食品安全情報blog過去記事

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EPAのダイオキシンアセスメントは不確実性を軽視し、発ガンリスクを誇張している可能性がある

EPA Dioxin Assessment Understates Uncertainties, May Overstate Cancer Risk
July 11
http://www.nationalacademies.org/morenews/20060711c.html
国学術研究会議NRCの新しい報告書によれば、EPAによるダイオキシンの健康リスクアセスメント案はリスクについての不確実性を適切に定量評価しておらず、推定に用いた仮定を適切に証明していない。別の推定を用いれば低用量ダイオキシンや関連化合物暴露によるヒト発ガンリスクは、より少なくなる。
プレスリリース
http://www8.nationalacademies.org/onpinews/newsitem.aspx?RecordID=11688
2003年にEPAが提案したダイオキシンリスクの再評価案については、各種の推定を用いてそれぞれの不確実性をもっと説明した上で再評価すべきであるとNRCは薦めている。 EPAはどのようにして、なぜそのデータやモデルを使用したのか、についてより明確に説明すべきである。
不確実性を明確にしないとリスクアセスメントの結論が間違ったものになる。EPAは新しい知見を取り入れ、使用した仮定を明確にすることで透明性と信頼性を向上させることができる。
ダイオキシンとその関連化合物についての懸念はベトナム戦争で使用された除草剤エージェントオレンジ中に検出されてからのものである。ヒトの主な暴露は肉や魚や乳製品からである。ダイオキシン及び関連化合物を削減する努力が続けられた結果近年では環境中濃度は低下している。
EPAが最初にダイオキシンのリスクを評価したのは1985年である。その後新しいデータが出て2003年に再評価案を作成した。1985年の評価ではEPAダイオキシンをヒト発ガン物質の可能性がある"probable human carcinogen"と分類した。2003年案ではヒト発ガン物質"carcinogenic to humans" とした。一方2003年にEPAは化学物質の発がん性分類の新しいガイドラインを発表した。NRCの委員会はダイオキシンの発がん性分類で意見が分かれたが、少なくともヒト発がん性があるだろう"likely to be carcinogenic to humans"とみなすことで合意した。この言い方を選んだのは科学的というより意味論上の問題で、公衆衛生上の意味は同じである。比較的高濃度のダイオキシンの職業暴露と全ガン死亡率の増加には強くはないがやや関連がある。動物実験からもダイオキシンを発ガン物質と分類することは支持できる。
しかし委員会はEPAがどうやってダイオキシンの発ガンリスクを推定したかについては懸念を表明する。データはヒトが通常暴露される量より高濃度の職業暴露や動物実験のものであり、数学モデルが外挿に使用されている。EPAは発ガンリスクを線型モデルのみを使って推定している。この推定は非線形アプローチより高いリスク推定を導く。EPA非線形モデルを支持するデータがないと言うが、委員会はNTPの結果やその他の動物実験のデータから、ダイオキシンが直接DNAを傷害するわけではなく、非線形モデルが適切であることを支持していると述べる。非線形モデルではより低い推定リスクとなるであろう。この報告書では線型モデルと非線形モデルの両方を使って発ガンリスクを推定し、それぞれの特長と弱点を説明するよう求めている。
さらにEPAが選択した1%増加用量についても、そのような極僅かな増加量を検出するにはデータが不足していることを指摘している。また参照用量の使用についても無意味であると指摘。ダイオキシンが免疫毒性がある可能性については合意するものの「いくらかの用量で"some dose level"毒性がある」というのは適切ではない。この問題については低用量のダイオキシンがどういう生物学的メカニズムで免疫系に影響するのか、動物での実験結果をどのようにヒトにあてはめるのかについて、より詳細に検討すべきである。
報告書全文は以下から購入できる 240ページ PDFで26.5$
(無料でも読めるけど読みにくい)
http://www.nap.edu/catalog/11688.html
要約は無料でPDFがダウンロードできる
http://dels.nas.edu/dels/rpt_briefs/dioxin_brief_final.pdf
6ページ
線形モデルによる推定と非線形モデルによる推定の概念図グラフがあるのでわかりやすい


このニュースをScience NOWでは以下のように伝えている
ダイオキシンの危険性はもっと小さい?
Dioxin Less Dangerous?
11 July 2006
http://sciencenow.sciencemag.org/cgi/content/full/2006/711/1?etoc
米国科学アカデミーNASによれば低用量ダイオキシンの発がん性はEPAリスクアセスメント案にあるほど強くない。
現在ダイオキシンの排出は1987年より90%低下しているが世界中の土壌や水系からフードチェーンに入り動物脂肪に蓄積されている。動物実験では腫瘍や出生時欠損などの毒性が示されているが、長期低用量暴露による一般人に対するリスクは評価が難しい。
1985年の最初のリスクアセスメントEPAダイオキシンをヒト発ガン物質の可能性がある"probable human carcinogen"と呼んだ。2000年にはその発ガンリスクをそれまでの10倍高く見積もった。これが議論を呼び、各機関によるワーキンググループが合意できなかったためNASにレビューが依頼された。
NASの委員会による重要な発見は低用量発ガンリスクを(閾値のない)単純な線形と想定するのは科学的に適切ではないということである。ダイオキシンの発がん性には閾値のある非線形の用量反応関係も想定すべきである。実際にEPAによるダイオキシンの発がんリスクは過大評価であろう。


注:EPAは1980年代にダイオキシンに安全なレベルはなく、どんなに少量でも、有害であると結論した(線型モデル)。分子生物学者が例え1分子でも細胞内の受容体に結合すれば毒性影響が出ると主張した。これに対して専門家が過剰評価だと異議を唱え、1991年から見直しが始まった。その結果1994年には引き下げるどころかさらに毒性影響を大きく見積もった評価を行った。これに対してはEPAの科学助言委員会SABが改訂を求め、書き直した。その結果提出された再評価で1985年の推定の30倍高い発ガンリスク、すなわちバックグラウンド濃度のダイオキシンによる発ガンリスクを1000人に1人から100人に1人の間である、と推定していた。これがあまりにも現実的ではない数値だったため議論を呼んでいた。この数値を元に養殖サケを食べるなとかいうEU諸国を巻き込んだ騒動が続いていた。
ダイオキシンについてはヨーロッパよりアメリEPAが最も厳しい数値を出しており、EUは現実的対応をしていた。EU予防原則一辺倒ということはない。



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