食品安全情報blog過去記事

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グリーンピースヨーロッパユニットの発表関連

ヒト食用に認可されているモンサントのトウモロコシは有害の可能性がある、と新しい研究は警告する
Monsanto maize approved for human consumption potentially toxic, warns new study
14 June 2007
http://www.greenpeace.org/eu-unit/press-centre/press-releases2/seralini-NK603
モンサント社の行ったラットでの混餌投与試験の結果をCRIIGENの Gilles-Eric Seralini教授が再解析したところ有意差が60個あった。このデータはモンサント社認可申請の際にEFSAに提出したもので、EFSAもモンサントも生物学的に意味のある差はなかったと判断したものである。

詳細はCRIIGENのサイトに掲載されると書いてあるが、まだ掲載されていない。
(6月14日付けなので共同通信はこれのNK603をMON863と混同したのか?)


EFSAのNK603についての意見は
Opinion adopted by the GMO Panel on 25 November 2003
1 March 2004
http://www.efsa.europa.eu/en/science/gmo/gmo_opinions/176.html
この意見の中で、ラット90日間試験について言及されている
http://www.efsa.europa.eu/etc/medialib/efsa/science/gmo/gmo_opinions/176.Par.0001.File.dat/opinion_gmo_03_final_en1.pdf
8ページ目
安全性評価の項目のうち毒性の中の一項目
GM食品/飼料の安全性
トウモロコシNK603を混餌投与したラットにおける亜慢性(90 日間)毒性試験。非GM又はGM NK603トウモロコシを与えたラットで測定した臨床的、生化学的、組織学的パラメーターに、高用量投与群のメスにおけるわずかな平均赤血球容積(MCV)と平均赤血球ヘモグロビン(MCH)の上昇を除き、一定の差はない。MCVとMCHの二つのパラメーターは他のデータ(それぞれヘマトクリット/赤血球及びヘモグロビン濃度/赤血球)から計算され、他に処置に関連した影響は見られていないことから、サンプリング時点での僅かに高いヘマトクリット又はヘモグロビン濃度と、僅かに低い赤血球数のために生じた技術的差異であることが示唆されている。またこれらの差に生物学的に重要な意味はないと申請者は結論している。GMOパネルもこれが筋の通ったデータの解釈だとして受け入れる。さらにGMOパネルは選ばれた餌の用量(餌の11%と33%)は実験動物の栄養バランスを壊さない適切なものであることも認めた。標準実験用齧歯類飼料は 約33%のトウモロコシを含む。


(いくつかのパラメーターで統計上の有意差があることと、それが毒性だとすることの間にはかなり隔たりがある。多数の検定を行った場合、5%程度の危険率で全てに有意差がつかないということがあればその方が異常事態であろう。)


さらにNK603とMON863の掛け合わせ品種についても意見が出されている。
Opinion of the GMO Panel on an application (Reference EFSA GMO UK 2004 06) for the placing on the market of insect-protected glyphosate-tolerant genetically modified maize MON863 x NK603, for food and feed uses, and import and processing under Regulation (EC) No 1829/2003 from Monsanto
6 July 2006
http://www.efsa.europa.eu/en/science/gmo/gmo_opinions/1032.html
ここでもMON863 x NK603のラットでの90日間混餌投与試験が行われており、有害影響は見られていない。



先のCRIIGENのセラリーニ教授によるMON863の件についてはこれまで以下のニュースを取り上げてきた
・EFSA
最近のCRIIGENによるMON 863トウモロコシに関する発表についてのEFSAの声明
http://d.hatena.ne.jp/uneyama/20070316#p12


・オーストラリア・ニュージーランドFSANZ
ファクトシート更新:MON863安全性評価
http://d.hatena.ne.jp/uneyama/20070322#p13


・ドイツBVL
遺伝子組換えトウモロコシMON863のラット混餌投与試験についての背景情報
http://d.hatena.ne.jp/uneyama/20070326#p9


・EFSA
最近のCRIIGENのMON863トウモロコシについての論文に関するEFSAの声明 更新
http://d.hatena.ne.jp/uneyama/20070327#p6


・ドイツBfR
MON863トウモロコシのラットにおける90日間試験:健康リスクはない
20.04.2007
http://d.hatena.ne.jp/uneyama/20070423#p10


周辺情報からは今回のNK603の話は、このMON863のケースとほぼ同じ経緯をたどると思われる。


ところで、GM作物の安全性評価については、混餌投与試験はもともと必須ではない。
動物実験をどういうふうに利用していくかについては現在議論が行われている。
EFSA
EFSAはGMO給餌試験のパブリックコメントを募集
http://d.hatena.ne.jp/uneyama/20061218#p13
Safety and Nutritional Assessment of GM Plant derived Foods/Feed
The role of animal feeding trials
http://www.efsa.europa.eu/etc/medialib/efsa/science/gmo/gmo_consultations/gmo_animalfeedingtrials.Par.0002.File.dat/gmo_AnimalFeedingTrials_consultation.pdf
パブリックコメントは終了している
GM植物については、修飾部分の安全性評価に加えて組成や栄養の分析は不可欠。
・ 90日間混餌投与試験が検討されるのは組成が大きく変わった場合や、遺伝子改変による意図しない影響が示唆される場合。
OECD ガイドラインとはこれ
Test No. 408: Repeated Dose 90-Day Oral Toxicity Study in Rodents
http://titania.sourceoecd.org/vl=5760853/cl=19/nw=1/rpsv/cgi-bin/fulltextew.pl?prpsv=/ij/oecdjournals/1607310x/v1n4/s8/p1.idx
ただしこれは通常の化学物質の安全性評価のためのガイドラインなのでGMには当てはめられない部分が多々ある。
例えば用量は最高用量では毒性が明確に出る用量を設定して、それの数分の1を中用量、低用量と下げていくことが推奨されているが、それはGM作物の場合不可能。もちろん非GMの通常の食品でも無理。
EFSAはOECDGM食品/飼料の評価のための新しいガイドライン作成を求めている。


オーストラリア
FSANZはGM食品の安全性評価について考える研究会を招集する
http://d.hatena.ne.jp/uneyama/20070615#p19


組成が変わらない場合、動物に投与する試験を行っても得られる情報がほとんどないので、昨今の動物実験削減の動きに逆行するようなGM作物の動物での試験を必須にせよとの要求はあまり良いこととは思えない。
カナダのようにGMだろうと通常の育種だろうと新しいものは同じように評価対象になる(こちらの方が理屈には合っている)ような場合、さらに大変なことになる。