食品安全情報blog過去記事

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2016年版RASFF年次報告書

RASFF Annual Report 2016
https://ec.europa.eu/food/sites/food/files/safety/docs/rasff_annual_report_2016.pdf
1. RASFFの概要
食糧・飼料による健康への脅威に対する対応策の情報を加盟国間で迅速に共有するために置かれている。
その構成を簡素に保つことによって有効性が確保されている。欧州委員会、EFSA (Europ-ean Food Safety Authority: 欧州食品安全機関)、EEA (European Economic Area: 欧州経済地域)および加盟国の明確に認定された連絡窓口で構成される。
情報交換は、iRASFFと呼ばれる通信システムで実施される。
♦ 法的根拠
EC法No. 178/2002に基づく。この法の第50条でRASFFが規定されている。
第50条3項にRASFFの通知が求められる場合についての追加の基準が規定されている。
EC法No. 16/2011には、加盟国に求められるネットワーク環境や、様々な様式の通知についてそれらを伝達する手続きが規定されている。
♦ 加盟組織*1
EU28ヵ国の食品安全機関、欧州委員会、EFSA、ESA、EEA加盟国のノルウェーリヒテンシュタインおよびアイスランド、ならびにスイス。
◊ RASFF通知
・alert notifications (警報通知)
市場において深刻なリスクが認められ、迅速な対応が求められる時。
・information notifications (注意喚起情報)
リスクは認められるが、迅速な対応は求められない場合。例えば以下。
(i) 製品が市場にあったのは届け出国だけ
(ii) 市場に出回っていない
(iii) もはや市場にない
・border rejection notifications (通関拒否通知)
リスクが認められたためEUへの入荷を拒否する場合。
・original notifications and follow-up notifications (オリジナル通知とフォローアップ通知)
RASFFは最初に取り挙げられた案件(オリジナル通知)について追跡調査を実施してフォローアップ通知を出す場合がある。
・rejected and withdrawn notifications (却下通知および撤回通知)
ある加盟国から出されたオリジナル通知が欧州委員会の妥当性評価により却下される場合(却下通知)。また、オリジナル通知の情報が確認されなかったり間違いであったりした場合(撤回通知)。
◊ RASFFニュース
RASFF通知には至らなかったが、加盟国の管理機関により有意義と判断された話題を掲載。
2. 2016年のRASFF
DG Sante (Directorate General for Health and Food Safety: 保健・食品安全総局)の構造改革に伴い、RASFFのチームは、AAC and FF(Administrative Assistance and Cooperation system Food Fraud: 行政支援協力および食品不正対策部)ならびにTRACES (Trade Control and Expert System: 貿易管理情報システム)のスタッフの一部と統合された。
RASFFのITシステムが最も進んでいたので、AAC and FFのネットワークもiRASFFのツールに組み入れられる。
♦ RASFFの通知はどこから来るのか
通知が最も多く出されるのは、地域内市場の公的管理に関わる分野である。消費者の苦情、事業者の自主検査の結果、食中毒発生などに基づいて出される。
通知は、その数は少ないが、非加盟国の公的管理に関わる分野でも出される。2016年は、米国での発生に端を発したListeria monocytogenesによる食品汚染や、イスラエルにより届け出た同国産のハマス製品におけるサルモネラ汚染が通知された。
◊ 食中毒
RASFFはEEAで起きた全ての事例を通知しているのではなく、加盟国の協働が必要な件について通知を発している。
2016年は、食中毒について50件の通知を発し、4件のニュースを流した。これらの内、6件は、非表示アレルゲンの存在で消費者が被害を受けたものである。また10件は、マグロにおけるヒスタミンの高含有であった。また29件の通知は病原性細菌に関するもので、そのうち10件はサルモネラ感染症である。以下の事例が特筆される。
・イタリアのヘッドチーズ料理のリステリア菌汚染(News 16-810): 2016年1月、後の調査でイタリアのサラミ(ハム)が感染源と分かった。
ルーマニアのチーズの大腸菌(志賀毒産生大腸菌 O26)汚染(2016.0312): 2016年2〜3月。25症例中19名が溶血性尿毒症症候群を発症、3名が死亡。
ポーランド産の卵に由来するサルモネラ症の流行(ニュース 16-824; 通知2016.1437, 2016.1446, 2016.1476, 2016.1653, 2016.1684, 2016.1713, 2017.0017): 2016年1月18日にスコットランドで発生。8月25日オランダでも発生。その後、ベルギー、デンマークノルウェースウェーデン、英国でも発生。その後10月14日のニュースで卵が原因であることを伝える。10月20日ポーランドが自国の卵が汚染されていたことをRASFFに通知。
リトアニアとオランダでポーランドの原料を用いて生産された冷凍乾燥塩漬けコイによるE型ボツリヌス症の発生(2016.1621): 11月25日に発生。
♦ 2016年のRASFF通知
◊ 概要
合計で2,993件のオリジナル通知が出され、その内28%(847件)が警報通知、13%(378件)がフォローアップ用情報、20%(598件)が注意喚起情報、39%(1170件)が通関拒否通知であった。これらのオリジナル通知1件当たり2.4件、合計で7,288件のフォローアップ通知が出された。警報通知だけでみると、1件当たり5.5件のフォローアップ通知が出されている。
2015年との比較では、オリジナル通知は1.8%減少したが、フォローアップ通知は17.5%増加し、全体では11.1%の増加であった。深刻なリスクを意味する警報通知は9%増加しており、加盟国がそうした事例に積極的に目を向けていることが示されている。
RASFFニュースは20件送信された。それらについてのフォローアップは163件であった。
フォローアップ情報を得た後撤回された例は、警報通知で29件、注意喚起情報で32件、通関拒否通知で11件であった。
欧州委員会が届け出国と協議の結果、却下した事例は205件で、2015年と比べ130%増加している。RASFFの施行要領が2.2.に改訂され、農薬残留などに案件の多くで却下がみられたためであると考えられる。

病原性微生物: 通知数352件 (原文p.17およびp.16のSankey diagram参照)
RASFF通知のうち相当の件数が食品中の病原性微生物(ほとんどが動物由来)に関連するものであった。
サルモネラ (原文p.18のSankey diagram参照)
相変わらず加盟国由来の食品で最も多く報告される病原体(170通知)。非加盟国由来の食品でも同様(172通知)。食品介在伝染病の原因として、2016年も卵が最も多く報告されている(特にSalmonella Enteritidis汚染)。
通知の40件がポーランドに由来する製品によるもので、多くは家禽製品(30件)、とくに鶏生肉に起因していた。3事業者で汚染が繰り返して確認された。
○ Listeria monocytogenes (原文p.19のSankey diagram参照)
Listeria monocytogenes (リステリア・モノサイトゲネス: LM)汚染は、魚介類で最も多く通知された。疑わしいとされた主要な魚介類製品はスモークサーモンであった。フランスが最も多く届け出ているが、これは魚介類製品によるものではなく、事業者が自ら実施したチーズ製品の検査に由来している(9通知)。
チーズの他に家禽以外の肉や肉製品において通知が出されている。調理を要する食品原料については通常通知は出されない。
大腸菌 (原文p.20のSankey diagram参照)
二枚貝における基準値の著しい超過が目立った(基準値: 230 MPN/100g)。生産国は、スペイン、イタリア、フランスなど。
志賀毒産生大腸菌については、ルーマニアの伝統的なチーズを原因とする事例(前述)が生じている。
スペイン由来の生きた二枚貝における著しく多い大腸菌の検出については、通知が繰り返し出されている(通知数13)。
ノロウィルス
14件の通知が出され、うち11件はフランス産の生きたカキに起因していた。1事業者について繰り返し通知が出された。
カンピロバクター
デンマークが9回届け出を行っているほとんどが鶏生肉におけるもので、1件がイタリア産の葉野菜ルコラによるものであった。
◊ 異物: 通知数106件 (原文p.21およびp.16のSankey diagram参照)
異物混入で多かったのは、金属、プラスチックおよびガラスであった。一般に、穀物や製粉物由来の原料製品で検出される。ガラスはガラス包装される製品で検出される。
◊ アレルゲン: 通知数107件 (原文p.22およびp.16のSankey diagram参照)
一般的に報告されるアレルゲンは、牛乳、大豆、ナッツおよびグルテンである。ドイツ由来の穀物やベーカリー製品についての報告が多い。しかしドイツ由来の穀物やベーカリー製品に多くの問題があるとは結論付けられない。アレルゲンについては全ての件でEU法による統一的規制が行われているわけではない。たとえば、クロスコンタミネーションについてはEUレベルで規制されていない。
◊ 重金属: 通知数88件 (原文p.23およびp.16のSankey diagram参照)
魚介類中に水銀が検出された事例が多い。多くはスペイン産の魚介類で、イタリアが主に届け出ている。EU法では、水銀の他に鉛やカドミウムに基準値を設けている。
メカジキにおける水銀検出は最も多く繰り返して通知されており(58件)、そのうち45件はスペイン産メカジキについてイタリアが届け出たものである。さらにそのうちの21件では同じ事業者(複数)が繰り返して関与していた。
◊ マイコトキシン: 通知数53件 (原文p.24およびp.16のSankey diagram参照)
アフラトキシン
EU外から輸入されたナッツを原料としてEU内で加工されたナッツ製品で検出されている。ナッツ以外でも、イタリア産の乳製品について6回、アフラトキシンM1の検出が報告されている。
○ オクラトキシンA
アフラトキシンB1などと違って遺伝毒性的発がん性は確認されていないため、アフラトキシン類ほど重要視はされていない。2016年は、レーズンなどのドライフルーツや穀物由来製品での検出が報告されている。コーヒーでは2件だけ通知が出されている。
○ フモニシン類
毒性が低いため、基準値は高く設定されている。通知は6件。そのうち5件はトウモロコシ製品で、4件がイタリア産、1件がポルトガル産。これら5件は全てルクセンブルグが届け出。
◊ 加盟国以外のマイコトキシン: 通知数489件 (原文p.25のSankey diagram参照)
アフラトキシン類 (原文p.26のSankey diagram参照)
繰り返し通知が出されたのは以下のとおり
・イラン産ピスタチオ—56通知(うち49件は通関拒否通知)
・中国産ピーナッツ—49通知(うち48件は通関拒否通知)
・トルコ産ヘーゼルナッツ—33通知(うち30件は通関拒否通知)
・エジプト産ピーナッツ—33通知(うち30件は通関拒否通知)
・米国産ピーナッツ—27通知(うち25件は通関拒否通知)
・トルコ産ピスタチオ—25通知(うち24件は通関拒否通知)
・アルゼンチン産ピーナッツ—19通知(うち18件は通関拒否通知)
・米国産ピスタチオ—14通知(うち11件は通関拒否通知)
・トルコ産干しイチジク—42通知(うち39件は通関拒否通知)
・インド産唐辛子—28通知(うち26件は通関拒否通知)
インドネシアナツメグ—12通知(うち11件は通関拒否通知)
エチオピア産スパイス混合物—10通知(うち4件は通関拒否通知)
○ オクラトキシンA (原文p.26のSankey diagram参照)
レーズンなどの様々なドライフルーツで検出された。スパイスやスパイス製品でも検出された。
◊ 加盟国以外の病原性微生物: 通知数231件 (原文p.27のSankey diagram参照)
サルモネラ (原文p.28のSankey diagram参照)
以下の事例が繰り返して確認された。
・インド産キンマの葉—45通知(全件通関拒否通知)、殆どは英国が届け出
・タイ産鶏肉—22通知(うち15件は通関拒否通知)
・ブラジル産七面鳥肉および鶏肉—19通知(うち17件は通関拒否通知)殆どはオランダが国が届け出
・インド産ゴマ種子—18通知(全件通関拒否通知)
ラオス産生ハーブおよび野菜—18通知(うち5件は通関拒否通知)、殆どは英国が届け出
◊ 農薬残留物: 通知数222件 (原文p.29のSankey diagram参照)
ほとんどが果物および野菜。昔から基準違反が認められている。お茶の違反はほとんどが中国産およびインド産のものである。
222件の内143件はEEA境界で拒否され、EU内への持ち込みが阻まれている。2年に一度改定される法律669/2009に基づき、境界で厳しくチェックされている。
2016年1月から施行要領2.2.がRASFFに導入され、農薬の有効成分の短期摂取量が急性基準値を超えているかどうかでリスクを評価することとなり、超えていない場合は、健康へのリスクがないと推断される。慢性の健康リスクは考慮されない。農薬残留物は特定の群で検出されるものであり、そうした製品の消費は非常に短期であると考えられるため。
繰り返して通知が出された案件
・トルコ産パプリカ—16通知(全件通関拒否通知)、全てブルガリアが届け出
・インド産お茶に未承認化合物プロパルギット—11通知(全件通関拒否通知)、殆どはイタリアが届け出
・トルコ産レモンにクロルピリホス—10通知(全件通関拒否通知)、殆どはブルガリアが届け出
◊ 組成物: 通知数125件 (原文p.30のSankey diagram参照)
圧倒的に米国産の食品サプリメントの事例が多い。
○ 未承認化学物質: 通知数81件
2015年に減少したのに、2016年は2014年の水準に戻ってしまった。以下の原因が考えられる。
・EC指令2002/46で収載されいなかったミネラルやアミノ酸組成物が検出されるようになった。
代謝作用、薬効のあるために未承認とされる物質が検出された
○ 未承認新規食品(成分): 通知数81件
2016年は非常に通知数が増加した。新規食品は、ECの新規食品法No 258/97で規定され、1997年5月15日以前にEU内で一定量の消費が見られていなかったものを指す。
この報告書の添付文書の頁に過去5年間に届け出られた未承認新規食品(成分)のことを詳述している。
○ 未承認成分: 通知数65件
とくに2016年の終わりにかけて、流入してくる食品サプリメントに対する通知が増加している。これらは同定や分類が困難なものであった。分析専門部門を有するなど、ドイツが通知の発行に大きく貢献いていた。電子商取引の増加も、通知の増加の一因と考えられた。
○ 化学物質の高含有: 通知数15件
EUの基準値は無いが、国レベルの基準や評価に基づき健康へのリスクがあると考えられる含有量の化学物質を含む製品の案件。頻繁にみられたのは海藻におけるヨウ素であった。食品サプリメントでは、過剰量のビタミン類やミネラル類が含まれている事例が多かった。米麺に高濃度のアルミニウムが検出される事例は、過去には多かったが2016年は3件であった。
○ 未承認着色料: 通知数12件
エバーグリーン』の検出が今でも散見される。10年前にはスパイスなどで『スーダン系』着色料が良く検出されたが、近年は大幅に減っている。メキシコ産の『濃縮果汁』中のReactive Red 195が肉製品の着色に使われていた件は、世界の約40ヵ国で製品の撤収という事態になった。
◊ 意図的な食品の不良化/食品偽装: 通知数110件 (原文p.32のSankey diagram参照)
ここに含めた通知の大多数は、単なる食品の不良化や偽装ではなく、以下のような事例である。
・ 衛生証明書関係: 託送品に添付されていなかったり、書式が間違っていたり、ぎぞうされていたりする場合があった。
・ 違法輸入
・ CEDやCVEDの未添付: 輸入前に検査が必要な農産物はCED(Common Entry Document: 共通輸入証明書)またはCVED(Common Veterinary Entry Document: 共通獣医輸入証明書)が必要。
食品添加物および香味料: 通知数110件 (原文p.33のSankey diagram参照)
EUでは法律に基づき、健康に無害であることが証明された食品添加物に対し、”E number”を付与し、リスクについてだけではなく、技術的な必要性や消費者における利益を明示している。
基準を超えた例でも、実際に深刻なリスクを生じるものは稀である。ただし、E 951甘味料(アスパルテーム)は、フェニルケト尿症の患者には有害であるため、未表示により通知に至った例がある。また、E 245のコンニャクは、窒息を起こすため、ゼリー状のお菓子に使用することは承認されていない。
繰り返し通知が出された案件は以下の通り。
・トルコ産乾燥杏子における高含有量の亜硫酸塩—21通知(うち20件通関拒否通知)
・米国産食品サプリメントにおける高含有量のカフェイン—19通知(通関拒否通知は無し): 他の有害物質と共に添加されている場合が多い。代謝、血圧、心血管系に影響を及ぼす恐れがある。
♦ 2016年の飼料における事例および飼料製品の分類 (原文p.34のSankey diagram参照)
飼料における通知は、RASFFの全通知の7%を占め、その数は2015年と同等。
ダイオキシンEUの基準をやや超えて検出された例が4件(3件は飼料原料、1件は配合飼料)。これらを除くと、『他の有害性』に属する件のほとんどが非病原性微生物汚染のもの(23通知)。そのほとんどが腸内細菌科の細菌によるもので、ペットフードやペットフード原料で過剰数が検出されている。
病原性微生物: 通知数108件、そのうち106件もがサルモネラ
とくにイヌ用ガムで検出された。イヌが噛んだガムが部屋に転がっていると、イヌよりも子供に有害。
◊ 重金属
鉛に関する通知5件、そのうち2件がトナカイ飼料、3件が無機飼料。水銀は主としてタイから輸入されたツナを主原料としたペットフードで検出された。
◊ マイコトキシン
通知が出されたのは全てアフラトキシン類の案件。ピーナッツ、ヒマワリ種子、トウモロコシなどから。
◊ 組成物
通知の多くはブタクサ(Ambrosia spp.)が多量に含まれていた案件。ピーナッツ、ヒマワリ種子、トウモロコシなどから。ブタクサはヒトで深刻なアレルギーを引き起こすことがある。
◊ TSEs(transmissible spongiform encephalopathy: 感染性海綿状脳症)
全件が、魚用飼料で反芻獣由来のDNAが検出されたものである。報告例は減少してきたが、2016年は2013年の水準に戻ってしまった。
◊ 食品と接触する材料からの移行 (原文p.35のSankey diagram参照)
多くが中国に由来するもので占められている。昨年を通して通知食品と接触する材料に関する通知は減少し続けており、2016年は全ての通知の4.5%にとどまった。