食品安全情報blog過去記事

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前立腺ガンと農薬暴露についての声明

Statement on Prostate Cancer
4 April 2007
http://www.advisorybodies.doh.gov.uk/coc/prost07.htm
1. 2004年にCOCは、前立腺ガンについての声明を発表し、その中で前立腺ガンと関連する既知の及び可能性のあるリスク因子について議論した。その声明には前立腺ガンとの関連が疑われている職業集団や化学物質暴露に関するデータや疫学データの評価も含まれた。考慮されたのは二つの職業集団で、ゴム産業労働者については前立腺ガン増加に関する信頼できるデータはなく、農家/農場労働者/農薬散布者については、以下のように結論した:
「・・・・農家/農場労働者においては農薬暴露と前立腺ガンリスク増加に関連があることを示唆する限られた根拠がある。そのような関連がある可能性は過小評価できず将来の研究成果について文献のモニタリングを継続すべきである。委員会は農薬、特に除草剤暴露量測定法の改善の必要性を指摘する。農家や農場労働者の除草剤使用との関連の可能性については評価を継続すべきである。」(COC, 2004)
2. 最近DEFRAのPSDがCOCに対し、産業医学研究所Institute of Occupational Medicine(IOM)により行われた「前立腺ガンと農薬暴露に関する机上研究」(IOM, 2006)報告書を検討し2004年の声明に変更があるかどうかについての助言を求めてきた。同時にCOCは新しく発表された農薬製造業者における前立腺ガンリスクに関するコホート研究のレビューとメタ解析(Van Maele-Fabry et al, 2006)についても検討した。ここにその結果を報告する。
3. IOM報告書は職業的農薬暴露と前立腺ガンリスクの疫学と、何らかの関係があるとすれば考えられるメカニズムについての物語的レビューである。この報告書では農薬に暴露された製造工場労働者の疫学研究では前立腺ガンリスクの増加は見られなかったと結論している。さらに農薬に暴露された農業労働者についての多数の研究があるがその結果は一致せず、多くの報告では関連はない又は結論はだせないとし、僅かに関連があるとする報告があるのみであるとも結論している。この報告書では農薬がアンドロゲン不均衡による内分泌攪乱作用により前立腺ガンを誘発する可能性を提示している。この提案はある種の化学物質が若齢マウスにおいて前立腺ガン重量を増加させる可能性があるとしたデータに基づくものと推定されるが、それらのデータは他の研究者により再現性がないと批判されている。さらに農薬は同じグループの化学物質ではなく、異なる構造や生理活性を持った化合物からなる。従って全ての農薬に単一の作用メカニズムがあることは考えられない。
4. Van Maele-Fabryらによるメタ解析 (2006)は農薬製造工場で働いていて農薬に暴露された可能性のある労働者についての16の研究について行われたものである。この解析で頻度と死亡の両方から全体的メタリスク比として1.28 (95% CI 1.05 -1.58)を導いている。農薬を特定の化合物クラス分類にするとリスク比が上がるが有意差がついたのはポリ塩化ジベンゾ-p-ダイオキシンとポリ塩化ジベンゾフランに汚染されていたフェノキシ除草剤のみであった。この解析には、例えば前立腺ガンのリスク因子についての知見が乏しいため交絡因子の補正が十分でない可能性があるなど未解決の方法論上の問題があることを追記しておく。
5. 今日までの農家/農場労働者や農薬製造労働者の農薬暴露についての個々の研究は、前立腺ガンとの関連を一致して支持するものではない。Van Maele-Fabryらによるメタ解析 (2006)は、製造業者における前立腺ガンと農薬暴露についての弱い関連について限定的根拠を与えるものである。個々の論文に基づく物語的レビューと、型どおりのメタ解析で結論が違うというのは珍しいことではない。入手できるデータからは因果関係は推定できない。我々はこの件についての文献監視を続けることを推奨する。