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ホルムアルデヒドの発がん性評価

Assessment of the Carcinogenicity of Formaldehyde [CAS No. 50-00-0]
22.05.2006
http://www.bfr.bund.de/cm/238/assessment_of_the_carcinogenicity_of_formaldehyde.pdf
先のホルムアルデヒドについての意見を出す根拠となった評価文書。
英語プラスドイツ語 PDF 156ページ。
一部紹介
ホルムアルデヒドは環境中に普遍的に存在し、ヒトを含むほとんどの生物の体内で生じる重要な代謝物である。ホルムアルデヒドは刺激臭のある無色の気体である。商業用としては尿素やフェノール、メラミンなどの樹脂の製造に多く使用される。反応性が高いため化粧品などの消費材の抗微生物剤としても使用される。
ホルムアルデヒドは反応性が高いため直接接触すると局所刺激性があり、急性・慢性毒性及び遺伝毒性、発がん性を示す。最近の疫学データがIARCにより再評価された。
その結果IARCはホルムアルデヒドを「ヒト発ガン物質」に分類することを決定した。
BfRホルムアルデヒド報告書はIARCの分類が現行のEUの化学物質規制下に正当化できるかどうかを検討する。
要約
ホルムアルデヒドは吸入や経皮吸収、経口摂取で吸収される。しかしながらホルムアルデヒドは反応性が高いため吸収された局所で反応することと局所で代謝され全身には移行しないため、ヒト・ラット・サルでの生理的血中ホルムアルデヒド濃度(約0.1 mM)は上昇しない。局所反応性のため、ホルムアルデヒドの主な作用は気道上皮や消化管や皮膚などの最初に接触した場所でおこる。
直接暴露された組織ではホルムアルデヒドは遺伝毒性(DNA-蛋白質架橋DPX、DNA切断、染色体異常、小核形成)を示す。吸入により呼吸器でDPXが生じる。ラットでは0.3 ppmホルムアルデヒドで主に鼻甲介側方路にDPXが生じる。サルではDPXが検出された最小用量は0.7 ppmであり、主に中央鼻甲介に検出される。それより低い濃度では試験が行われていないため、DPXを生じない濃度は不明である。最大2ppmまでDPX生成と濃度は直線関係があるが高濃度では細胞傷害性が出てくるため線形にはならない。
DPX誘導は小核形成やマウスリンパ腫試験におけるいわゆる小コロニーなどの変異原性エンドポイントと関連し、DPX生成がホルムアルデヒドの変異原性の前兆と考えられる。

(略)
従ってホルムアルデヒド暴露とヒト鼻咽頭ガン誘導に関係があるとみなす充分な根拠がある。齧歯類とヒト以外の霊長類で用量相関的な細胞傷害性-増殖性及び変性病変が見られる。ラットでは最も影響のある領域から扁平上皮ガンが生じる。標的組織は呼吸上皮である。
従ってEUの分類法に従えば空気中のホルムアルデヒドはヒト発ガン物質(カテゴリー1)に分類される。
この文書ではホルムアルデヒド誘発性の鼻咽頭ガンのリスクアセスメントを行った。
作用機序に基づく「安全」レベルアプローチを採用した。ホルムアルデヒドによる発がん性は遺伝毒性と細胞傷害性の共同作用により、細胞傷害性のある濃度での暴露が齧歯類の鼻及びヒトの鼻咽頭での持続した再生性の細胞増殖を促進する。用量反応相関解析から、DPXの生成は検査した最小暴露量から検出でき、2ppmを超えると非線形となる。しかしながら腫瘍発生はラットでは6ppm、ヒトでは4ppm以上の濃度でみられる。疫学研究の結果から直接安全濃度を導くのは症例数が少なく暴露の詳細情報が不明であるため困難であり、統計モデルから低濃度部分を外挿する必要がある。しかしながらこの方法はモデルの選択に依存して不確実性が高い。そのため別の方法を採用した。ホルムアルデヒドの作用機序からすると発ガンに関連した最も感受性の高い作用は上皮の刺激と細胞傷害性で、動物実験でのみ用量反応が得られている。我々は代わりにホルムアルデヒドによる目、鼻、喉の感覚刺激を選択した。この作用についての用量−反応データは実験やヒトの横断研究で得られる。感覚を刺激する最小濃度は細胞傷害性や細胞増殖を誘発する濃度より遙かに低いと予想される。いくつかの短期及び長期ヒト試験から、感覚刺激最小濃度/0.2-0.3ppmと考えられた。さらにこれらの試験から0.1ppm以下では気道上部の感覚刺激はおこらないと言える。従って0.1 ppmホルムアルデヒドのヒト発がん性安全濃度として提案した。
0.1ppmは鼻粘膜の細胞傷害性閾値の10分の1以下であるため、標的組織の有害な形態学的影響を誘発する可能性を排除するのに充分低い。従ってさらなる安全係数は必要ない。ホルムアルデヒドの発がん性誘発機序に基づき、0.1 ppmという濃度はヒトが暴露された場合の上部気道発ガンリスクは現実的にはない。

(散々あれこれ調べた挙げ句、匂わなければ大丈夫という極めてプリミティブな結論になったのが面白い。)