただし乳がん前立腺がんなどのがんについては信頼できる幹細胞分裂回数がわからないため報告に含まれない(これらが一番多いのにね)