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グリホサートの健康リスク評価に関するFAQ

Frequently asked questions on the assessment of the health risk of glyphosate
BfR FAQ, 12 November 2015
http://www.bfr.bund.de/en/frequently_asked_questions_on_the_assessment_of_the_health_risk_of_glyphosate-127871.html
グリホサートは世界中で最も広範に利用されている農薬有効成分の一つである。他の農薬のように、グリホサートは健康と環境へのリスクや有効性についてEUの枠組みで定期的に再評価されている。
ドイツはグリホサートの評価と担当国である。再評価の過程で、BfRはグリホサートとその代表的な製剤の健康リスクを評価するよう任命された。
健康評価のために、BfRは1000件以上の研究をレビューし評価している。グリホサートの科学的評価手順は欧州レベルで現在完了している。
欧州食品安全機関(EFSA)は、リスク評価の結論を欧州委員会EUの加盟国に提出し、そこでリスク管理分野の意思決定プロセスがはじまる。EFSAはホームページにピアレビュー報告書と、IARCモノグラフの評価についてのBfRの追記文書と更新された評価報告書を発表している。
一般での議論に応えて、BfRはグリホサートとグリホサートを含む農薬とその県境評価に関する質問と答えを準備した。

グリホサートとは?
グリホサート(科学名N-(ホスホノメチル)グリシン)は、作物栽培地の雑草の成長を防ぎ、あるいは植物や植物の一部を除去するために世界中の農薬に最も広範に使用される有効成分の一つである。これらの物質は除草剤、あるいは俗に「雑草キラー」と呼ばれている。

グリホサートはどのように植物に働きかけるのか?
グリホサートは、植物がアミノ酸フェニルアラニンチロシントリプトファンを生合成するために欠くことのできない酵素5-エノールピルビルシキミ酸-3-リン酸合成酵素(EPSP)を抑える。この酵素は動物やヒトには存在しない。

グリホサートは何に使われるのか?
グリホサートは種子をまく前に雑草を除去するために農業や園芸で使用される。グリホサート耐性遺伝子組み換え作物が栽培されるところでは、競合する雑草を除去するために、EU外ではグリホサートは種をまいた後にも使用される。

グリホサートに関する毒性研究で明らかにされた特性は?
経口投与後、グリホサートの約20%は腸で吸収され7日以内にほぼ完全に排泄される。グリホサートの急性毒性(一度の投与)は、全ての検査された動物で、経口や皮膚、あるいは吸入による暴露では、低い。グリホサートはウサギの皮膚に炎症を起こさず、皮膚感作の全検査で陰性と証明された。ただし、グリホサート酸は目刺激性である。
NOAEL(無毒性量)以上の量のグリホサートの反復投与では、肝臓と盲腸での影響に加えて唾液腺に変化がみられる;さらに、消化管と膀胱で粘膜刺激性、白内障が観察された。
全ての研究で、明確なNOAEL、言い換えると健康に有害影響のない最大量が決定できた。

グリホサートはヒトに対して発がん性のリスクがある?
WHOの国際がん研究機関(IARC)のグリホサートモノグラフを含む、今日入手可能な全ての研究、文書、文献をレビューした後、BfRは現在の科学的知見に基づき、意図した目的のために適切な方法で使用される場合、グリホサートによるヒトへの発がん性リスクはないと思われるという結論に達した。一人(スェーデン)を除く、EU加盟国の専門家と最近発表されたEFSAの結論も、農薬の有効成分としてのグリホサートの新たな承認のためのEUの有効成分レビューの進行中の手続きにおいても、この評価を支持する。

グリホサートは奇形の原因となる?
ラットとウサギの研究から、グリホサートが欧州のCLP法規定に基づき生殖や発達毒性とは分類されないことが示された。妊娠したウサギにかなり高用量の投与をした場合に孤発の異常が観察されているが、これらの影響はウサギがすでに明らかな中毒症状を示したり死亡する量に限られているので、これらの知見は国際的に受け入れられる評価原則に沿ってヒトの発達障害のリスクを示すとはみなされない。
グリホサートがヒトを含む哺乳類の生殖や発達も有害ではないとするEFSAの結論に賛成するのはEUの専門家たちだけではない。この見解はWHOの合同残留農薬専門家会議(JMPR)や米国環境保護庁(EPA)に共有されている。

グリホサートが発育に有害だと当局が判断しないのはなぜ?
法律の求めにより、農薬の有効成分の発達毒性試験は2種類の哺乳類(ラット、ウサギ)で行われなければならない;これらの種についてはヒトへ当てはめられるかどうかについての大きなデータベースがあるからである。ヒトの暴露の場合は皮膚からや吸入による暴露もあるが、通常被検物質は経口で雌に投与される。
国際的に定められれている試験ガイドラインでは、最大用量では母親への有害影響は僅かでなければならないとされている。母親への毒性、水や餌の摂取量低下、ストレス、栄養不良あるいは他の予期せぬ要因の結果として胚や胎仔への毒性影響が生じる可能性があるからである。子供の発育へのこれらの要因の影響の可能性については特に考慮しなくてはならない―なぜなら胚や胎仔への毒性影響が母親に毒性のある濃度でおこっているのか母親に毒性のない濃度でおこっているのかは、知見を評価し有害物質規制上の分類をするために重要だからである

ツメガエルと鶏でのグリホサート研究はどのように解釈される?
原則として、カエルや鶏の胚での実験で化学物質のなんらかの発達毒性影響を検出することが可能だとしても、それらは農薬やその他の化学物質のヒトの毒性試験法として妥当性を検証されたものではない。これはそれらが情報的価値、実行可能性、結果の再現性において実証されておらず、EUとその他の国際組織(OECDなど)に承認されていないことを意味する。
Carrasco教授(ブエノスアイレス大学)が行ったカエルと鶏の胚の研究に関しては、子に被検物質が直接投与されたこと、すなわち培地でそれらを混ぜたり鶏卵に注射したことを考慮しなければならない。化学物質の毒性試験ガイドラインでは、雌に経口や皮膚を通して、あるいは吸入により被検物質を投与しなければならないと規定している;すなわち子は胎盤を通して被検物質に暴露される。

グリホサートはグリホサートを含む農薬の唯一の成分か?
農薬は様々な製剤で販売されている。これらの製剤は有効成分と様々な補助剤から成る。グリホサートは水性製剤だけでなく界面活性剤などの補助剤とも組み合わせて使用される。グリホサートの除草効果は界面活性剤を添加することにより強化される。それらは植物へのグリホサートの浸透を促進するようデザインされていて、場合によっては有効成分そのものよりも毒性が高い。農薬の全成分の全体的な効果は有効成分の認可手続きの完了後にのみ評価される。この効果は様々な加盟国が行う認可手続きで、それぞれ農薬ごとに別々に評価される。

グリホサートを含む農薬のある種の補助剤の毒性の評価は?
POE 獣脂アミン(ポリオキシエチレンアルキルアミン)のような界面活性剤は、主に刺激性のためにグリホサートよりも高い毒性がある。ヒトでの中毒事例は、偶然あるいは故意(自殺)による、かなり高い毒性のグリホサートを含む除草剤を大量に経口摂取したことによることが知られており、一部の農薬の実験動物での毒性が有効成分と比べると毒性が高い理由もこれらの物質の効果とされている。ドイツの農薬認可の責任を負うドイツ連邦消費者保護・食品安全庁(BVL)は、POE 獣脂アミンを他の界面活性剤に代えるように農薬のライセンス所持者に呼びかけ、これらの物質は既に置き換えられている。

食品に検出される残留グリホサートは認められる?
他の農薬有効成分同様、欧州委員会が食品中のグリホサートの残留農薬基準を設定している。残留農薬基準は活性物質と作物の組み合わせで設定され、使用方法を考慮している。許容残留濃度(MRL)は適切な農業規範に従って行われる残留試験に基づいて決定される。健康に関する基準値あるいは参照基準は、特定の食品を頻繁に食べる消費者の場合でも規定されたMRLでは超過する恐れはない。そのため、穀物と使用方法によってグリホサートに異なるMRLが定められる。たとえば、穀物の雑草管理に使用される場合、ソバと米には収穫されたもの1kgあたり0.1mgである。もしもグリホサートが収穫前処置(乾燥)に使用されるなら、その場合小麦とライムギに適用されるMRLは収穫された量1kgあたり10mgである。

牛乳や乳製品のような動物由来食品を経由してグリホサートはヒトに摂取されるか?
グリホサートが飼料から牛乳へ移行するという証拠は今のところない。乳牛に与えた試験では、グリホサートとその代謝物質AMPA(アミノメチルホスホン酸)を投与し、実際に飼料に予測される濃度よりかなり高い最高濃度でも、牛乳に検出された濃度は極めて低かった。

ヒトと動物の尿に見られるグリホサートとその代謝物質アミノメチルホスホン酸(AMPA)の重要性は?
グリホサートは除草剤の有効成分と、乾燥(収穫前処置)のために使用することが認可され、MRL以下で食品や飼料に残留することが認められる。これはヒトと動物が食物や飼料から少量のグリホサートを摂取する可能性があることを意味する。グリホサートはまた速やかに排出されるので、その形跡がヒトと動物の尿に検出可能であることが予想される。しかし、今日まで尿に検出されたグリホサートの濃度は、使用者や消費者のグリホサート暴露が健康リスクとなることは示していない。この件に関してBfRは、尿のグリホサート残留物を分析した欧州と米国の研究評価に基づく概要を発表している。
(http://link.springer.com/article/10.1007%2Fs00003-014-0927-3#page-1)

飼料中に残留することから、家畜はヒトより多量のグリホサートを尿に排泄する可能性がある。これはドイツとオランダの乳牛での検査結果である。また現在入手可能な少しのデータからは、見積もった摂取量は毒性研究で影響をおこす濃度よりかなり低く、それゆえ健康へのリスクはないことが示されている。
尿に検出されたグリホサートの質問に関して、私たちは2013年7月1日のドイツ連邦議会の質疑に対する答えも照会する。
http://dip21.bundestag.de/dip21/btd/17/142/1714291.pdf

グリホサートは体内で蓄積され、母乳に移行するか?
現在の科学的知見に基づき、BfRはグリホサートの物理的科学的特性、特にその溶解性により、この物質が母乳に移行するような脂肪組織での蓄積はないとみなしている。多くの研究にもかかわらず、生物での蓄積を示唆する兆候はない。国家授乳委員会とBfRは母乳は今もなお乳児にとって最良の栄養であると述べている。母親は動揺せずに赤ちゃんに授乳し続けるべきである。

議会党派「議員集団同盟 90 / 緑の党」からの通知で、尿と母乳の検体にグリホサート量が増加していることが報告された。この測定についてのBfRの評価は?
2015年6月25日に、議会党派「議員集団同盟 90 / 緑の党」はある研究所が16の母乳サンプルに農薬有効成分グリホサートを検出したと報告し、この発見を「重大な懸念」だと説明した。当然のことだが多くの母親がこの調査報告書について心配した。
この試験機関は、16の母乳を分析するための検査方法としていわゆるELISA法を使用した。サンプルのグリホサート濃度は0.21〜 0.43 ng/mLだと報告された。だが、ELISA検査の製造者はこの方法を使った乳中グリホサートの検出感度は75 ng/mLだとしている。さらに、母乳の陽性所見は独立した分析によって確認されていない。BfRはそれゆえその結果の信頼性に疑いを表明し、確かな知見を得るために独自の研究を依頼した。この検査法が全ての分析対象(母乳、尿)について妥当性を検証されているというデータは入手できなかった。どんなものであれ堅牢な声明を出すにはそのような妥当性評価が必要だろう。従って母乳で測定された濃度は体内への蓄積や健康リスクの兆候とはならない。

BfRが母乳のグリホサートを検査する独自の研究を行った理由は?
マスコミが16の母乳サンプルでグリホサートが発見されたと報じた後、心配した母親たちは母乳のグリホサートによるリスクについての情報を得るためにBfRに連絡を取った。BfRはその発見の信頼性に関する科学的疑いを表明し、確かな結果を得るために独自の研究を委託した。

2014年に米国で発表された母乳からグリホサートが検出されたという研究についての見解は?
BfRの知るところでは、この情報は代表的ではないサンプルでの一回の調査に基づき、ELISA技術を用いてセントルイスのラボで2つの米国NGO(“Moms Across America” と”Sustainable Pulse”)によって行われ、インターネット上でHoneycutt とRowlands (2014)が発表した。その研究では授乳中の10人の母親の母乳サンプルを分析した。3つのサンプルは研究所が明記した75µg/ Lの検出限界を超過し、最も高い値は166µg/ Lだといわれている。これらの予備的データは代表性が無く、適切に妥当性を評価されたものでも説得力があるものでもない。

法律条項に基づき、農薬が適切な方法で意図した目的のために使用されているかどうかをどのように監視できるか?
全てのリスク評価は一般的に、意図した目的での製品や物質の使用や予測可能な使用に基づいている。悪用、不注意な使用、誤った使用は評価できないリスクをもたらす恐れがあるのは言わずもがなである。これが政府が農薬分野に各種チェックを整備する理由である。意図した目的どおりに使用されているのかを監視するのはリスク評価機関としてのBfRの仕事ではない。これはリスク管理機関の責任である。この場合は、ドイツ農薬条例the German Plant Protection Act (PflSchG)ではこれは地方行政機関の仕事であると規定する。規定により法律違反の場合には、PflSchG条項13により適切な罰と罰金が科せられる。PflSchGはまた、広範囲にわたる使用は熟練を証明できる資格のある専門家だけが行い、定期的にさらに適切な訓練を経験しなければならないと規定している。

個人の領域で、意図した目的のために適切な方法でこれらの製品を使用することを保証するために、PflSchGは農薬の販売業者による消費者への助言義務を規定する。当局はこの規定で取引の適法性を監視する。さらに、使用ガイドラインと完全評価報告書はドイツ連邦消費者保護・食品安全庁(BVL)のホームページ上で見ることができる。
http://www.bvl.bund.de/DE/04_Pflanzenschutzmittel/01_Aufgaben/02_ZulassungPSM/02_Zulassungsberichte/psm_zulassungsberichte_node.html

グリホサートのの更新手続きの関連でADIとAOELが調整されたのはなぜ?
ADIは許容一日摂取量を表し、消費者が認識できる健康リスクなく生涯にわたって一日に摂取できる物質の量を示す。ADI値は慢性リスクを評価するのに使われる。
AOELは急性許容作業者暴露量を表し、それ以下なら認識できる健康リスクがないと予測される農薬の散布作業者の暴露量を示す。
グリホサートの更新手続きで、非常に多くの毒性研究が提出され評価された。それは必要とされる動物実験数をはるかに超えていて、最初の認可申請では利用できなかった。ADIとAOEL値は全ての入手可能な研究と情報を考慮してグリホサートの再評価で導出された。

グリホサートの更新手続きで急性参照用量(ARfD)が導出された理由は?
急性参照用量(ARfD)は消費者が明らかな健康リスクなく一日のうち一回以上の食事で摂取可能な食品中の物質の量として定義されている。従って、ARfDは消費者の短期暴露に関する健康リスク評価のための閾値を表している。
グリホサートの更新手続きの中で、一回または短期の暴露後の有害影響に関する全ての入手可能な毒性研究がレビューされた。発達毒性研究で比較的低い用量でウサギの母親に投与した場合に深刻な影響が生じた(100 mg/kg bw/dayでの死亡と着床後胚損失率)。このため、0.5 mg/kg bwのARfDが導出された。この値は50 mg/kg bwのNOAEL(無毒性量)つまり、毒性影響が観察されない用量に係数100を用いた。

追加で導出されたARfDは健康リスク評価にどのような影響があるか?
消費者の慢性健康リスク評価は生涯にわたって一日に摂取する食品中の物質の平均濃度(慢性暴露)に基づくが、急性健康リスクはARfDが導出された物質について追加で計算される。このため、残留基準値のある食品を多量に一回で摂取するより危険なケースが考慮される(急性暴露)。そのため、グリホサートの以前の健康リスク評価は、慢性と急性の健康リスクを包括的に評価できるよう拡大された。