食品安全情報blog過去記事

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2005年2月8日から17日にローマで開催された第64回JECFA会合の要約

Sixty-fourth meeting, Rome, 8-17 February 2005 - Contaminants [pdf 287kb]
http://www.who.int/ipcs/food/jecfa/summaries/en/summary_report_64_final.pdf
そのうち重要と思われる部分
・遺伝毒性・発がん性のある化学物質に関する助言
JECFAは用量−反応関係について閾値のある有害化学物質について許容一日摂取量ADIや暫定的耐用週間摂取量PTWIを設定してきた。遺伝毒性かつ発がん性のある化合物については、がん原性試験における無影響量NOELは、閾値というよりバイオアッセイの検出限界であると考えられている。そのためJECFAでは遺伝毒性のある発がん性物質についてはガイドラインレベルを設定せず、可能な限り低くas low as reasonably achievable (ALARA)すべきだと助言してきた。そのような助言はヒトへの暴露量や発ガン性の強さについては考慮せず、多数の汚染物質の制御に関する優先順位付けなどができないため、有効性は限定されている。また分析の感度が向上するに従い、食品中に検出される遺伝毒性のある発ガン物質の数が増加する(という事態に対応できない)。
今回JECFAは遺伝毒性のある発ガン物質について議論した。そのような物質についても意味のあるリスク評価方法が発展しつつある。遺伝子傷害性のない発ガン物質についてはこれまで通りPTWIのようなガイドラインレベルの設定が適切であろう。今回は遺伝毒性のある発ガン物質についての手引きである。
ハザードキャラクタリゼーションには齧歯類における発がん性試験での用量−反応データが必要であり、ヒトでの疫学データがあればそれも使える。データが適切であれば、頻度5%や10%というような一定の応答レベル(ベンチマーク応答BMR)になる低い方の片側信頼限界値であるベンチマーク用量下方信頼限界Benchmark dose lower confidence limit(BMDL)を使う。用量−反応関係のモデル作成には多数の条件を考慮し、発ガン過程に重要な生物学的指標を用いる。発がん性については最も感受性の高い臓器での部位特異的発症率を考慮したデータの選択が必要である。ヒト健康影響評価に適当な最小応答量(BMR)としては10%を推奨する。10%以下の発症率では差が大きすぎるからである。10%で統一することにより異なる発ガン物質のリスクの比較が可能になる。発ガン以外の影響についても同様に評価して、リスクアセスメントにおいてどちらが重要になるかを判断する。
暴露(摂取量)評価については他の化合物と同様である。
リスクキャラクタリゼーションには推定暴露量とBMDLの比較を行う。基本的に方法は3種類ある。
・ 暴露マージン(Margin of exposure, MOE)の計算 MOE: BMDL/推定ヒト摂取量 この方法は異なる化合物の優先順位付けに用いる。
・ 観察された用量域外での用量−反応解析 暴露量から理論的に推定されるガン発症率の定量的用量−反応解析
・ 線形外挿 低用量域でのリスク推定はモデルに依存するため、単純にBMDLから直線を引いただけの推定は理論的発症率が異なる場合の暴露量推定のために政治的に用いられる。
現時点ではMOEが最も実際的で利用できる。



・アクリルアミドについて
アクリルアミドの主な毒性発現部位は神経系である。アクリルアミドはAmesサルモネラ試験では変異原性を示さないが、グリシダミドは明確に変異原性陽性である。ほ乳類細胞では染色体異常を誘発し変異原性陽性である。
ラットの発がん性試験では多数の部位にガンの発生が報告されている。IARCの評価ではグループ2Aである。
ラットに飲料水でアクリルアミドを投与した実験から、最も低いBMDLとして総乳腺腫瘍についての0.30 - 0.46 mg/kg bw/dを採用した。
一般人についての推定摂取量平均0.001 mg アクリルアミド/kg bw/dと、特に摂取量が多い集団についての推定摂取量0.004 mg アクリルアミド/kg bw/dは、ラットの神経で電子顕微鏡により観察された形態変化のNOEL 0.2mg/kg bw/dと比較すればMOEはそれぞれ200と50になる。齧歯類における生殖・発生・非発ガンについてのNOEL 2.0mg/kg bwと比較すればMOEは2000及び500で、こうした評価項目については平均的摂取量で有害反応が誘発される可能性はないと考える。ただし非常にたくさん摂取する個人については神経の形態学的変化が起こる可能性は否定できない。現在進行中のラットにおける神経毒性・神経発生影響についての研究結果が出ればより明確になるかもしれない。
ラット乳腺腫瘍誘発についてのBMDL 0.30mg/kg bw/dについては、平均的摂取量0.001 mg アクリルアミド/kg bw/dはMOEは300であり、高摂取群ではMOEは75である。
従ってJECFAはアクリルアミドの低減努力を続けるべきだと考える。
・ アクリルアミドの評価は現在進行中の発がん性及び長期神経毒性試験の結果により見直されるべきである。
・ ヒト暴露量評価
・ 食品中のアクリルアミド低減努力は続ける
発展途上国における食品中アクリルアミドデータが必要。

カドミウム・カルバミン酸エチル(MOEsは平均的摂取量のヒトで20,000、高用量摂取で 3,800)・無機スズ・ポリ臭化ジフェニルエーテル多環芳香族炭化水素(MOEsは平均的摂取量のヒトで25,000、高用量摂取で 10,000。アクリルアミドと比較して問題はほとんどないと結論している)の評価。
食品中アクリルアミドの発ガンリスクは他多くの既知の発ガン物質のリスクに比較して高い。


* この文献はJECFAが遺伝子傷害性発ガン物質の定量評価を初めて行ったもので重要。関係者は本文を是非読んでください。
* MOEの値は大きければ大きい方がより心配する必要が少ない、ということです。