食品安全情報blog過去記事

はてなダイアリーにあった食品安全情報blogを移行したものです

EFSAは食品添加物と子どもの行動に関するサウサンプトン研究を評価する

プレスリリース
EFSA evaluates Southampton study on food additives and child behaviour
14/03/2008
http://www.efsa.europa.eu/EFSA/efsa_locale-1178620753812_1178694645855.htm
ヨーロッパの食品安全監視機関の科学者が、ある種の食用色素と保存料安息香酸ナトリウムの混合物の子どもの行動に与える影響関する最近の研究の評価を完了した。この研究は英国サウサンプトン大学の研究者らが昨年発表したもので、これら混合物と子どもの多動との関連を示唆していた(McCann et al, 2007)。
EFSAのAFCパネルは、行動や児童精神医学、アレルギー、統計の専門家らの協力を得て、この研究は調べた添加物混合物が一部の子どもの注意や行動に僅かな影響を与えるという限られた証拠を提供するものであると結論した。しかしながら観察された影響は、この研究の二つの年齢集団や二種類の混合物において一致していない。
全体的な根拠の重要性や、一貫性のなさや影響の相対的弱さ、及び観察された行動変化の臨床上の意義に関する情報の欠如などの不確実性の大きさを考えると、AFCはMcCannらの知見は食用色素や安息香酸ナトリウムのADIを変更する理由にはならないと結論した。
この新しい研究の限界の一つは、混合物を投与されているために子どもに観察された影響がどの添加物によるものなのかわからないことである。
この知見が食品添加物一般あるいは食用色素に特に感受性の高い特定の個人については意味がある可能性があるが、現時点ではそのような感受性の高い人がどれだけ一般人の中にいるのかを評価することは不可能である。
行動の専門家に助言を受けてAFCパネルは、観察された注意や行動の僅かな変化が学校での成績や知能に影響するかどうかがわからないため、子どもたちの行動への影響の意味がどれだけあるのかは不明であると考えた。
2002年から2005年に行われたお菓子やソフトドリンクの調査によれば、これらの色素は頻繁に使用されている。安息香酸ナトリウムもしばしばソフトドリンクに使用されている。AFCパネルは、きれいな色のお菓子やソフトドリンクを飲食する子どもはこの研究で使用された量の添加物と同様の量を摂っている可能性があると結論した。
AFCパネルはMcCannらの研究を、1970年代まで遡った先行研究の知見に照らして評価し、これが一般人を対象にした最大規模の研究であることを認めた。これまでの研究の多くは多動と診断された子どもを対象にしたもので、そのため一般人には当てはめられない。
AFCパネルは現在全ての食用色素の安全性を再評価中であり、McCannらの研究で使用された色素も対象になっている。そのうちAllura Redなどの一部については今年末までに意見が発表される予定である。


McCann らのある種の色素と安息香酸ナトリウムの子どもの行動に与える影響に関する研究の評価結果−AFCパネルの意見
Assessment of the results of the study by McCann et al. (2007) on the effect of some colours and sodium benzoate on children’s behaviour[1] - Scientific Opinion of the Panel on Food Additives, Flavourings, Processing Aids and Food Contact Materials (AFC)
14/03/2008
http://www.efsa.europa.eu/EFSA/efsa_locale-1178620753812_1178694648892.htm
欧州委員会の要請により、AFCパネルは添加物混合物の子どもの行動に与える影響に関する最近の研究の結果を評価し、関連分野の科学的文献を考慮した意見を求められた。
McCann らの最近の研究は、4つの合成色素プラス保存料の安息香酸ナトリウムからなる二種類の混合物の食事からの暴露は、一般の3歳児及び8-9歳児の多動を亢進したと結論していた。同じ研究チームの先の研究では、ワイト島の3歳児において4つの合成色素と安息香酸ナトリウムの混合物が行動に悪影響があるという根拠を示していた(Bateman et al,. 2004)。
この最近の研究ではタートラジンTartrazine (E102)、キノリンイエローQuinoline Yellow (E104)、サンセットイエローSunset Yellow FCF (E110)、ポンソーPonceau 4R (E124)、アルーラレッドAllura Red AC (E129)、アゾルビンCarmoisine (E122)と安息香酸ナトリウム(E211)の二種類の混合物の、子どもの行動への影響を調べた。6つの食用色素のうち5つは合成アゾ色素に分類されるもので、キノリンイエローはキノフタロンである。安息香酸ナトリウムは保存料として使用されている。
この研究には正常から多動に渡る幅広い行動性を示す一般集団を代表する150人の3歳児と144人の9歳児が参加した。ADHDの治療薬を投与されている子どもは含まれていない。総合的多動集計(GHA)スコアがこの研究の主な結果で、このパラメーターは、教師と教室での観察者及び保護者が観察した行動をランク付けしたzスコア、8-9歳児についてはコンピューターによる注意力検査を合計したものである。
タートラジン、ポンソー4R、サンセットイエローFCF、アゾルビン及び安息香酸ナトリウムを含むミックスAで、3歳児のGHAスコアがプラセボ対照群のGHAスコアより有意に増加した(エフェクトサイズ 0.20 [CI 0.01 to 0.39], p<0.05)。
サンセットイエローFCF、アゾルビン、キノリンイエロー、アルーラレッドACと安息香酸ナトリウムを含むミックスBでは、3歳児のGHAスコアに影響は見られなかった(エフェクトサイズ 0.17 [CI -0.03 to 0.36])。
この結果はジュースを85%以上飲んだデータ欠落のない3歳児に限定して再解析しても同じであった。この解析でもミックスAの影響は対照群に比較して有意であった(エフェクトサイズ 0.32 [CI 0.05 to 0.60, p<0.05)。しかしミックスBについては有意差は見られなかった(エフェクトサイズ0.21 [CI -0.06 to 0.48])。
8-9歳児については、85%以上飲んだデータ欠落のない子どもに限って解析するとミックスA(エフェクトサイズ 0.12 [CI 0.02 to 0.23], p<0.05)とミックスB(エフェクトサイズ 0.17 [CI 0.07 to 0.28], p<0.01)で有意な影響が観察された。実験を終了した全ての子どもを対象にするとミックスA(エフェクトサイズ 0.08 [CI -0.02 to 0.17])には影響がなくなり、ミックスB(エフェクトサイズ 0.12 [CI 0.03 to 0.22] p<0.05)には有意差があった。
著者らは合成色素あるいは安息香酸ナトリウム(又はその両方)の食事からの暴露は、一般の3歳児及び8-9歳児の多動を亢進すると結論している。
2002-2005年に行われた調査によれば、使用された色素はお菓子やソフトドリンクに良く使用されているものである。きれいな色のお菓子を食べる子どもではこの研究で使用された量の食用色素の1つ又はそれ以上に同等量暴露されている可能性がある。きれいな色のソフトドリンクを飲む子どもでも同等量に達する可能性がある。安息香酸の量についても同様である。
AFCパネルはスコアの標準化と合計に用いたステップは数学的変換で、全体の統計解析に必須のデータの正規性と独立性推定に影響すると考えた。そこで著者らの一次解析をより正当性のある通常の統計モデルを用いて繰り返し、結果を解釈するための一助とすべく一連の追加解析により補完した。
EFSAが行った再解析では、全ての単一変数(個人のベースライン値を引いた)を正規化せずに使用した。この再解析はここのパラメーターでも集合スコアでも行った。
その結果、再計算したGHAスコアはもとの論文にある結論と以下の点を除き概ね同様であった。
(1)ミックスAとプラセボの比較では3歳児全員を含めると有意差はないが、85%以上摂取して完全なデータがある集団での有意差が僅かに増加した。
(2)8-9歳児については、ミックスAとプラセボにどの摂取群でも統計学的有意差はない。
さらに保護者のスコアを含まない改変GHAスコアについても解析した。8-9歳児の完全修了者におけるミックスB対プラセボの場合を除いて統計学的有意差は消失した。
さらに保護者のスコア、教師のスコア及び観察者のスコア、8-9歳児についてはコンピュータのスコアの単一変数の全てのデータセットについて解析を行った。その結果3歳児に見られたミックスA対プラセボ及び8-9歳児に見られたミックスB対プラセボの有意差は主に保護者のスコアによるもので、8-9歳児の男の子についてはコンピュータスコアによることが示唆された。
AFCパネルは、全てではないが一部、食用色素の子どもへの影響を報告した先行研究があること、それらの研究の多くは多動又はADHDと診断された子どもを対象にしていることを注記する。
AFCパネルはMcCann らの研究は、食用色素と安息香酸ナトリウムの二種類の混合物が、一般人から選んだ一部の子どもの活動や注意に、全ての年齢の全ての子どもに見られるものではなく混合物の間に一致はない僅かな、統計学的に有意な影響を与えるという限られた根拠を提供するものであると結論した。従ってこの知見は食品添加物一般又は特に食用色素に感受性の高い特定の個人に意味のある可能性はある。
しかしながら一般集団にそのような感受性の高い人がどのくらいいるのかは評価できず、個々の添加物への感受性についての信頼できるデータはない。
このような僅かな注意や活動量変化が学業やその他の知能に影響するかどうかわからないため、観察された影響の臨床上の意義についても不明である。もしこのような研究に症状の重い子どもたちが多く含まれるなら機能不全スケールや問診により評価することで臨床上の意義が明らかにできるかもしれない。
従ってこの新しい研究では多数の不確実性があり、そのうちいくつかは先行研究でも同じである。それには以下のようなものがある。
・ 子どもの年齢や性、調べた二つの添加物混合物の種類及び観察者(保護者、教師、独立した観察者)による結果の一貫性の無さ
・ 新しい指標GHAの臨床上の意義が不明
・ 小さなエフェクトサイズの意義が不明
・ 個々の添加物の影響を調べるための実験計画がなされていない
・ 用量反応性情報がない
食品添加物の行動への影響を誘発する生物学的にありそうなメカニズムが考えられない
AFCパネルは、McCann らの研究は、試験対象とした合成色素と安息香酸の2つの異なる混合物が、ADHDで投薬を受けている子どもを除いた一般人から選ばれた子どもたちの活動量や注意に対して、僅かな統計学的に有意な影響 (両方の年齢集団で有意ではないが) を与えることについての限られた証拠を提供するものであると結論した。
個々の添加物ではなく混合物で調べたため観察された影響がどの成分によるものなのかはわからない。
観察された影響の臨床上の意義は不明である。
全体的な根拠の重要性や、一貫性のなさや影響の相対的弱さ、及び観察された行動変化の臨床上の意義に関する情報の欠如などの不確実性を考慮すると、AFCはこの研究の知見は食用色素や安息香酸ナトリウムのADIを変更する理由としては使えないと結論した。