食品安全情報blog過去記事

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農薬評価への新しい道筋

A new path for pesticide assessment
16 March 2017
http://www.efsa.europa.eu/en/press/news/170316
化学物質リスク評価で最も議論される問題の一つ:農薬などの化学物質への暴露はヒトの健康障害の原因となりうるか?科学者らは現在、安全性を評価するのに動物実験や細胞研究などの実験毒物学の証拠に頼っている。EFSAが提案した新しいアプローチはヒトの健康に関する疫学研究をより良く使うことでさらなる理解を助けるだろう。
ヒトの疫学研究は特定の化学物質への暴露とヒトの病気の関連を示唆する。だが、関連は必ずしも因果関係を証明せず、疫学研究から確固たる結論を引き出すことはたやすくない。このことがそのような研究が、化学物質が最終的に病気のリスク要因となるかどうかを決めるのに多くの場合限定的にしか使えないことを意味する。
2013年にEFSAは、農薬の暴露と健康影響を関連づける疫学研究についての文献レビューの結果を発表した。それ以来EFSAの農薬の専門家は、疫学研究の結果をどうやって農薬リスク評価に取り入れられるかを研究し続けている。この作業はすべての化学物質に関連するが、EFSAは疫学的知見を評価するようEU規則で義務付けられているため、特に農薬承認申請評価において重要である。
この努力の一環として、EFSAの農薬とその残留物に関するパネルは、農薬などの化学物質への暴露と健康障害に関連する生物学敵因果関係をリスク評価者が確立できるようにする方法を調べている。この方法を開発する作業グループの議長であるSusanne Hougaard Bennekou博士と、EFSAの職員で農薬を専門とする科学者であるAndrea Terron博士はこの作業の重要性を説明する。
この計画の目的は?
農薬リスク評価者は疫学研究で得られた情報をもっとうまく利用したいと考えている。そのため、疫学研究で示された関連を確認する―あるいは確認しない方法を見つける必要がある。この仕事はデータが複雑なヒトの病気に関連する時には特に難しい。時には非常に多くの要因があり、疫学研究で示唆された化学物質と病気の関連をどうしても確認できないことがある。
私達の科学的意見では、その原因―細胞レベルである化合物が影響を与える生物に接触し―と結果、すなわち病気につながるその後の一連の出来事との間に妥当な関係があるかどうかを立証できる枠組みを採用した。言い換えると、出来事の特定の順序、あるいは経路がヒトの健康ハザードとなるかどうかを立証し―またその結果として、その病気の潜在的なリスク要因として考慮する必要のある化学物質を同定する。
この概念敵枠組みは有害性転帰経路(AOP)として知られている。科学コミュニティで開発され、OECDにより化学物質がどのように有害影響を引き起こすかの理解を深めるために使用されているが、リスク評価において疫学データの利用改善のために特に適用されたのはこれが初めてである。
AOPをどのように適用しましたか?
私達は2013年の報告書で農薬暴露との一貫した関連を示す2つの病気、パーキンソン病と小児白血病のAOPsプロトタイプをデザインした。私達は農薬を含む様々な化学物質を用いて一連の出来事―そして出来事の関連性―を描くことができた。
そしてわかったことは?
この枠組みが化学物質への暴露と病気との関連性を立証するのに効果的なツールであるということは明らかだ。パーキンソン病と小児白血病両方のAOPsからの全体的な証拠の重みは初期の相互作用―分子レベルの開始事象あるいはMIEとして知られる―と有害転帰との間の強い関連を示した。
それで化学物質への暴露とこれらの2つの病気の関連性を立証したのですか?
いいえ、私達は化学物質への暴露とこれらの2つの病気の関連を立証していません。AOPの概念枠組みによって私達は1つの化学物質の関連について妥当性を評価できるようになったのだが、これは化学物質が病気の原因となり、さらにリスク要因となることを示す―これらには完全リスク評価が求められる―からは程遠い。例えば、農薬は実際の状況で人々が暴露されるときに必ずしも有害影響があるわけではない―影響を与えるにはある特定の細胞に達する必要があり、また有害結果を起こすのに十分な用量が必要である。それでも、暴露はパーキンソン病と小児白血病になるには、他の複合要因の―環境および/または遺伝子の―なかのたった1つのリスク要因となりうるにすぎない。

「この枠組みで化学物質との関連の妥当性を評価できるようになった。化学物質が病気の原因となることを示しているのではない。」

だが、これは農薬を含む化学物質のリスク評価にとって一歩前進ですね?
そうです。私達はまだリスク評価のツールとしてAOPの枠組みの適応可能性を理解し始めたばかりで、それは全ての入手可能な情報を説明する機会になった。AOPは農薬を評価するのに必要なデータの代わりに使うものではなく、補完的なツールとして役に立つ。AOPは従ってハザード同定過程でヒトの健康結果を組み入れるアプローチに向かってのリスク評価パラダイムのシフトである。AOPメソッドは経路に沿った各段階のデータギャップを確認したり、ハザード同定とキャラクタリゼーションのための将来の試験戦略を導いたりするのに役立つ。
このインタビューはかなり複雑な科学的作業の一部の主な要素を要約し単純化している。この問題の完全な徹底した理解にはEFSAの農薬とその残留物に関するパネルが採用した科学的意見を参考にしてください。

パーキンソン病と小児白血病に関連する可能性がある農薬の、実験に基づく毒性学的性質の調査
Investigation into experimental toxicological properties of plant protection products having a potential link to Parkinson’s disease and childhood leukaemia
EFSA Journal 2017;15(3):4691 [325 pp.]. 16 March 2017
https://www.efsa.europa.eu/en/efsajournal/pub/4691

疫学とは?
疫学は定義された人の集団での原因 (例えば、喫煙、アルコール、ウイルス、特定の化学物質への暴露) と健康影響や病気のパターンの解析を行う。疫学は様々な人の集団に生じる病気の頻度と理由も定義する。提供された情報は病気を防ぐために、そして化学物質暴露の場合には化学物質のハザードについての、また過去や現在の暴露状況下の実際のリスクについての情報を更新するために使用される。