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DDT禁止の遺産、レイチェルカーソンの遺産

The Legacy of the DDT Ban, the Legacy of Rachel Carson
June 6, 2007 P
Patricia Ludwig
http://www.acsh.org/factsfears/newsID.973/news_detail.asp
マラリアは毎年世界中で100万人以上を死亡させ、そのうち多くが5才以下の子どもである。世界人口の約40%がマラリアに感染する危険があり、最もリスクが高いのはサハラ以南のアフリカである。この病気は第二次世界大戦後にDDTを使って根絶させたヨーロッパや米国などの先進国では問題ではない。
DDTマラリアを運ぶ蚊を殺すだけではなく、蚊を刺激して刺せなくしたり忌避させたりする。米軍はマラリア対策のために1944年にDDTを導入し、他国がそれに続いた。南アフリカは1946年にDDTの使用を始め、トランスバール州でのマラリアを1942-43年の10%にまで削減させた。DDTはそれほどマラリア対策に有効であったために Paul Muller博士は1948年にDDTの発見によりノーベル賞を受賞した。

沈黙の春DDT
この成功をよそに、レイチェルカーソンの1962年の「沈黙の春」の発表に勢いを得た環境保護主義者たちがDDTの禁止を政府に働きかけた。彼らの主張は二つで、DDTは発ガン物質で乳ガンのリスクを増加させるということと、益虫や水棲動物や鳥、特に白頭ワシに有害影響があるというものであった。発ガン性があるという主張はマウスに高濃度を投与した場合にガンの頻度が増えたという研究に基づくもので、ヒトでは関連は見られなかった。血清中DDT濃度の高いベトナム女性における研究ではガン頻度の増加は見られなかった。
さらに鳥に対するDDTの影響も環境保護主義者たちが主張するほど大きなものではなかった。米国魚類野生動物庁の1966年の報告書では、環境中に遭遇する濃度のDDTでは白頭ワシやその卵に影響はないだろうと結論している。1970年にPesticides Monitoring Journalに発表された論文でさらにDDTの残留濃度と白頭ワシの卵の殻の薄化には関係がないことを確認している。卵の殻が薄くなるという主張はDDTを環境中に存在するより高濃度に暴露した実験や、カルシウム不足の餌を食べさせた鳥での実験に基づいている。こうした証拠があったにも関わらず、環境保護主義者たちや反化学物質活動家たちの主張が勝ち、1972年6月14日にEPAの長官William RuckelshausはDDTの使用を禁止した。

禁止の影響
EPAによるDDTの禁止に他の多くの国が倣い、マラリア対策のためのDDTの使用を中止した。この禁止は貧しい国の公衆衛生援助に大きく寄与しているUSAIDやWHO、ノルウェー開発庁、スウェーデン支援機関Swedish Aid Agencyなどが支持した。援助に頼っていた国々ではDDTが使えなくなった。さらに多くの国ではヨーロッパ諸国が農産物の購入を拒否するおそれがあったためにDDTの使用を中止した。DDTの禁止によりマラリア根絶への道は妨げられた。南アフリカではDDTは1996年に段階的に廃止され、1995年に12,500人だったマラリア患者が1999年には5万人に増加した。しかし再びDDTを積極的に使用し始めた南アフリカの一地方KwaZuluNatalでは2000年には80%減っている。DDTは1950-60年代のように何にでも使う必要はないがマラリア対策のために思慮深く使うのは明確に効果がある。
DDTの代わりに南アフリカなど各国は蚊を殺すために合成ピレスロイドを使い始めた。合成ピレスロイドの問題は効果が弱く高価なことである。DDTの室内散布には一軒あたり2.26ランド(南アフリカの通貨単位)かかるが、合成ピレスロイドであるデルタメトリンでは3.81ランド、シフルトリンでは9.28ランドかかる。さらにヒトだけを刺しマラリアを媒介するA. funestrusはピレスロイドに耐性を獲得した。1950年代には南アフリカからほとんど消失していたがDDTの使用禁止に相関して再興してきている。

DDTへの回帰
DDTは最も安価で最も効果的なマラリア予防方法であり、思慮深く使うことは推進されるべきである。DDTは住居の内壁に安全に散布することができ、寄生虫を運ぶ蚊を殺すことができる。この方法は作物や野生動物に環境影響はない。毎年マラリアで100万人以上が死亡していることから、DDTを使用するメリットは有害影響リスクを遙かに上回る。
最近のレイチェルカーソンの生誕100周年について、我々は彼女の遺産を祝福すべきかどうか疑問である。「沈黙の春」の記述が不完全な統計に基づく感情に訴える逸話であるため、彼女をただ賛美することは不適切である。「沈黙の春」の真の遺産は、もしも保健当局がDDTを使用し続けていれば防ぐことができたであろう数百万人のマラリアによる死者である。
DDTの有効性は明確であり、解決は簡単である。アフリカの数百万人の子どもたちの命を救うために、DDTの使用制限は解除すべきである。